軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レオナルドの合流

さらに安静にすること三日。

予定よりも少し遅いな、と心配になりはじめた頃になって、ようやくルグミラマ砦へと行っていたレオナルドが戻った。

「ただいま、ティナ」

「レオ! おかえりな……」

控えの間へと続くドアを開け、レオナルドが居間へと入ってくる。

近くまで行ってお出迎えをしようと座っていた長椅子に手をついたのだが、肘から肩にかけてズキリと痛みが走り、バランスを崩して長椅子に突っ伏す。

「 痛(い) っ!?」

「ティナ?」

べしゃりと潰れた私に、レオナルドが驚いて大股で部屋を横切ってくる。

室内には護衛が増やされていたが、さすがにレオナルドには反応しなかった。

元からレオナルドの顔を知っていたのか、部屋へとカリーサが通したからかはわからないが、排除対象ではないと判断されているのだろう。

本来の部屋の借主であるのだから、当然とも言える。

「大丈夫か、ティナ」

ひょいっと私の体を持ち上げて、レオナルドは長椅子に座りながら膝の上へと私を座らせる。

止める間もない自然な仕草で膝の上へと乗せられて、普段なら幼児じゃありませんよ、と怒って注意する所だが、今日は久しぶりのレオナルドということでされるがままにしていた。

毎日騒がしくて淋しさを感じる暇もなかったが、やはり自覚はなくとも心細かったのだろう。

せっかく膝の上にいるのだから、ついでにハグでもしようか、と両手をあげたらまた肩が痛んだ。

……ままならないね!

