軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真実を明かす俺

茫然自失といった真君が正気を取り戻すまで、PCで村人を観察していた。

「嘘じゃ、ないんですね…………はああぁぁぁ」

魂が抜け出していきそうなため息を吐き、ペットボトルのお茶を一気に飲み干す真君。

どうやら、会話が出来るぐらいには立ち直ったようだ。

「まあね。俺が真君の立場だったら、こいつ頭がおかしいんじゃないかって警戒して当然だと思うよ。でも、事実なんだ」

「はい。ちょっと混乱しましたけど、このゲームをやっていたときに抱いた疑問と照らし合わせると、むしろ納得できました」

頭を何度も縦に振り、自分自身に言い聞かせているように見える。

「でも、なんでボクにそんな重要な話をしてくれたんですか?」

「理由はいくつかあってね。一つは全部明かした方が連携が取りやすいから」

情報に齟齬があると、いざというときに互いの足を引っ張ることになるかもしれない。

それに俺は神託でたまに、あの村に行ったことのあるヨシオとして話すので、真君がその神託を目の当たりにしたら混乱する可能性があった。

「二つ目は真君に嘘を吐きたくなかったから」

一緒に村を発展させていく仲間だ。小さな不信感もなくしておいて損はない。

「三つ目は……お願いがあってね。それを頼むには詳しい事情を知ってもらわないといけなかったんだ」

「頼み事ですか。なんだって言ってください! 良夫先輩のためならなんだって!」

鼻息荒く迫ってくる真君。

村人ほどじゃないが、彼も俺を持ち上げすぎて神聖化していないか?

彼が思うほど立派な人間じゃないので、真摯な眼差しを向けられると落ち着かない。

落ち目だったときに手を差し伸べて引き上げてくれる人がいたら、相手の評価が急上昇するのは仕方のないことだと思う。彼みたいな純粋な青年ならなおさらだろう。

だけど、それは尊敬というより依存のような気がして少し不安になる。

「信頼してくれるのは嬉しいけど、そんな大した人じゃないんだよ俺は」

「で、でも」

「もうちょっと気楽に、年は離れているけど友人みたいに接してくれると嬉しいな」

「と、友達ですか。え、えっと、頑張ります!」

だから、そんなに気合を入れるようなことじゃないんだけどな。

今は目が曇っていて何を言っても無駄っぽいが、慣れてきたら変わってくれると信じているよ。

「ごめん、話がずれてしまったね。それで、このことを理解した上で身の回りやネットの情報でもいいから、何かしらの違和感を覚える出来事を見聞きしたら教えて欲しいんだ」

「違和感、ですか?」

「うん。さっき話したとおり、邪神側のプレイヤーが奇跡の力を悪用しているみたいでね。主神側の方々もそれを危惧しているみたいでさ。何かあったら教えて欲しいって頼まれているんだよ」

「わかりました、気をつけてみます」

真君は奇跡を悪用することはないと信じているが、超常の力を操れるというのは誰にとっても魅力的だ。主神側といえど、魔が差すこともあるかもしれない。

実際の話、運命の神からも注意して欲しいと言われている。「邪神側だけではなく、主神側のプレイヤーにも」と。

それからは雑談や今後の村の方針を決め終わった頃には、窓の外が暗くなり始めていた。

晩飯に誘うのも考えたが真君は用事があるらしく、コンビニ前のバス停まで送ることにする。母もまだ帰ってきていないので、結局家族の誰にも紹介は出来なかったな。

あっ、ディスティニーには紹介できたか。

俺が免許を持っていたら車で家まで送れたのだけど、残念ながら俺の愛車はママチャリだ。

「また明日、よろしくお願いします」

「ああ、また明日」

走り去るバスを見送り、帰ろうとしたところで背筋がゾクッとする。

危険を察知して本能に従い振り返ると、バス停に……妹がいた。

たまに営業先から直帰することがあり、この時間に帰ってくることもあるからそれはいいんだが……なんで妹は俺を軽く睨んでいるんだ?

