軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.両親と兄の反応

両親は互いに目配せをする。

そして父は気持ちを切り替えるよう、わざとらしくゴホンと咳払いをした。

「ずいぶんと時間がかかったようだが、実際足を運んでみて、お前も分かっただろう。ダンジョンはまだ早い。今日の体験をもとに今後の勉強も励み」

明らかに落ちた時の反応だ。

ただ武器を持たせなかったのも、こうして出迎えてくれたのも、ささやかながらに親心があるから。それは理解できる。

だが髪を切って帰ってきた娘に対して、お前は未熟だと言い放つのはいかがなものか。

父は未だ気が動転しているのか、若干視線が泳いでいる。まるで空中にあるカンペを読んでいるかのよう。

ダンジョン行きを許可してから、帰ってきた娘にかける言葉を考えていたのかもしれない。計画が大幅に変更されたことで、ぷちパニック状態になっているのだろう。

だが長々と続くであろう、お説教じみた言葉を聞き続けるつもりはない。

サクッと訂正する。

「試験なら受かりましたよ」

「やはり学園直轄ダンジョンでなければ……ん? 受かった?」

「一発合格です」

戯けたように顔の前にVサインを突き出す。

すると途端に2人は慌て出す。

「そんなバカな! 武器もなくどうやって……」

「そうだ、土神様ね! 土神信者は農民ばかりですから、きっと魔物討伐以外の内容が出たに違いありませんわ」

「ああ、それなら納得だ。だがなぜよりによって土神様を信仰したのだ。あの神を信仰する貴族もいることにはいるが地方貴族、それも三男や四男といった足掻いても後継にはなれない令息ばかりだ。令嬢が信仰するなんて聞いたことも」

「食神です」

再び父の言葉を遮る。

人の話は最後まで聞くべきなのだろうが、両親揃って思い込みで突っ走りすぎだ。小さくため息を吐く。そして改めて「私が信仰しているのは食神様です」と告げた。

「よりによって信仰を失った神を選ぶだなんて……」

「ああ、なんてこと……」

頭を抱える父と、フラリと倒れ込む母。

神様相手にひどい言いようだ。もっとも神様本人が聞いたところで怒ることはないのだろうが。

むしろ「これが普通の反応だぞ」と呆れたように教えてくれる姿が簡単に想像できた。

「信者がほとんどいないので、この髪を見られる機会も、他者と揉めることもないと考えてのことです。何かの拍子にシュバルツ家の人間だとバレたらマズイでしょう」

短くなった黒髪をちょこんと指でつまみながら、家にとってもプラスだと説明する。

両親はムムムと唸り、未だ体裁を気にしている様子。

だが現状、私は公爵令嬢でありながらお茶会に一度も参加していない。6歳になると貴族の子供は必ず王家主催のお茶会に招待されるはずなのだが、12歳になった今でも足を運んだ記憶がない。

当然婚約者どころか友人もいない。

そんな私がマイナー神を信仰していると知られたところで、という話である。他に突っ込まれるポイントが多すぎる。

父はしばらく悩んだようだったが、髪の件もあり、諦めてくれたようだ。

コクンと首を縦に振る。

「まぁ自分で選んだのなら、これ以上は何も言わん」

「あなた!」

「どうこう言ったところで今さら変えられるものでもない。それよりロゼ。遅くなったがお前に誕生日プレゼントを用意した。開けてみなさい」

父は不満げな母を宥めつつ、私に箱を差し出した。縦に長い箱だ。

今まで一度だってプレゼントを用意してこなかったのに……。

あまり期待はせず箱を開く。

中に入っていたのはロケットペンダントだった。

ただし写真を入れるスペースはなく、ロケットの中に細かい模様が描かれている。

「それは防御効果のある魔法アイテムだ。ダンジョンに潜るなら必要だろう」

「はぁ……ありがとうございます」

「それから欲しい教本があるらしいな。ブランから聞いた。こちらも商人に頼んである。後日、お前の部屋に届けさせよう」

希望した覚えはないが、兄が気を回してくれたらしい。

ステータスに危機感を覚えていた身としてはかなりありがたい。

早々にダンジョン行きの話を通してくれていたことに続き、私の中でブランへの好感度がうなぎ上りだ。

あとでお礼を伝えておこう。

その時は怖がらせないように気をつけなければ。

「邪魔するぞ」

兄が部屋にやってきたのは、夕方のことだった。

約束もノックもなく、突然の訪問である。私が目を丸くしている間に、彼はズンズンと中に入ってくる。

一瞬、私の手元を見て眉間に皺を寄せた。

持ち帰った髪をタコ糸でまとめている様子が不気味だったのだろう。私が彼の立場なら、速攻で何をしているのかと聞いてしまいそうだ。

だが彼は何も聞かず、私の頭部を見て、スッと視線を下げた。

短くなった髪にも、机の上にずらりと並ぶ髪の束にも突っ込みを入れるつもりはないらしい。私達兄妹の関係を考えると、仕方ないことではあるが。

かといって来た道を引き返すつもりもないようだ。

手に持っていた箱をクローゼットの前に下ろす。そして箱の中に入っていた服をクローゼットに引っ掛け始めた。

「ちょ、ちょっと待って。いきなりなんですか!?」

正直、服の差し入れは嬉しい。慢性的な服不足に悩んでいるのだ。追加されている服はどれもシンプルで、私好みのデザインだ。少しくたびれた服が目立つのも嬉しいポイント。

ローブで隠れるとはいえ、高そうな服では目立つ。探索中に汚れたり、引っかけたりしても精神ダメージが少なくて済むのも嬉しいポイントだ。

それでも訳もわからぬまま受け入れるわけにはいかなかった。

ベッドから立ち上がり、兄を止める。

だが彼は悪びれもせず、箱から他の服を取り出す。

「入信祝いを持ってきた。僕のお下がりだが、装備品との兼ね合いもあるだろう。一通り揃えるまではこれを着るといい。サイズもロゼ用に直してもらった」

「ありがとうございます。それにしても多くないですか?」

「俺はもう来月にはいないから、足りないより多い方がいいだろ」

「もう王都に向かうんですか? まだ学園が始まるまでは時間あるのに」

思ってたよりずっと早い。翌日すぐに話を通してくれたのはこの辺りの事情があったからなのだろうか。昨日会えたのはタイミングが良かった。

……まぁブランには怖い思いをさせてしまったが。

「入学前にいろんなお茶会に参加して、人脈作りをしないといけないからな。タウンハウスで接待もしなきゃならないし、やることは色々ある」

「へぇ。大変ですね」

率直な感想が口から漏れた。ブランは手を止め、振り返る。

あまりにも無責任な言葉に腹が立ったのかもしれない。

だが私達は血の繋がりのある兄妹でも、立たされている状況も背負っていくものも違いすぎる。前世で30年生きた経験も役には立たない。影ながら、そして将来的にはできる限り離れた場所から応援するだけだ。

彼も何か思うところがあるようだ。

数秒ほどこちらを見つめた後、ポツリと呟いた。

「別にこれくらい大したことじゃない」