ちょっと久しぶりの保護者にハグをしたかっただけなのだが。

少し腕を上げただけでツキリと痛んだ肩に、苛立ちを感じる。

むうっと唇を尖らせながら自由に動く方の腕でレオナルドに抱きつくと、私の不調に気が付いたレオナルドが左肩を探りはじめた。

「……肩を痛めたのか?」

「肩というより、体半分ですね。今はもうほとんど平気ですけど、手をついて体重をかけたり、腕をあげたりする時たまにズキって痛みます」

痛みのピークは二日目だった。

二日目は打ち付けた部分が痛くて痛くて寝返りを打つのも辛かったのだが、三日目には慎重にやれば寝返りも打てたし、四日目には着替えも苦痛ではなくなった。

そして今はちゃんと着替えも済ませて居間の長椅子に座り、ゆっくりではあったが刺繍をすることができるようになっていた。

うっかりするとまだ痛むことがあるが、ほとんど回復といっても良いかもしれない。

「何があった?」

ひとしきり肩や関節を点検した後、レオナルドの声が一段低くなる。

けっこうな広範囲の打ち身であると判ったのだろう。

普通に部屋へ篭って刺繍をしているだけでは負うはずのない怪我だ。

「ここに来るまでに、誰かに聞きませんでしたか?」

「シードル氏に話があると呼び止められたが……」

まずは私の顔が見たい、と挨拶もそこそこに振り切ってきたらしい。

……シードルさん的には、ホテルの失態として、一番に謝りたかったんだと思うけどね。

とはいえ、何が起こったのかをレオナルドに報告できたとしても、話は途中で終わっただろう。

まずは私の無事を確認したい、とレオナルドなら話の途中でここへ来る気がする。

となれば、結局説明をするのは私になるのだろうか。

ひとまず不足していたレオナルド分を充填できたので、体を離して姿勢を正す。

膝に乗ったまま、というのがなんとも格好悪い気がしたが、座り直すほどでもないと思うので、そのままにした。

「ざっくり言うと……誘拐されそうになりました」

すぐにカリーサが助けてくれたので未遂に終わったが。

ありのままをレオナルドに報告していると、私の怪我は自分が未熟だったせいである、とカリーサが自己申告をしはじめた。

私はというと、カリーサの行動は私を取り戻すことを優先してくれての結果なので咎めるつもりも、その必要もないと思っている。

カリーサはレオナルドに罰を求めたが、カリーサに罰など与えないように、と膝の上でお願いすると、レオナルドは苦笑いを浮かべながら私の頭を撫でた。

「……カリーサには礼を言うべきだと俺も思う。よくティナを守ってくれた。ありがとう」

「……ルド様、いえ、そんな……。私なんて、まだまだ未熟。……私がアリーサぐらい強かったら、お嬢様に怪我なんて、させなかった……」

カリーサの声が震えたと思ったら、くしゃりと表情が歪んだ。

すぐに顔を伏せてしまったので表情は隠されているが、もしかしなくともここ数日一番気を張っていたのはカリーサなのかもしれない。

雇用主の妹が攫われかけ、取り戻すことは出来たが逆に怪我を負わせてしまった、と。

いつも以上に 甲斐甲斐(かいがい) しくお世話をされていた気がするのは、怪我のせいばかりではなかったのだろう。

「カリーサはわたしを助けてくれたんですよ」

するっとレオナルドの膝から降りて、カリーサへと歩み寄る。

カリーサは顔を見られたくなかったのか、私が近づくと下から覗き込むことができないように、膝をおって頭を下げてしまった。

……思いつめなくていいよ、大丈夫だよ。

そんな思いをこめて、撫でやすい位置にあるカリーサの頭を撫でる。

普段は無口で少し引っ込み思案なお姉さんなのだが、たまに子どものようにも思えて心配になった。

これから一年、本当にマンデーズの館の外でやっていけるのだろうか。

……まあ、私の心配なんて、なんの役にも立たないんだけどね。

せいぜいがホームシックになったカリーサの気を逸らすぐらいしか役に立てない気がする。

あとはあまり面倒をかけないよう淑女らしさを身に付けるぐらいだろうか。

ひとしきりカリーサの頭を撫でて宥めていると、レオナルドが腰を上げた。

着替えに行くのかと思ったのだが、足は控えの間へと向けられている。

旅の汗を流して服を着替えるというよりも、改めてシードルの元へと話を聞きにいくつもりなのだろう。

「……おでかけですか?」

「ああ。とりあえず、シードル氏に詳しい話を聞いてくる。ティナは……」

一人で平気か、と聞かれ、少し考える。

一人と言っても私の傍にはカリーサが控えているし、なんだったらディートとバシリアも居る。

部屋で留守番をすること自体は苦痛でもなんでもない。

なんでもないのだが、帰ってきたばかりのレオナルドからすぐに離れるのもなんとなく淋しくて、眉を寄せて拗ねた顔を作る。

「一人でお留守番はできますけど、一緒がいいです」

「……子どもが聞くような話じゃないかもしれないぞ?」

「一応当事者なので、どんなお話でも聞きたいです」

言いながらカリーサの頭を撫でていた腕を下し、レオナルドの手を捕まえた。

内情としてはダメだと言ってもついていくぞ、というやや乱暴な意思を持って見上げたのだが、レオナルドからしてみれば足元の幼女が自分を見上げてくる=上目遣いで見つめられていることになる。

