軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:ヘルミーネ視点 新しい生徒 2

ティナはセークに苦手意識を持っていたようだったが、 棋譜(きふ) を並べさせる勉強法に切り替えたところ、 定石(パターン) を少しずつではあったが理解し始めた。

とても九歳の子どもだとは思えない。

このぐらいの歳の子どもならば、コマの動かし方やルールを覚え、なんとか遊びとしての体裁が整うぐらいだと思うのだが、ティナは勝ち方が解らないと言って躓いていた。

複雑なコマの動かし方やルールはすでに覚えており、問題ではないと。

アルフレッド様やドゥプレ氏が少し教えたとは聞いていたが、ちゃんと理解しているとは思わなかった。

……たまに歳に似合わない優秀な子がいますけど、ティナさんもそうだったようですね。

これは確かに、幼いうちにありとあらゆる知識を仕込んでおきたくなる優秀な子どもだ。

将来どんな知恵者になるのか、今から楽しみである。

アルフレッド様がティナの家庭教師には 私(わたくし) を、と自分を呼び寄せたのも納得できた。

……まあ、保護者の方は、ティナさんの優秀さにまったく気が付いていないようですが。

近頃はようやくセークが楽しくなり始めたようだったが、やはりティナは刺繍に夢中だ。

よほど楽しいのか、時間が出来ればずっと刺繍をしている。

そのおかげで、冬の間かけて縫うはずだったシャツの袖口への刺繍が驚くほど早く仕上がってしまった。

楽しいとは言っていたが、作業が早すぎる。

では雑な仕事をしているのかと思えばそんなことはなく、初心者には複雑な模様を実に 精緻(せいち) な刺繍で彩っていた。

……手が小さいという理由だけでは、これほど精緻な刺繍はできませんよ。

技巧の神ユピンスと芸術の女神アシャンテーの祝福が目に見えるようだ。

ティナは神々に愛されているのだろう。

この才能が活かせる場がどこかにないだろうか。

一家庭内におさめておくだけなのが惜しい才能だった。

神王聖誕祭が近づいたある日、夜の祭見学に行きましょう、とティナを誘ったところ、驚かれた。

どうやら厳しくしすぎたせいで、夜祭などとんでもない、と却下されると思っていたようだ。

……さすがにお祭のような子どもの楽しみを奪うような大人ではございませんよ。

そして、参加するからには大人の行動として許される範囲を見極めて楽しむつもりだ。

主に神王祭の仮装を。

最低でも冬の間の家庭教師をという話だったので、この話が決まった時から仮装については準備をしていた。

指導の厳しさで子どもから苦手意識を持たれることは予想できていたので、その子ども心を掴むために細部までこだわりをもって作り上げた。

生徒(ティナ) のする仮装については事前に保護者が自慢していたので、黒猫であるとも知っている。

そのため当日のティナの保護者として私が作った自分の衣装も黒猫だ。

ただ耳を付けるだけではありきたりだ、と猫の頭部を帽子にして、私自身は猫の胴体になる。

こうすれば少し背の高い黒猫の完成だ。

準備が出来たので早速ティナの部屋の扉をノックすれば、中から出てきたティナは青い目を丸くして驚いた。

よほど驚いたのか数瞬固まっていたので、物のついでに一つ講義を挟む。

貴族のような身分のある者は、自分の衣装にかける金がある。

そのため、普段から奇抜な衣装を着ている方が多い。

一番有名なのは、現在の第六王女だろうか。

自身の 艶(なまめ) かしい肢体を布で隠すことこそが、この美貌を授けてくださった神への冒涜だ、と言って憚らず、よくなめした艶のある皮で僅かに局部を隠しただけの意匠を好んで纏っているらしい。

