軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒暴星イリス・イルミナス

死王アイシスの最初の配下にして、配下たちのまとめ役である配下筆頭……黒暴星イリス・イルミナス。灰色と黒色の二色のセミショートヘアで小柄な体格ながら、公爵級火力最強と称されるほどに圧倒的な魔力量と瞬間火力を併せ持つ強者であり、特殊な来歴を持つ存在でもある。

彼女はトリニィアとは別の世界で生まれた元人間である。人間としての天寿を全うした際に、その世界に存在していた 心具(しんぐ) と呼ばれる特殊な武器に己の魂を宿すという形で、人としての枠組みを超えて不老となってしまった親友の元にあった。

その親友がトリニィアで最愛と巡り合って救いを得た後は、常識では測れない世界創造の神々の力によって実態を得て、紆余曲折あってアイシスの配下として活動している。

付喪神とでも呼ぶべきか、心具を媒体とする一種のアンデット種と言えるような存在でもあるのだが、本人の自覚としては人間として生きた日々の感覚が強く、また彼女自身が料理を趣味としていることもあっていまの肉体では必要ない食事も毎日行っており、そんな彼女に影響されてか死王配下では朝と夕は皆で一緒に食事を行うようになっていて、イリスはその食事の最高責任者でもある。

故に彼女が居城の食堂に居ること自体は珍しくない。ただ少し珍しい光景として、腕を組みなにかを考えるような表情を浮かべていることだろう。

そんなイリスの目の前の調理台の影から、ヒョコッと狐耳が現れる。

「……なんか、考え事っすか?」

「ウルペクラか……とりあえず、後ろに隠したハムを返せ。それは、明日の朝食に使うものだ」

「ちぇ、なんで分かるんすか……」

「それはお前がワザと気付かれるように盗んでいるからであろうが、貴様ならもっと気付かれんようにも盗めるであろう?」

「でも、本当に盗むとイリス、アタシのご飯減らすじゃねぇっすか、だから気付かれるようにしてるんすよ」

「……いや、そもそも盗むな」

現れた死王配下最年少で悪戯好きのウルペクラを見て、イリスは呆れたようなため息を吐く。悪戯好きのウルペクラは、よくこうして食堂から食材を盗もうとするのだが、毎回必ずイリスがすぐに気付けるようなタイミングで盗む。

イリスの言葉通り、ウルペクラがその気になればイリスに気付かれないように盗むこともできるのだが……それが後でバレると、朝夕の食事を減らしたりデザートを出さなかったりという罰があり、それは避けつつ……さりとてなにかちょっかいはかけたい故に、バレるように盗むという方法をとっている。

「まぁ、それはそれとして……イリスはなにか考え事っすか?」

「うん? ああ、晶花宴が近いであろう? 毎回アイシス様の厚意で参加者に菓子が配られるわけだが、その菓子に関して考えていたところだ」

「新しいの作るんすか? 去年のブルークリスタルフラワーの形のお菓子が好評だったっすし、アレでいい気がするっす」

「確かにアレは上手くできた。毎回恒例の菓子というのもよい。故にあの菓子も出す予定ではあるが、変化も欲しいのでもう一品作ろうかと思っていてな。それを考えているところだ」

去年出したのは和菓子の技術を模して作ったブルークリスタルフラワーの花弁に似せた菓子であり、その美しさも相まって非常に好評だった。

ただイリスとしては、新しい菓子も考えたいということで、今年は二品出すつもりで考えている。

「とりあえず作ってみたらいいんじゃないっすか? アタシ時間あるので、試食役やるっすよ?」

「食べたいだけであろうが……まぁ、いいだろう。丁度、少し思いついたものがあるのでそれを作ってみることにするか……」

ウルペクラの言葉に苦笑しつつ、イリスは調理台に立ち手早い動きで調理を行っていく。中でも目を引いたのはゴゥッと効果音が聞こえてきそうな火柱と表現していい凄まじい炎の上で、鉄鍋を躍らせるように動かしている姿だった。