外見の愛らしい妹に上目遣いでおねだりされれば、嫌だと言える兄は少ないだろう。

レオナルドは一度深くため息を吐くと、私の身体を抱き上げた。

「……そういえば、友だちが出来たんだな」

抱っこでの移動中にそんな話を振られ、はて? と首を傾げる。

友だちと言われて思い浮かぶのはミルシェやニルスの顔なのだが、彼女たちはグルノールにいるはずで、ラガレットにはいない。

では誰のことを……と考えて、おもいきり眉をひそめた。

レオナルドが帰って来た際、いつものようにディートとバシリアが部屋に居たのだ。

「ディートたちのことでしたら、押しかけられた? だけですよ」

友だちになった覚えはないです、とレオナルドの顎に剃り残しの髭を見つけて引っ張る。

マンデーズに意図せず移動して以来、愛用していた特注靴がないので、ちょっとした意趣返しをしたい時に足を蹴っても効果が薄い。

現在履いている普通の靴で蹴るぐらいならば、こうして髭を少し引っ張るぐらいの方が余程効果が感じられた。

「押しかけられたって言うんなら……カリーサが追い出すだろう」

「一日三回までならリバーシで遊んであげる、って言っちゃったから、三回遊ぶまではお客様扱いみたいです」

「三回?」

「えっとですね……」

理由(わけ) が解らないという顔をレオナルドがしたので、もう少し丁寧に説明してみる。

最初に会ったのはレオナルドを見送った後で、その後「遊ぶぞ」と襲撃を受けた。

退けたら曾祖父を名乗る老紳士に食事へと招待され、その翌日にまた襲撃を受けたのでカリーサが撃退した。

その際に、少し薬が効きすぎたようだったので、つい仏心を出して「一日に三回までなら遊んでやる」と言ってしまったのだ、と説明した。

一応ディートの名誉のために水溜りの話しは伏せている。

「……そういえば、ディートの曾祖父さんは、レオの知ってる人かもですよ」

「え? そうなのか?」

「エセル様、って言うんですけど……」

「……エセル?」

解りやすく困惑したレオナルドには、名前から思い浮かぶ人物がいるのだろう。

微妙に頬が引きつり、自分の考えを否定するように目が泳ぎ始めた。

「ディートの本当の名前はディートフリート、って言うみたいですよ」

「ディートフリート……様だったのか、さっきの子どもは」

部屋を出る時テオやミルシェにするのと同じように、普通に「妹と遊んでくれてありがとう」などとディートたちの頭を撫でていたが、誰の頭を撫でたのか理解したのだろう。

気まずさを誤魔化すように、若干乱暴な仕草で髪を掻いた。

「しかし、エセルバート様が滞在していたとは……。本当に、変な時におかしな所で遭遇する人だな」

「変なところって、前はどこで会ったんですか?」

「初めて見かけたのは子どもの頃、王都の下町で……浮浪者の格好をして俺の居た孤児院でパンを食べていた」

「ふろうしゃ……?」

国王の代替わりが何年前かは知らないが、レオナルドの子どもの頃となれば、現役だった可能性もある。

仮にも王族が浮浪者の格好をして孤児院に入り込むというのは、いったいどういう状況だったのだろうか。

……あ、水戸のご隠居ごっこ? ここじゃ『ニクベンキ』ってタイトルだっけ?

ご丁寧にもお供の三人に役名を偽名として名乗らせて、世直しのご隠居を演じている。

さすがに「スケベイ」はあんまりだと思ったので一度名前を聞いてみたのだが、当のスケベイにははぐらかされた。

どうも前世日本人である私が聞くと「助平」にしか聞こえなくていたたまれない気持ちになるのだが、この世界で「スケベイ」は「助平」という意味では聞こえないらしい。

似た言葉に「薄い毛」という意味があるらしいのだが、スケベイの髪はフサフサしているため、特に「スベケイ」という響きに抵抗はないようだった。

「……そう言えば、エセルバード様を見たすぐ後ぐらいだったか? 孤児院長が横領だったか何かで変わったのは」

……ご隠居ごっこ、ちゃんと役に立ってたのか。

驚きの事実に、髭を引っ張る腕を下してマジマジとレオナルドの顔を見つめる。

まさか本当にエセルの水戸のご隠居ごっこに実績があるとは思わなかった。

「あの時の爺さんが前国王陛下だった、っていうのは騎士の 叙任(じょにん) 式で初めて知った」

「浮浪者が前国王様だった、ってよく判りましたね」

「いや、俺はすっかり忘れていたんだが……むこうが俺の顔を覚えていたんだ」

……なんていうか、この国の王族って個性的すぎない?

アルフが好きすぎて外見までアルフに似せてきたアルフレッド、その父親である現国王はアルフレッドよりもパワフルだと聞く。

その父親であるはずの前国王は浮浪者の格好をして下町の孤児院に潜入調査を自ら行い、その時に会った孤児の顔を何年も覚えているだとか、私には絶対に真似できそうにない。

……まだディートが一般規格で常識的な王子さまに思えてきた。

冷静に考えれば誤りでしかないのだが。

他の王族があまりにもあまりな様子なので、少し感覚が麻痺してきた。