第六王女は清廉潔白な人柄で知られるアルフレッド王子と同じ母を持つはずなのだが、弟王子とは実に対照的な方である。

夜の街に連れ出したティナは、本当に子猫のようだった。

コートについたフードから突き出した黒い猫耳が、ティナがキョロキョロと周りを見渡すたびに顔を向けた方向へとむいて可愛らしい。

ただ好奇心はあっても、勝手にふらふらと飛び出していかないので、ティナの子守は楽なものだった。

覗きたい店があっても必ず先に私へと了解を取ってくれるので、ティナの前に家庭教師をしていた男児とは比べるまでもない。

「ティナさんは、どこか行ってみたいお店や場所はありますか?」

「お祭の日は 三羽烏(さんばがらす) 亭に行きたいれす!」

神王聖誕祭で行われる一通りの催し物をあげ、まずはと一番わかりやすく、かつ、広場で行われているため絶対に通り過ぎることになる焚き火を見学した。

新しい年まで持ち込みたくない問題や厄を落としたい、と始まった厄落としの焚き火だったが、今では不用品を燃やすだけの催し物になっている。

事前に不用品がないかと聞いていたのだが、ティナの身の回りの物は今年ドゥプレ氏が買い揃えたものばかりなので、古い物も、不要な物もないと答えられてしまった。

……私としては、あの不細工な猫枕を燃やして、新しく良い布で作り直してさしあげたいです。

そうは思うのだが、あの猫枕はティナのお気に入りだ。

当分は手放しそうにないので、燃やせるとしても来年になるだろう。

「ヘルミーネ先生、読んでくらさい」

ティナが唯一自分から希望した食堂につくと、その軒先に並べられた商品にティナが飛びつく。

この海を越えた三羽烏亭という店はお祭のたびに違うメニューを出しているそうで、ティナは毎回それを楽しみにしているとのことだった。

「そろそろティナさんにも読めるのではありませんか?」

「三羽烏亭のメニューは、ナパジの食材が多いのれ、まだ読めましぇん」

そうティナが言うのでメニューを見てみると、確かにナパジ産の食材や調味料が多く使われているようだった。

簡単な文章なら補助がなくとも読めるようになってきたティナだったが、ナパジ独特の食材の名などは読めるわけがない。

「オミアムタスの甘ダレ、と読みます。ナパジ産のオミアムタスという芋を揚げて、甘いタレに絡めたもののようです」

ナパジ料理は独特なので、名前だけではどのような料理なのか想像できないものが多い。

そのため、他にもどんな料理なのか、と説明を求める客が多いのだろう。

最初からメニューに説明が書かれていた。

「……買いますか?」

説明だけ読めば芋を甘いタレで絡めただけのものである。

甘そうではあるが、芋の名前が聞いたこともなかったので、どんな味なのかは想像もできない。

つい私は 躊躇(ちゅうちょ) してしまったのだが、ティナには考える余地もない決断だったようだ。

コートの下から首にさげた黒猫の財布を取り出し、青い目をキラキラと輝かせていた。

「オミアムタスの甘ダレ、二つくらさい!」

「ティナさん、お金なら私が……」

「ヘルミーネ先生にはいつもお世話になってりゅので、わたしに払わせてくらさい!」

あまり見せない子どもらしい満面の笑顔で、そう言いきられてしまった。

敏い子なので、味がわからないのでとりあえず一つだけ買って様子を見てみよう、と思っていたのが悟られたのかもしれない。

半分では嫌だ。一つ食べたい、と。

ティナの顔はすでに店主が覚えているらしく、一つおまけをされてティナがおおいに喜んでいた。

あんまりにも喜ぶので、周囲の視線を集めてしまう。

店としては良い宣伝になっただろう。

その後も軒先でオミアムタスの甘ダレを頬張るティナが感激のままに美味しいと連呼していたので、恐々とではあったが三羽烏亭で足を止める者が増え始めた。

「神王祭はちゃんと仮装をしなければいけませんよ」

「……ありがとうございましゅ」

甘いタレの絡められた芋を口へと運ぶティナの頭から、猫耳のフードがすべり落ちる。

フードの下から出てきたティナの頭には、猫耳もなにも付けられてはいなかった。

これではフードを取ってしまえば、ただの人間の子どもである。

神王祭の夜は、子どもが精霊に攫われる。

そんな迷信があったが、別に信じていたわけではない。

が、それでもやはり気になってティナのフードを直した。

……あら? またですか?