「おぉっ!」

感心したように声を上げるウルペクラを背に、イリスは時間操作の魔法などを用いて作業時間を短縮化し、本当にあっという間に作り上げた品をウルペクラの前に置いた。

「……プリンだ」

「なんでっすか!? あの調理工程で出てくるのがプリン!? ゴォォォってなってた炎はなんだったんすか!?」

「演出の一環だな。調理をしている感じがするであろう?」

「空の鍋振ってただけなんすか!?」

調理工程からは想像もできない品が出てきた上に、炎だの鍋だのはただの演出だったと聞き思わずウルペクラがツッコミを入れる。

(イリスって真面目でお固いように見えて、たまにこういう小ボケ入れてくるんすよね。アリス様の影響っすかね? そう言うと怒るんで言わないっすけど)

なんとも言えない表情を浮かべつつ、ウルペクラは気を取り直して目の前に置かれたプリンを食べてみることにした。

「……普通のプリンに見えるっすけど……おっ、ああカラメル部分にブルークリスタルフラワーの花を使ってるんすね」

「その通りだ。これなら晶花宴のコンセプトにも合うからな」

本来ブルークリスタルフラワーは食用ではないのだが、ブルークリスタルフラワーの精霊であるスピカなら食用に調整したブルークリスタルフラワーを咲かせることができる。

今回のプリンにもその食用ブルークリスタルフラワーから作った特性のソースが使われており、甘さはやや控えめで爽やかな味わいのプリンに仕上がっていた。

「……美味しいっすけど、見た目的にはインパクト弱くないっすか? カラメル部分まで行かないと、ブルークリスタルフラワー関連って分かんねぇっすし」

「確かに見た目の華やかさは必要か……だが、そちらの方向では例の和菓子の方がよほど優れている故、結局埋もれてしまいそうではあるな」

「というか、別にお菓子に拘る必要は無くないっすか? お菓子の方は例のやつにして、小皿の一品料理みたいなのでもいい気がするっす。どうせ酒飲む連中も多いわけっすし……」

「ふむ……なるほどな」

菓子という点ではブルークリスタルフラワーを模した見た目にも華やかな和菓子にインパクトで負けない品というのは、なかなか難しい。実際にイリスもその辺りで悩んでいたので、ウルペクラの菓子ではなく料理にすればいいという案は良いものだった。

「確かに、それはいいな。食用のブルークリスタルフラワーを使った、酒に合うような品を作ってみるのもよいかもしれんな。ウルペクラ、いい案だ。礼を言う」

「えへへ、役に立ったようならよかったっす。じゃあ、お礼としてこのハムは……」

「それとこれとは話が別だ。ハムは返せ」

「ケチ! 非情! ぺちゃぱい!」

「貴様とて似たようなものであろうが!!」

ウルペクラからハムを取り上げ、非難の声に猛然とツッコミを返した後で、イリスは軽くため息を吐いてハムを一切れだけカットしてウルペクラに差し出す。

「……ほれ、一切れだけだ」

「わ~い」

「プリンを食べた直後によく食べれるものだな……まぁいい。我は改めて料理を考えるとするか……やはり火力は重視したいな」

「なんで花使う料理に火力求めてんすか、火砲馬鹿」

イリスは普段は冷静沈着で頭も非常にいい。戦闘などにおいてもしっかりと戦略を立てるし、指揮能力も極めて高い。そしてそれは私生活にも表れており、様々な面がキッチリとしていて隙が無い印象だが……ひとつだけ大きな欠点がある。

そう、彼女は知識もあり頭も回る。普段からいろいろ考え、備える……だが、それら必要なものを全て整えた後は、本人の好みとして最終的に火力に帰結する。

戦略も立てる。小細工もする。だがそれはそれとして、最終的には特大火力で押しつぶすというのが彼女の戦闘スタイルであり、他の嗜好にも反映される。

料理に関してもいろいろ考えるし、見栄えなどにも気を使うが……最終的に火力が欲しい。派手さが欲しいという結論に達するため、ウルペクラは心底呆れた表情でツッコミを入れていた。