作品タイトル不明
28:レッツエステサロン
ギース様に信頼できる方を紹介いただくことをお願いし、それと平行してマッサージ教室の計画を練ることにした。
ゆくゆくはエステサロンを作りたいが、まずはスタッフの育成だ。
その為には、レベルを一定に保つことや、やり方を──ある程度の個人のアレンジはあるにしても──統一する必要がある。
「侍女の皆さんのやり方がどのくらい同じなのかを、事前に確認しないといけないわね」
とは言え、王都と公爵領を気軽に行き来することはできない。
「マティにお願いして進めておくのが良いかしらね」
私たちが王都にいない間は、屋敷の維持が彼女たちの仕事だ。それであれば、そこである程度のカリキュラムを組んで、先ずは皆が統一されたサービスを提供できるように打ち合わせをして貰えば良い。
「ふふふ。いつまでも私が全部監修しないといけないのは、良くないしね。こういうのは部下にどんどん任せていく方が、どちらにとってもハッピーだわ」
あくまでも私は公爵夫人。何かあれば私が責任を取ることをしっかりと皆に伝えて、ある程度の裁量を渡すことも大切だ。
「前世の上司だったアイツらは、裁量は渡さない、責任は押しつける、で最悪だったもんなぁ。気付いたら仕事がどんどん増えていってて……あぁ、思い出したら腹が立つ! 私は絶対にあんな上司にはならないぞ。そして皆もそんな上司にならないように、私が見本を見せていかないと」
この世界は、身分が全てだ。
とても悲しいことだけれど、王国である以上、王様が一番偉くて王族がいて、そして貴族。その貴族も公侯伯子男の順がきちっと決まっている。秩序は守らないといけない。
けれど、だからといってその立場にある人間が、他者を蹂躙して良いだなんて認めたくはない。
……私は、いえレダは蹂躙され続けてきたけどね。
だからこそ、絶対にそんな人間は許さない。
私はされたことはきっちりとお返ししていくタイプだからね。
その話じゃないわ。
そうじゃなくて、身分が全てだけれど、だからこそその中で皆が快適に生きていけるような環境を作ってあげたいのだ。それこそが、上の身分になった人間のするべきこと。
私はそう思っている。
「取り敢えずマティに手紙を書いて……。後はそうね……明日にはエステサロンに良さそうな場所を探しに行かなくちゃ」
「何を探すって?」
「ギース様!」
後ろから声がかかったかと思えば、ふわりと彼の匂いが私の体を包む。後ろから抱きしめられて──椅子ごと、だけど──頬にキスをされた。
「天気が良いな、と窓の外を眺めていたら、あなたが庭で何やら書き物をしているのが見えてね。ついつい声をかけに降りてきてしまった」
「それは……どうも……」
それはあまりにも、私を甘やかしすぎなのでは?
大丈夫? ギース様忙しいのでは?
「仕事はきちんと終わらせたよ」
「……私、顔に出てました?」
「わりとね」
そんなことを言いながら笑う。手で隣の席を促すと、近くにいた侍女が素早くお茶を用意した。
「それで今度は何を考えていたの?」
「タウンハウスの侍女達を講師にして、領内の希望する女性に、マッサージの技術を身に付けさせようと思って」
「マッサージの?」
「ええ。そしてゆくゆくは……といってもそう遠くないうちにですが、マッサージをメインとした女性用のサロンを開くつもりです」
いろいろ考えたが、やはり女性専用にしていくことにした。それが軌道に乗ったら、男性スタッフによる男性のためのサロンも検討しようかとは思うが、そちらはうまくいくかもわからないので、取り敢えずおいておくことにする。
「それは、人が来るのだろうか」
この世界には、エステサロンなんて、考えはもちろんない。だからそう思うのも当たり前だ。
けれど、私には確信がある。
いつの世も女性は美に対して、そしてリラックスすることに対して、興味があるのだ。
それは男性に向けてではない。
自分のために……!
そこを謳い文句にして、私は仕掛けていくつもりなのだ。
……ま、うまくいかなかったときには、また考えれば良いしね。とにかくできることはやっていく。
前世チートみたいなすごい情報は持っていない、氷河期世代の私だけど、だからこそ、知ってることだけでどうにか生き残る意地だけはあるのだから。