するりとティナの頭からフードが落ちて、黒髪が夜気に晒される。

今度はティナもすぐに気がついて、自分でフードを直し始めた。

片手に芋の入った皿を持っているので、少しやり難そうにしている仕草がまた可愛らしい。

……こんなに可愛い妹の姿が見れないだなんて、ドゥプレ氏にはご愁傷様といったところですね。

そろそろ手伝うべきだろうか、と思ったところで不意にティナの手が止まる。

ジッと通りの向こうを見つめたと思ったら、芋の載った皿を抱いて走り出した。

「ティナさん?」

ここまでお行儀良く、勝手に飛び出す素振りなど見せなかったティナだったが、やはりまだ九歳の子どもだったらしい。

何か注意を引かれるものを見つけ、食事中であることも忘れて飛び出してしまった。

ただ小さな声で『レオナルドさん』と言ったことだけは聞き取れた。

通りの向こうに、保護者に似た後ろ姿でも見つけたのだろう。

「はぐれますよ、ティナさん!」

止まりなさい、と声をかけた瞬間に目の前を大柄な男が横切った。

ティナが視界から消えたのは、この一瞬だけだ。

一瞬だけだったのだが、男が通り過ぎた道の先に、ティナの小さな姿はどこにも見えなかった。

「ティナさん?」

突然姿を消したティナに、慌ててあとを追う。

ティナと自分との距離は歩数にして十歩もなかったのだが、ティナの姿はどこにも見えなかった。

とてもではないが、大男が横切るだけの一瞬で目の届かない距離まで移動することは不可能である。

「ティナさん! 返事をなさい! ティナさんっ!?」

ティナが姿を消した位置に立ち、名を呼びながら周囲を見渡す。

ティナは利発な子どもである。

館の中で隠れ鬼をしているのならまだしも、街中で見失って名を呼ぶ保護者に対して故意に返事をしないなどとは考え難い。

怪しい者はいないか、周囲に子どもが隠れられそうな場所はないかと、名前を呼びながら注意深く観察をする。

そうこうしているうちに、変事を悟った周囲の人間や三羽烏亭の店主が集まってきた。

「女の子を見ませんでしたか!? 黒髪に青い目で、猫耳のついたコートを着ています」

ほんの一瞬視界が遮られたと思ったら、もう姿が見えなくなっていたのだ、と説明しながら周囲の協力を仰ぐ。

自分ひとりで探すよりは、周囲に迷惑をかけてでも他人の手を借りた方が良い。

騒ぎを聞きつけて黒騎士が駆けつけてくれたので、事情をまた一から説明した。

三羽烏亭の軒先で芋を食べていたのだが、レオナルドの名を呼んでティナが通りへと飛び出した。その時に大柄な男が目の前を横切り、一瞬だけティナの姿が遮られて見えなくなったのだが、男が通り過ぎたあと、ティナはいたはずの場所から消えていた、と。

