軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

定食屋と狐

人界に合って三世界どこにも属さない都市、かつて人界、魔界、神界の三世界の友好条約が締結された地……偉大なる初代勇者の名を冠した友好都市ヒカリ。

その都市の一角にあるトリニィアから見れば異世界の言語にあたる日本語で水蓮と書かれた店に、ウルペクラはやってきていた。

目的は少し前に会った葵のアドバイスにあったすだちである。すだちは異世界の品であり、この世界にはある程度似た味わいのものはあっても、すだちそのものは自生したりはしていない。

ただし、この水蓮の店主であり過去の勇者役でもある水原香織は、異世界の神たるエデンに貰うという形ですだちが毎日生る木を所持しており、彼女に譲ってもらうのが数少ない入手の手段でもある。

いちおう冥王陣営のノインもすだちを栽培しているのだが、元々は香織から譲ってもらったすだちを育てている形であるため、自身で使用する以外の目的で使うことはなく他者に譲ることもしない。

「すだち? いいよ~はい、どうぞ」

「ありがとうございます。定休日なのに急に来た上に図々しいお願いをして申し訳ないっす。これ、ハイドラ王国で買ったものっすけど、お礼に貰ってくださいっす」

「わっ、ありがとう! 美味しそうなお菓子だね」

定休日に訪れたウルペクラを香織は快く店の中に入れてくれ、二つ返事ですだちも譲ってくれた。ウルペクラは感謝の言葉を伝えつつ、ここに来る前にサンマを買うついでに買ってきた高級菓子を香織に渡し、そのあとは香織が出してくれたお茶を飲みながら軽く雑談をすることになった。

「……サンマで大根おろしを使うなら、もみじおろしも作っておけば味の変化があっていいかもね」

「もみじおろしっすか?」

「うん。鷹の爪……トウガラシだね。それを一緒にすりおろすんだよ。ちょっと赤い色になって、私たちのいた世界にある紅葉って木の葉っぱに色合いが似てるから、もみじおろしって名前なんだよ。辛味と爽やかさがあるから、サンマにはかなり合うと思うよ」

「へぇ、それは勉強になるっす。じゃあ、せっかくだし作ってみて食べ比べてみることにするっす」

定食屋の店主であり料理が得意な香織のアドバイスにウルペクラが頷く、そのまま軽くサンマの調理についての話を進めていく。

それもある程度で終わり、次第に話題はべつのものに……ふたりの共通の知り合いである快人の話題に移っていった。

「……快人くんはさ、本当にいつになったら胃痛のレパートリーが尽きるのかな? 気軽に私の胃を痛めつけ過ぎなんだよ」

「うん? なんかあったんすか?」

「快人くんがさ、少し前にウチの店になんか凄いゴテゴテした白いロボット連れてきたんだよね」

「ああ、それアタシも知ってるかもしれねぇっす。天創機エヴォルカイザーとかってやつじゃなかったっすっか? うちのリゲルが、アレが本場のロボットか~って興奮してたっす」

「そう、それ……なんか、異世界で破滅の混沌との戦いで傷ついて次元の狭間を漂っていたところを快人くんに助けられて修理を手配してもらったとか、破滅の混沌に対抗する異世界の人類の自立型最終決戦兵器だかってアレ……なんでその人類最後の希望的な決戦兵器の天創機エヴォルカイザーを定食屋に連れてきたのあの子!? 入り口が開いて快人くんの後方にSF感満載のロボットいた時の私の気持ちだよ!?」

グッと拳を握って叫ぶ香織を見て、ウルペクラは思わず苦笑する。話題に上がっている天創機エヴォルカイザーは、ウルペクラも見た覚えがある。次元間航行可能なロボットで、この世界にとっては未知の技術の塊ではあったが、ロボを自称しているリゲルは大興奮でいろいろ質問をしていた覚えがある。

「……あれ? でも、あのロボットかなり大きくなかったっすか? 100mぐらいは余裕であったと思うっすけど……」

「いや、なんかサイズ変えられるんだって……それで人間ぐらいのサイズになって店に来たね。焼き鮭定食食べて帰ったし……」

「……食べたんすか?」

「普通に箸使って食べてた。もうどうリアクションしていいか分かんなくて、ずっと頬が引きつってたよ」

香織は思い出す。ロボット連れて来るなんていっそ嫌がらせかと思ったのだが、なんか普通に箸使って綺麗に食事をして帰って行ったエヴォルカイザーを見て突っ込む気力も無くなったことを……。

去り際に「これで、また破滅の混沌と戦えます」と勇ましいことを言って去っていったが……うちの焼き鮭定食を、そんな一つの世界の命運をかける戦いのエネルギー源にしないで欲しいと、そんな風に思ったのを覚えている。

「ま、まぁ、カイト様らしいと言えばカイト様らしいっすね」

「しかも、しかもだよ! それで終わりなら、まだよかった……いや、よくは無いけど、快人くんだしで済ませたんだけど、数日前にまた来たからね! しかも、なんか和解した破滅の混沌こと混沌機カオスメサイアとかって黒いロボットも連れて……ロボット二機連れて定食屋に来たからね!?」

「あっ、続きもあるんすね」

「しかもなんか途中で、焼き鮭定食が上か鰆の西京焼き定食が上かで喧嘩始めるし……なんでロボットが定食の好みで喧嘩してんだって、もしかして私の方が幻覚でも見てるんじゃないかって、全然目の前の現象に理解が追い付かなかったよ。なんか、例によって快人くんの言うことはちゃんと聞いてたから、最終的に握手して一口ずつ交換してたけど……ロボットならせめて、もうちょっとロボットらしい感じで来てくれないかな!? しかも、そのあとに……」

「あ、あはは……」

興奮した様子で愚痴る香織を見て、ウルペクラは思わず苦笑を浮かべて「これは、長くなりそうだ」とそんなことを考えながらお茶を一口飲んだ。