軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者のふたり

アリスの雑貨屋で買い物を終えたウルペクラは、シンフォニア王国の通りを歩きながら少し考え事をしていた。

「……う~ん、やっぱりハイドラ王国に寄って買う方がいいっすね。ついでになにか皆にお土産を……」

アリスの雑貨屋で購入した品を使うには食材が必要なのだが、アリスの店に食材の取り扱いは無いため、どこかしらで必要な食材を仕入れる必要があった。

ウルペクラが買おうとしているのは新鮮な魚であり、魚を買うならハイドラ王国に向かうのがいいだろうと、そう考えた。

そのついでに他の死王配下たちに菓子かなにかのお土産でも買って帰ろうと、そんなことを考えていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あ~ウルちゃんだ!」

「おっ? ヒナさんに、アオイさんじゃねぇっすか、こんなところで奇遇っすね~」

ウルペクラが振り返るとそこには、空色のスカーフを巻いて動きやすそうな軽装に身を包んだややオレンジっぽい明るい茶髪の女性と、土色のケープにローブといった魔導士っぽい服装の黒髪の女性がいた。

柚木陽菜と楠葵……共に異世界人であり、ウルペクラとも顔見知りの相手である。

「ウルちゃん、ハグさせて~」

「はいはい、尻尾はサービスですよ」

「わ~モフモフで気持ちいい~」

嬉しそうに抱き着いてくる陽菜を受け止め、尻尾を伸ばして体を包み込むように抱きしめると、陽菜は幸せそうな表情を浮かべる。

「アオイさんもどうっすか? 手入れを欠かしていない自慢の尻尾っすよ」

「ふふ、ありがとう。本当にフワフワで気持ちいいわね」

陽菜を抱きしめつつ、二本ほどの尻尾を葵の方に伸ばす。葵は軽く微笑みを浮かべてウルペクラの尻尾を手で撫で、その手触りに心地よさそうな表情を浮かべた。

そのまま少しして陽菜が満足して体を離したところで、ウルペクラは気を取り直すようにふたりに声をかける。

「その服装ってことは、おふたりは冒険者の仕事っすか?」

「ええ、指名依頼でね」

「おぉ、最上位冒険者のおふたりにくる指名依頼ってことは、結構大事っすか?」

葵と陽菜は冒険者であり、それもふたつ名持ちの最上位冒険者と呼ばれる最高位に位置する極めて優秀な冒険者である。

そのふたりに指名依頼が来るということは、人界としてはそれなりに大きな案件なのかとそう思って尋ねると、葵と陽菜は顔を見合わせて苦笑する。

「いや、指名依頼は指名依頼なんだけど……」

「僻地の生態及び環境調査ね。なんというか、いつものやつよ」

「あ~おふたりの能力はフィールドワークに向いてるっすからね」

土属性の魔法やゴーレム魔法を得意としている葵に、身体強化魔法を得意としてあらゆる悪路を走破できる特殊な能力を持つ陽菜は、僻地などの調査に適した能力があり、定期的にそういった調査依頼が回ってくる。

「しかも、今回はハイドラ王国の辺境で……私も葵先輩も行ったことが無い場所なんで、早めに現地に向かうとしてるとこだね」

「転移屋で最寄りの街……流石にシンフォニア王国内で探すのは難しいから、一度ハイドラ王国に行って、そこから調査地の最寄りの街への転移屋を探すつもりよ。最寄りの街で宿が確保できるならそこを拠点にするし、難しそうなら、転移魔法の地点登録だけして通いになるわね」

葵と陽菜も転移魔法具は所有しているのだが、そこまで高性能の物ではなく登録できる転送地点も少ないので、出来れば最寄りの街で宿を見つけたいと考えている様子だったが、それより先にまずは最寄りの街までたどり着かないといけない。

転移屋を利用して移動するつもりではあるが、辺境の街となるとその街への転移を請け負ってくれる転移屋を探すのも大変であり、一度ハイドラ王国の冒険者ギルドに立ち寄って募集をかけてもらうつもりでいた。

「……あ~それなら、アタシが送るっすよ? 場所は分ってるんすよね? なら、世界座標指定でちょちょいと転移できるっすし」

「え? いいの? ウルちゃん」

「お安い御用っすよ。それにアタシもハイドラ王国に行く予定だったっすから、その前に街ひとつ経由するぐらい大した手間じゃねぇっす」

転移魔法は非常に高度な魔法かつ個人の得手不得手が大きい魔法ではあるが、ウルペクラは転移魔法は得意な方であり、公爵級の彼女にしてみれば世界座標を指定していったことが無い場所に転移するのも容易い。

葵と陽菜にとっても非常にありがたい提案であり、転移屋を探したり募集したりする手間が省けるため渡りに船と言えた。

「そういえば、ウルちゃんはなんでハイドラ王国に?」

「魚を買うためっすね。えっと、さっきアリス様の店で七輪を買ったんすよ。前にカイト様が、七輪で焼いたサンマを醤油と大根おろしで食べるのは最高だって言ってたっすから、それをやってみようかと思ってるっす」

「お~その組み合わせは間違いないね! なるほど、それでハイドラ王国なんだね」

「っす。やっぱり新鮮な魚って言えば、ハイドラっすからね」

陽菜の質問にウルペクラは少し前にアリスの店で買った七輪を見せながら答え、陽菜が納得した様子で頷く。そのやりとりを微笑まし気に聞いていた葵がふと提案するように口を開く。

「……それならすだちもあるといいかも?」

「すだちっすか……えっと、カオリさんの店で出てくる緑色のやつだったっすかね?」

「うん。焼いたサンマとは相性がいいと思うから、時間があるなら香織さんのところによって貰うといいかも」

「なるほど! 情報感謝っす。後でカオリさんの店に寄ってみることにするっす」

葵のアドバイスにウルペクラは明るい笑顔で頷き、そのまましばらく三人で雑談を楽しんだ後で、ウルペクラの転移魔法によってハイドラ王国の辺境の街へ移動した。