作品タイトル不明
50.魔王の娘、新たなお誘い
火竜(最近飛竜から進化した)から、一般人が魔族に襲われていると報告があった。
俺が急いで現場へと向かうと、頭部がクラゲの魔族がいた。
外套を頭からすっぽりかぶった一般人を、触手でがんじがらめにしていた。
俺は氷の剣で触手を破壊し、その人を助ける。
「大丈夫か?」
「え……ええ……。あなたは……?」
「俺はジーク。獣ノ医師だ」
「! で、ではあなた様が……例の……?」
俺はその人を抱きかかえて、その場から飛び退る。
「ふぅむ、やるようであるな~」
「なんだてめえは」
「わしは【毒海月】、侯爵級の魔族である。その【娘】を殺すためにやってきたのだ」
頭はクラゲ、体は人間 (ゴリゴリのマッチョ)が言う。
「この子が何をしたって言うんだ?」
「特に。まあ強いて言えば、そいつが生きていると、【わが主】が困るのだよ」
事情はよくわからないが、クラゲ魔族が他者の命をスナック菓子感覚で奪おうとするのはよく理解できた。
「警告する。ここから立ち去れ」
「はんっ! 脆弱な 人間(サル) 風情が、魔族に命令するなど1000年早い! 死ねぇ!」
びゅるっ! と毒海月が触手を俺に伸ばす。
なかなかに素早く、俺の手足を触手が捕縛する。
じゅう……と皮膚が焼ける音がした。
「ぶははは! その触手が分泌するのは即効性の猛毒! 数秒も経たずに体が溶け落ちてしまうわぁ!」
「まあ、効かねえけどな」
「なっ!? なんだとぉ!?」
全獣ノ医師(パーフェクト・ヒーラー) は状態異常攻撃を完全に無効化する、聖なる魔力を帯びているのだ。
「す、すごい……! お噂通りの凄い御方……!」
感心して俺を見ている女の子。
……しかし、解せないな。
触手攻撃をこの子も受けているはずなのに、毒が効いている様子がない。
「くっ! このぉ! 食らえぇええ!」
毒海月は体を反らすと、口から大量の黒い煙を吐き出す。
毒ではないことは神の眼で見抜けていた。
そして……。
「ぶははは! 死ねぇい!」
毒海月が大きく口を開き、歯を打ち鳴らそうとする前に。
「遅えよ」
俺は高速で接近し、氷の剣を、毒海月の口に突き刺す。
「大方可燃性のガスを使った爆発攻撃のつもりだったんだろ?」
「なっ!? なじぇわかっふぁ!」
口にものを突っ込んでいるから、間の抜けた声になっているな。
「ガスの成分を神の眼で見抜いた。そこから次の行動パターンを予測しただけだ」
「す、すごいですわ……! まるで歴戦の戦士のような戦闘センス!」
俺はそのまま毒海月を凍らせ、粉々に砕いた。
「ふぅ……大丈夫か?」
「はいっ! 危ないところ、ありがとうございましたわ♡」
ててっ、と近づいてきて、彼女が頭を下げる。
「失礼」
俺は彼女の手を取り、腕に火傷の痕があることに気づいた。
「あのクラゲの毒か?」
「ええ、あ、でも平気ですわ」
「平気なもんか。ちょっと待ってな、今治癒してやるから」
女の子は慌てたように首を振る。
「い、いえ! 大丈夫です!」
「安心しろ。おまえが魔族なのはわかってるから」
びくんっ、と女の子が体を萎縮させる。
不思議だったのだ、即死の毒を受けても、この子が無事だったことに。
神の眼を使ってみたところ、この子が魔族であることが判明(羽織っている外套が、認識を阻害し人間に見せる魔法道具なのも)
「魔族といえど、害意のない女子供の命を取る気はないよ」
俺は進化した神の手を使って、魔族の女の子の火傷を治す。
「すごい……たちどころに、火傷が治っている。魔族に治癒魔法が効いてるなんて……こんなの、前代未聞ですわ」
感心したように、女の子がつぶやく。
「良かった、せっかくの綺麗な肌だ、大事にしろよ」
「! ……そ、そんなこと、初めて言われましたわ」
もじもじ、と彼女が身をよじる。
「さて、と。なんで魔族の君が、魔族に襲われていたのか、できれば教えてくれないかな?」
女の子はうなずくと、ぱさり……と外套のフードを取る。
純白の髪に、見事なプロポーションの体を包むのは、夜色のドレス。
彼女はスカートの端をつまんで、深々と頭を下げる。
「イレイナと申します。現魔王の娘でございます」
「へぇ……へ!? ま、魔王の娘!?」
イレイナは上品に微笑んでうなずく。
「ど、どうしてここに……?」
「あなた様に、折り入ってお願いがあり、病床に伏す父のかわりに、わたくしがはせ参じたのでございます」
病気? 魔王は病気なのか……?
「ジーク様、どうか我が魔王の治める国に、医師として来ていただけないでしょうか」