軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51.魔王の治療へ

俺は魔王の娘イレイナから、医師として国に来てくれと言われた。

もちろん人間として、世界の脅威である魔王を治すことに思うところはある。

だが相手は病人。それと……。

『現在父は病床に伏し、全軍の指揮権は司令官【ジャマー】が持っています。人間界への侵攻はすべて、ジャマーが行っているものです』

どうやら指揮権がそのジャマーというやつに移ってから、魔王軍は人間界で暴れ回っているとのこと。

『父が回復し、指揮権を取り戻せば世界は平和になります。なにとぞ……』

かくして、俺は医師として、魔王の元へと向かうのだった。

イレイナが転移魔法を使えるため、一瞬で魔王の治める領土へと飛んだ。

魔王城の、王の寝室へ入る。

「これはこれは姫様。無事でありましたかぁ~」

大きなベッドの脇には、首に蛇を巻いた老人の魔族が居た。

杖をつき、ニタニタと笑いながら、おれたちの元へやってくる。

「……ジャマー。あなたがわたくしに刺客を放ったのですね?」

なるほど、イレイナがもし 父親(まおう) を治せる医者を連れてきたら、指揮権が取られてしまう。

だからこの指揮官ジャマーが、彼女の邪魔をしようとしていたわけだ。

「言いがかりも良いところでございますなぁ。証拠でもあるのですか?」

「……もうよいです。あなたは部屋を出て行きなさい。彼の治療の邪魔です」

ジャマーが俺を見て、ぷっ……と馬鹿にしたように笑う。

「おやおや姫様正気でございますかぁ~? 脆弱で非力な、羽虫にも劣る人間ごときに、何ができるというのですかなぁ~?」

仇敵(にんげん) がいるというのに、ジャマーは特段攻撃の意思を示してこなかった。

取るに足らない存在、とでも思われているのだろう。

確かに勇者と比べたら、獣ノ医師である俺なんてちっぽけな存在。

「どきなさいジャマー。先生の治療の邪魔です。お願いします」

俺はうなずいて、彼女とともに魔王のもとへいく。

「………………」

魔王は、ベッドに横たわっている。

目は開いているが、明後日の方向を向いていた。

あーうー……としかしゃべれておらず、人の気配を感じても反応を示さない。

「先生、どうでしょうか?」

「脳が完全にやられてるな。外部から魔法の力が加わった形跡がある」

治癒魔法を使ったのだろう。

基本的に治癒の力は、魔族にとっては毒でしかない。

「それでぇ~? 人間(サル) はいったいどうやって脳を治すというのですか~? 脳はデリケートな器官、一歩間違えれば死んでしまいますよぉ~」

治癒を行うにしても、たしかに普段以上に繊細な作業が必要となってくる。

そもそも獣ノ医師である俺だ、魔族の手術なんてできない。

だが俺には神の眼と、神の手がある。

「よし……いくぞ。俺を信じてくれるか?」

「ええ、すべて、あなた様にお任せいたします」

娘の許可を取り、俺は魔王の頭に両手を乗せる。

「けけけ……! どうせ失敗する。それで死ねば儲けもの。おら小僧! さっさと治療せぬか!」

神の手を発動させる。

パァ……! と強く聖なる光が輝き、そしてすぐに収まる。

「う……うう……こ、ここは……?」

魔王の眼に光がともり、自発的に動き出したのだ。

「なっ!? なんだってぇええええ!?」

ジャマーは驚愕の表情を浮かべる。

「お父様!」

「イレイナ……我はいったい……」

「ジーク様が、偉大なるお医者様がなおしてくださったのです!」

「君が……」

魔王が俺を見て目を丸くし、だが頭を深々と下げる。

「助かった、礼を言う。人間の医師よ」

「どういたしまして。良かったよ、うまくいって」

そのときだった。

バンッ……! と部屋のドアが乱暴に開くと、大量の魔族達がなだれ込んできた。

「こ、困りますなぁ陛下~。あなたにはまだまだ、われらの操り人形でいてもらわないとぉ~」

ジャマーが邪悪な笑みを浮かべながら、俺たちを見やる。

「犯人はおまえだな。魔王にかかっていた治癒魔法の魔力の波動がおまえのものと一致した」

「ま、魔力の形を見抜いたというのですか。す、すごい……」

感心するイレイナ、一方でジャマーはフンッ! と鼻を鳴らす。

「だからどうした。おい者ども! この邪魔者達を殺してしまえ!」

魔族達がいっせいに、俺たちに襲いかかろうとする。

「【 麻痺(パラライズ) 】」

バシッ……! と魔族達の動きを、強制的に止める。

「【 眠り(スリープ) 】」

ドサッ! と魔族達がその場に崩れ落ちる。

「なっ、なっ、なんだその強力な状態異常スキルは!? き、貴様なにもの……まさか勇者か?」

「ただの獣ノ医師だよ」

「ふ、ふざけるなぁ! くそぉ! こうなったら……!」

バッ! と杖を俺たちに向ける。

俺は氷の剣を使って、やつを凍り付かせた。

「これで勇者でないのか。凄まじいな、君の強さは」

魔王は感心したように、そうつぶやくのだった。