「お、おう、早かったな」

「今日は直帰だからね。それよりさ、今の子は誰?」

同じバスから降りてきたのだから、そりゃ真君を目撃していて当然か。

「最近ゲームを通じて知り合った、友人……いや、今のところはまだ知人かな」

「ふーん、まだなんだ。かわいい子だったね」

不機嫌さを隠そうともしないトゲのある物言いだ。

「かわいいか、本人には言うなよ? 気にしているみたいだからさ」

「なにそれ。じゃあ、美人さんとでも言ったらいいの?」

……何やらさっきから会話が噛み合っていない気がする。

「もしかして、勘違いしてないか?」

「何がよ」

「バイトの後輩でもあるんだぞ」

「へえー、仕事も一緒の後輩キャラなんだ。あんな子に懐かれたら嬉しいよね」

誤解を解こうと思ったら悪化した気がする。……後輩キャラってなんだ。

「ただ、ゲームの話をするために家に呼んでさっきまで遊んでいただけだぞ」

「はああっ⁉ さっきまで部屋に一緒に居たの⁉」

目を剥いて俺に詰め寄ってくる妹。

そ、そんなに驚くようなことか?

「母さんは家に居たんだよね!」

「いや、出かけていたけど」

「あの子……何歳?」

「ええと、十七歳だったかな」

高校を中退して一年だったから、たぶんそうだよな。

俺がそれを伝えると、妹がふらふらとよろめくように後退る。

「…………犯罪者」

「何がだよ! お前、さっきから何か重大な勘違いしてないか?」

「別にー。兄の恋愛事情に口出す気はないけど、未成年に手を出したら通報するのは妹としての慈悲でしょ。それに精華さんにどう言い訳するの?」

ああ、そういうことか。

この話を真君にしたら「また女の子と勘違いされた」って拗ねそうだな。その光景を想像して思わず苦笑してしまう。

「お兄ちゃん、笑い事じゃないんだからね。十歳以上も年の差がある未成年に手を出したら犯罪なんだよ」

「あのな、外でそんなこと大声で言うなよ。誰かに聞かれたらどうすんだ」

たまたま声の届く範囲に誰もいないからよかったけど、こんなの近所の人に聞かれたらあっという間に噂話が広まるぞ。

田舎は情報伝達速度が尋常じゃないから、本当に困る。

「誰かに聞かれたら困ることしている方が悪いんじゃない」

二十代なのに頬を膨らませて怒る姿は昔のままだ。

こんな子供っぽい仕草は会社ではしてないと思うが……してないよな?

「いや、だから、根本から間違っている。あの子は真君っていうんだが、男だ」

「男……嘘だぁ。あんなかわいい子、私の友達にもいないよ?」

「お前、友達に怒られるぞ」

悪びれもなく断言しやがった。

近くで見てないから女の子に見えたのだろうけど……いや、かなり近くからじっくり見ないと判断が難しいか。社長や山本さんも紹介した後でこそっと、

「男女どっちだ?」

訊いてきたぐらいだから。

「とにかく本当に男で仕事の後輩でゲーム友達だ」

「ふーん、じゃあ信じてあげる」

「はいはい、ありがとう」

元々、妹の勘違いなのだから礼を言ういわれはないのだが、これ以上もめるのも面倒なのでそう言っておく。

「でも、お兄ちゃんが友達連れてくるなんて久しぶりだね」

「そうだな。精華を除いたら何年ぶりだ」

真君が久しぶりに他人の家におじゃましたと言っていたが、俺なんて前に精華の家に行ったのは十数年ぶりだったな。

……真君は引きこもりとしては一年のアマチュアの領域だったか。早めに引退出来たようで何よりだ。

「また家に呼ぶこともあるだろうから、そのときは仲良くしてやってくれ。純粋でいい子だぞ、彼は」

「うん、わかった。私の方が年も近いしね。ああいう、ショタっぽい後輩欲しかったんだ。会社の同僚は生意気なのばっかだし」

「間違っても本人の前でショタとか言うなよ」

一応、釘を刺しておく。

本人がそれを受け入れて自分の売りとして活用しているなら褒め言葉なのだろうけど、男らしさに憧れている彼には禁句だ。

そこからは会社が今はどうなっているとか、真君の働きぶりやらを雑談しながら話していると、あっという間に家の前に到着した。

先に妹が扉を開けて玄関に入り、続いて俺が入ろうとしたところでポケットから着信音がした。

スマホを見ると精華から連絡が届いていたので確認する。

『さっき家から出てきた女の子誰?』

背中に突き刺すような視線を感じたので振り返ると、隣家の少しだけ開いた門の隙間から精華が覗き見していた。

……今日、休みだったのか。

さーて、説明をもうひと頑張りしますか!

