作品タイトル不明
182.黒獣のうわさ
俺はドワーフ娘エナの、行方不明の父親を探すことを宣言した。
「お気持ちは……うれしいのです。でも……その気持ちだけで、じゅーぶんなのです」
エナは辛そうにうつむいて言う。
「あの大穴は、あぶないのです。おとーさん、凄い刀鍛冶で、冒険者でもあったのです。里の屈強なドワーフたちと一緒にいって……帰ってこなかった……」
「なるほど、それだけあの大穴はヤバいってことなのね」
ちーちゃんの言葉にエナがうなずく。
「そこへ入って、帰って来れなくなったら……わたし、もーしわけないのです」
「そんなの気にしなくていい。どのみち穴を調査したかったしな」
「でも……あぶないのです……」
俺の身を案じてくれているのだろう。
優しい娘だ。
「大丈夫です。兄さんは無敵ですから。あなたも白熊猫を前にびくともしなかった兄さんの強さを見たでしょう?」
「でも……【黒獣】には勝てないのです」
「黒獣?」
こくりと、エナがうなずく。
「大穴の中に住む、恐るべき獣なのです。こわいこわい獣なのです」
穴の中でしか動けないらしく、入ったものを問答無用で食らいつくすそうだ。
「そ、そんなヤバいのいたら……街なんてあっという間に滅ばない?」
「大丈夫なのです。黒獣は何があっても、絶対に大穴の外へは出てこないのです」
と、そのときだった。
「たっ、たいへんだ! エナ! いるか!」
「お、おじさん……?」
家に入ってきたのは、大人の男ドワーフだった。
「エナ、逃げるだに!」
「ど、どうして?」
「黒獣だ! やつが穴の外に出てきたんだに!」