軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子どもたちの春華祭 2

最初は蝶の仮装をして贈り物を運んでくる私をレオナルドも笑顔で迎えてくれていたのだが、往復も四回目となると笑顔もやや引きつり気味だ。

レオナルド以上に頬を引きつらせたいのは私の方なのだが。

「……なんで今年はこんなに多いんだ?」

「テオが勝負しようって言い出したのを聞いてた見張りの人が、気を遣って贈り物を引き受けちゃったんですよ」

さすがに何度も往復するのは辛くなってきたので、これ以上は受け付けないように、とお願いしておいた。

砦と騎士の住宅区入り口の往復だけで、おそらくは普通の子どもがむなしくなるだろう数の贈り物を取り扱うことになっている。

砦への贈り物配達を孤児や貧しい家庭の子の催事にできれば、多少は腹の足しになるかもしれない。

……まあ、そしたら今度は警備の問題で実現は難しいんだろうけどね。

今日グルノール砦へと子どもたちが入ることを許されているのは、私がいることと少人数であること、エルケたちが私の友人だと黒騎士たちに認識されていたからだ。

これ以上人数が増えたり、見張りの黒騎士や門番のまったく知らない子どもだったりしたら、同じことができるわけがない。

私たちだって『こっそり』行くように、とお目こぼし扱いされているのだ。

「来年は禁止しておこう」

「それは止めてあげてください」

極端ではあるが確実に贈り物がなくなる案だったが、即座に却下する。

現在贈り物の配達で迷惑を被っている真っ最中なのだが、他の黒騎士の悲哀を聞いたあとではレオナルドの提案は却下しておいた方がいい。

仕事熱心なレオナルドに引きずられてこちらも仕事ばかりの黒騎士が、出会いの場を逃して婚期が遅れるというのは、なんだか気の毒だった。

せっかくの提案を却下されて不思議そうな顔をしたレオナルドに、砦と見張りの黒騎士から聞いた話を伝える。

レオナルドはまさか自分のせいで砦の黒騎士たちの婚期が遅れているとは思ってもいなかったようだ。

頭を抱えながらも改善案を考える、と約束してくれた。

「……レオもいっぱい贈り物貰ってますけど、お付き合いしてみよう、って人はいないんですか?」

「残念ながら、俺のところに来るのはほとんどがお礼状のようなものだぞ?」

見てみろ、と手渡された手紙に目を通すと、確かに黒騎士の警備のお陰で安心して暮らせるだとか、見回りの強化ありがとうございます、だとか当たり障りのない内容ばかりだ。

とてもではないが恋へと発展を狙った文面とは思えない。

……でも、本当にただのお礼状だったら、わざわざ春華祭を狙うとは思わないんだよね?

どちらかと言うと当たり障りない話題から入ってまず知人になり、段階を踏んで恋人として懐に入り込もうといった計画性を感じる手紙だ。

カーヤにはなかった本気と、粘り強そうな執念を感じる。

「中には好意を持っていてくれるらしい内容もあるが、俺は手紙の送り主のことをなにも知らないしな」

大前提として私と気の合う人間でなければ困る、というのがレオナルドの希望だ。

私と気の合うといえばヘルミーネなどどうか、とお薦めしてみたが、これは自分の方が嫌われているので無理だ、と軽く流される。

せっかくヘルミーネがメンヒリヤの娘から花を貰ったというのに、レオナルドとの間には芽吹くものがないらしい。

「ヘルミーネ先生ならお義姉さんになってくれても大歓迎なんですけど……」

残念です、と唇を尖らせたら、レオナルドに頭を撫でられた。

当分は私だけの兄でいるので、自分のことなど気にしなくてもいい、と。

周囲が夕焼けに染まり始める頃、恋の 仲立人(キューピット) 競争も終了の時刻となる。

意気揚々と戻ってきたテオたちだったが、私たちの鞄からはみ出る菓子の山に自分たちの敗北を悟るのは早かった。

私としては黒騎士参加による勝負は反則な気しかしていないので、勝負は引き分けだと思いたい。

「ずるいぞ!」

「わたしもそう思います」

素直に砦と騎士の住宅区を往復しただけであると告げたあと、山ほどある菓子をみんなで分ける。

労働の対価と考えれば私たちの物だったが、反則でしかないという罪悪感と、エルケとペトロナは裕福な家庭の子であるため、それほど菓子に執着しなかった。

「結局、テオたちはどのぐらいお手伝いしてきたんですか?」

勝負は成立しなくなってしまったので、せめて成果の自慢話ぐらいは聞いてやろう。

街の様子を聞きがてらテオたちの成果を聞くと、ミルシェが五回と一番多く、ニルスとルシオが三回ずつ、テオは一回だけだったようだ。

「仕方がないだろっ! しゅんか祭の手紙の配達なんて、ほとんど一日目で終わってるんだから!」

「そうなの?」

だとしたら、なぜ今日勝負をしようなどと言い出したのか。

そうは思ったが、あえて指摘はせず、他の人の意見を求めてニルスへと視線を向けた。

「……そうですね。みんな春華祭を待って気になる異性に贈り物をするようですから、一番多いのはやっぱり一日目です」

ついでに言うと、恋の仲立人を頼まれる要素として、容姿も影響してくる。

誰だって口汚い薄汚れた子どもに運ばれた贈り物よりも、身奇麗にした言葉遣いも綺麗な子どもに運ばれる一輪の花の方を喜ぶ。

テオたちの中でミルシェが一番多く仲立人になったのも、そんな理由だ。

なにかとミルシェを冷遇していると聞く母親が、春華祭だけはミルシェの分も仮装を用意したのはこの辺りに理由があるのだろう。

まだまだ礼節の足りないテオと躾けの行き届いたニルスたちならば、ニルスたちが選ばれる。

身奇麗なニルスたちと可愛らしい幼女のミルシェなら、ミルシェの方が選ばれる。

今回は別行動だったが、ミルシェとエルケであれば、清潔感からエルケの方が好まれただろう。

……あれ? 普通に勝負してても、もしかして私たちが勝ったの?

それとも大人のカリーサが数に含まれないため、三人対四人でいい勝負になっていたのだろうか。

どちらにせよ、砦にいる黒騎士への贈り物を預かった時点で勝負は御破算となっているので、考えるだけ無駄だ。

……とりあえず、テオの『今年が一番お手伝いできた』って理由はわかった。

レオナルドに諭されて以来、真面目にメンヒシュミ教会で学んでいる効果が出たのだろう。

突然女の子の髪の毛を引っ張っていた頃に比べれば、テオは少し落ち着きが出てきた。

これまでのテオを知っている者からしたら、仲立人を任せてもいいか、と思えるぐらいにはなっているのだろう。

……あとは身奇麗にしたら、来年はもっと仲立人が出来るんじゃないかな。

そうこっそり考えている視界の端で、ミルシェの鞄に山分けした菓子を詰めていたはずのルシオがそっとミルシェの髪に花を一輪挿すのが見えた。

ミルシェは気がついていないようだったが、僅かに髪を撫でてもいる。

……ほほーう?

意外なところで、小さな恋の花が咲いているのだろうか。

好奇心を刺激されてルシオとミルシェを見守っていると、すぐに私の視線に気がついたルシオがこちらを振り返り、慌てて素知らぬ顔をしてそっぽを向いた。