妹との会話をリプレイしているかのような幻覚に悩まされながら、無事説明を終え自室にたどり着く。

なんか、もう、どっと疲れた。

そろそろ晩ご飯の準備も出来ているだろうと、一階に降りようとしたら、またスマホから曲が流れる。

明るいポップな曲は、あの人専用に設定した着信音か。

画面を確認すると、あの人、の名が表示されていた。

「もしもし」

『やっほー、元気してるぅー?』

思わず耳を離してしまうぐらい、陽気で大きな声。

毎回このテンションで電話してくるんだよな。

「はい、元気でやってます。運命の神様」

『神様はやめてって言ったじゃない。親しみを込めて運ちゃんでいいよ』

「それだと乗り物の運転手みたいになるので。それに今はその呼称はアウトな表現みたいですよ?」

『そうなんだ、昔はみんな普通に使っていたのに。人間の世界って移り変わりが早いよね~。でも、この呼び名だとあの子が怒るか。ってそんな話はどうでもいいんだった。変わったことはない?』

本物の運命の神と話しているとすぐに話が脱線させられるのだが、今回は俺が余計なことを言ってしまった。

「今のところネットでもそういった情報はありませんね」

さっき口にした『変わったこと』とは真君にも話した、運命の神からの依頼に関してだ。

『そっかー。良夫君は邪神側に情報が流出しているから、また狙われる可能性が高いから気をつけるんだよ?』

「肝に銘じておきます」

実際に何度も体験しているから身の回りのことに気をつけるのは重々承知しているのだが、俺のことよりも精華の方が心配だ。

神社での一件と、前回の若社長絡み。二度も巻き込んでしまっている。

『奇跡に関してはもっと規制を厳しくしようとか提案しているんだけど、反対派が多くてね。奇跡というご褒美があるから課金しているプレイヤーも多くてさ。世の中、お金って大切でしょ?』

俗世に染まりきっているな異世界の神々は。

日本では神の力が弱くなり、人に近くなっているので綺麗事では生きていけない、と割り切っているみたいだから、当然と言えば当然の反応なのか。

『あとね、日本でも異世界でも多くの信仰を集めることが出来たら力を取り戻せて、故郷に戻れると考えている従神が結構いるみたいでね。邪神側だけじゃなくて、主神側にも、ね』

故郷とは運命の神様たちが住んでいた異世界のことだ。

邪神と主神に付き従う神々のことを従神と呼び、彼らは神々の争いの影響で異世界から日本の北海道へ流れ落ちてきた。

神の力の大半を失ったが、異世界に残してきた自分の分身でもある聖書を使えば奇跡の力を行使することが出来た。従神たちは日本で生きていくためにゲーム会社を設立、信仰の力を集めるためにゲームを利用することを考え、今に至る。

詳しい事情はもっと複雑なんだが、それは今関係ないか。

「以前話していたように、自然の神のプレイヤーにも事情は明かしておきました」

『うんうん。自然の神は……色々あるんだけど、プレイヤーはいい子みたいだからね。自然の神はちょっとノリがあれだけど』

奥歯に物が挟まったような言い方をしている。

「……ちなみに、自然の神ってどんな感じの神なのですか?」

『えっとね、自由奔放で見た目はこっちの世界で例えるなら黒ギャル? 性格もギャルっぽいよ。写真を送ってあげようか?』

あ、あー、ダークエルフに信奉されていることを考えると納得できる。見た目も性格も気になるぞ。

興味本位で見てみたいが、見ない方がいいような気もする。

「今度機会があれば、お願いします」

『あの子も自分のプレイヤー助けてくれたのを恩に着ていたみたいだから、写真ぐらいなら喜んで撮ってくれるよ』

ノリのいい神様みたいだな。……プレイヤーの真君とは正反対の性格っぽい。

なんとなくなんだけど、プレイヤーと神様を会わせたら…………危険な気がする。黒ギャル風の神様とショタっぽい彼。

ある意味、相性抜群かもしれないが。

『あっと、そろそろ仕事しないと怒られそうだから切るねー。あと、また何かあったら直ぐに連絡よろしくー。バイト代振り込んでおくから』

「ありがとうございます。では、また」

通話を切ってほっと一息吐く。

友人のように話してくれるのでかなり気が楽なのだけど、神様という存在に変わりはない。何度話しても緊張する。

以前、神様の会社で働かないかと誘われて断った経緯があるけど、その際に「じゃあ、バイトでどう?」と誘われて、ゲームの問題点やリアルでのプレイヤーの動向を連絡するアルバイトをしている。

といっても特別なことはしてないので、こんなことでお金をもらっていいのかという罪悪感が消えない。

だけど、今はお金を貯めたいので、神様の申し出をありがたく受け入れることにした。

「さーて、村はどんな感じかな」

やるべきことが終わったので、いつものようにPC机の前に陣取った。