軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「えっ、もう」

翌朝九時、C-243の入口。

霧島と真凛が入口の手前で配信機材を立てていた。三脚にスマホ。配信プラットフォームの管理画面に、視聴者数のカウンターが表示されている。

真凛曰く、まだ配信開始前だが、待機ユーザーが八万を超えているそうだ。

霧島がスマートウォッチをいじりながら、こちらを見た。

「篠塚さん、無理はしないでくださいねぇ。あ、無理しないでって言うのもアレですけど、何かあったら、撤退してくださって構いませんから」

「分かった」

装備を確認した。剣、革鎧、ヘルメット、腰の非常薬。今日は予備の短剣を一本追加した。

配信を開始した。スマホのカメラが俺を捉える。コメント欄が一気に流れ始めた。

『出た』

『おっさんだー』

『今日は何ダンジョンですか?』

『松本さんの仇?』

階段を降りた。

浅層の空洞。昨日処理した三体の死骸の腐敗が進んでいる。

奥の岩の裂け目を通って、中層へ。

空気が変わった。鉄錆の匂いが強くなる。岩肌に黒い斑点。これは血だ。古い血。

広い空洞に出た。

いた。

七体。岩蜥蜴の上位変異種。赤い目。三倍サイズ。黒ずんだ甲皮。一番奥に一回り大きい個体。群れの主か。

視線がこちらに集中した。

配信のヘルメットカメラ越しにもその凶暴さは伝わるだろう。

最初の一体が突進してきた。横に避けて、首の脇を斬ってみる。甲皮が硬い。だが、園田チューニングの装備。あっさりと内側まで届いた。一体目は倒せた。

今度は二体目、三体目が同時に来た。剣で一体目を払いながら、短剣で二体目の目を突き、返す刀で三体目を斬った。

甲皮の砕ける音と岩蜥蜴の悲鳴が響く。

四体目、五体目を同じようにで処理した。園田が出してくれた新しい刀身、これは良い。

六体目を斬った瞬間、群れの主が突進してきた。サイズが大きい。普通の岩蜥蜴の四倍はあるだろう。剣を振ってみた。甲皮が分厚い。

甲皮の部分じゃ埒が明かない。こうなったら。

側面に回り込んで、関節の一点を斬る。甲皮の隙間で剣が通った。続けて二撃目。前肢を切り落とす。三撃目で首。

よし、完了。

死骸を岩壁の脇に寄せた。甲皮の状態を確認した。素材として使える。持って帰って園田に渡そう。

深層への入口を確認した。岩の裂け目はあるが、それ以外で上位種以上の気配はない。今回の漏出元凶は、群れの主だった。深層からの逸脱ではないようだな。

配信を切って階段を上がった。陽の光が眩しい。

入口の手前で、霧島が口を半開きにして、配信のスマホを持ったまま立っていた。

「えっ、早くないですかぁ?それも瞬殺……。」

いつもの軽い口ぶりは、消えていた。素の声だ。

「だって、四分しか経ってないですよ。」

「今回はそこまでの異常変異じゃなかったからな。C-087だともう少し時間がかかる」

「うっそだぁ……」

霧島がスマホの画面に目を落とした。配信のコメント欄が、まだ流れている。

『は?』

『今、何が起きた』

『四分で七体?』

『地元が一週間張り付いてた相手だぞ』

『これ、本物?』

『一人で七体は人間業じゃないだろ……』

『嘘だろ……』

真凛が三脚からスマホを外して、配信の終了処理をしている。

「視聴者数、ピーク十二万でした。配信中のコメント数、四千超え」

「そっか」

霧島がまだスマホを見ていた。

「篠塚さん、やっぱりすごいですね……」

「そんなことより、腹が減った。帰ろう」

「あ、はい。ええと、撤収、しましょっか」

霧島が三脚を畳み始めた。

昼。役場の会議室。

午前中の対処完了の報告を、町の職員と協会支部長と駐在さんに伝えた。

協会支部長が深く頭を下げた。

「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」

「松本さんによろしく」

駐在さんが規制線の解除手続きを進めると言った。役場の職員が広報の段取りを話している。

霧島がノートパソコンを開いて、本省への報告書を書き始めた。打ち込みが速い。

「真凛、サンプル一枚、こっちで持って帰っていいか」

「はい。園田さんに照合してもらいます」

「頼む」

「あ、それね、私の報告書にも、『C-087の管理権の補強材料として、班側で保全』って一行、入れときますね」

「頼む」

真凛が町の職員と、後始末の段取りを詰めている。死骸の処理、素材の引き取り、地元探索者協会への連絡。

俺は窓の外を見た。役場の駐車場に、子供が一人、絵本を持って立っていた。母親が戻ってくるのを待っているらしい。

あの子じゃない。だが、年は同じくらいだろう。

腹が減った。昼、何か食うか。