親切な通行人が捜索を手伝ってくれているが、まだ見つからないと説明をすると、黒騎士の行動は早かった。

通りの角に立つ黒騎士や兵士にことの次第を伝え、警備と捜索に分かれてティナを探し始める。

ティナの顔は黒騎士のほとんどが知っていた。

通行人にティナの容姿を伝えて捜索に協力してもらってはいるが、黒騎士の協力はさらに心強いものだった。

子どもの足では一瞬で移動できるはずのない距離まで捜索が広がった頃、白々と夜が明けた。

その頃になると、日付の変わる時間からグルノール砦で団長の代わりに軍神ヘルケイレスを奉る祭祀を行っていたはずのアルフレッド様も捜索へと加わる。

黒騎士の協力を得て、見失った周辺はもちろん、街中を探しているというのに、ティナの姿は見つからない。

人攫いだった場合に備え、街の出入りには検問まで設けられたのだが、それでもティナは見つからなかった。

まさか本当に精霊にでも攫われたのでは、と埒もないことを考えてしまうのは、疲労のせいかもしれない。

「……その犬は?」

「秋に何故かティナを追いかけていた犬だ。ティナ探しに役立つかと思って連れてきた」

アルフレッド様がティナ行方不明の 報(しら) せを聞いて砦から連れてきた黒い犬は、訓練された犬だとひと目で判る。

周囲で人間がざわめいているというのにそれに煽られて興奮することもなく、こちらの話している内容を理解するようにじっと耳を 欹(そばだ) てていた。

黒騎士に捕らえられたという黒犬は、主の言うこと以外は聞かないよう訓練されているようだったが、捜索されているのが執着していたというティナだと理解したのだろう。

一度吼えると、周囲の匂いを嗅ぐしぐさを見せ、鎖も気にせず動き始める。

「……ここは?」

「ティナさんを見失った場所です」

黒犬が頭を上げて腰を下ろしたのは、ティナを見失った場所だった。

すぐ見える場所に三羽烏亭の看板があるので間違いはない。

「振り出しに戻ったわけですね」

犬に頼ったのが間違いだったのだろうか。

黒犬は路地の中央に座ったかと思うと、あとは鎖を引っ張っても、どれだけ話しかけても人間の言うことを聞こうともしない。

じっと何かを待つように座り続けていた。

「……とりあえず、ハルトマン女史は一度館へ戻ってください。一晩中探し続けて、疲れているのではありませんか」

「しかし、私の生徒が、それもまだ小さな女の子が行方不明になっているのです。休んでなど……」

「気持ちは解りますが、一度館に戻って休憩を。着替えて仮眠を取った方がよろしいかと思います」

疲労や焦りから探索の目が曇ることもある、とアルフレッド様に諭されては、引き下がるしかない。

確かに、冷静に考えればアルフレッド様の言い分は正しい。

闇雲に探しまわるよりも、適度に休憩を取った方が良いというのは正論だ。

「……わかりました。一度休ませていただきます。ですが、何かわかればすぐに館へお知らせください」

城主の館へと戻ると、入れ替わりにバルトが厚いコートを着て飛び出ていった。

彼等もティナが心配で探しに出かけたかったのだが、私が戻ってこなかったので出られなかったのだろう。

……少し、視野が狭くなっているようです。

ティナが心配なのは確かだったが、こういう時こそ冷静にならなければならない。

仮眠や食事といった休憩は、動き続けるためにも絶対に必要だ。

着替えて二時間ほど仮眠を取り、食事を頂いてひと心地つく。

仮眠を取っている間にも、ティナが見つかったという報せは届かなかったようだ。

もう一度街へティナを探しに行こうと玄関に向かうと、居間のドアを仔犬が引っ掻いていた。

「コクまろさん、扉を引っ掻いてはいけませんよ」

犬に話しかけても解るはずはないのだが、つい人間に話しかけるのと同じように言葉をかけてしまった。

本当に私は疲れているらしい。

私に呼びかけられた仔犬は、私を見上げるとクーンと切なげに鳴いたあと、再び扉を引っ掻きはじめる。

口頭で注意したところで仔犬が人間の言葉を理解できるはずもなく、扉を引っ掻き続けるのは仕方がない。

しかし、仔犬の行動がどうにも気になったので、小さく居間の扉を開いてみた。

すっと冷えた空気が頬を撫でる。

今日は一日ティナのために、と暖炉に火を入れないことになっているので、居間は冬の気温に包まれていた。

「コクまろさん?」

小さく開かれた扉に、仔犬は扉が開くのが待ちきれないとばかりに滑り込む。

仔犬は真っ直ぐに暖炉の前まで進むと、周囲の匂いをしきりに嗅ぎ始めた。

……仔犬にもわかるのでしょうか。ティナさんの身に何かが起こっていると。

それともいつものようにティナと暖炉の前で暖を取りたいのだろうか。

暖炉の正面でぺたりと腰を下ろしたかと思ったら、誰もいないのに仔犬は伏せた。

どうやらあの場所に長時間居座るつもりのようである。

……なにか、おかしいですね。

伏せた姿勢のまま、仔犬はジッと暖炉を見つめていた。

その姿に、ふと神王祭にまつわる迷信を思いだす。

神王祭で精霊に攫われた子どもは、その家の暖炉に戻ってくるといった内容だ。

……馬鹿馬鹿しい。どうかしていますね。ただの迷信です。

ただの迷信だと頭では判っているのだが、どうにも暖炉と仔犬が気になり、交代で暖炉を見守ることにした。

太陽が昇りきり、朝が昼になっても、昼が夕方になってもティナの行方はわからなかった。

黒騎士が総出で、街の住人まで巻き込んで捜索をしても、ティナの姿どころか、靴すらも見つからない。

ここまでくると、さすがにおかしいと誰もが思い始める。

なんらかの事故で川にでも落ちているのなら死体が発見されている頃だし、悪戯目的の卑劣な犯行であれば口封じに殺された死体がどこかに捨てられる時間であろう。

しかしそのどちらの悲報もなければ、ティナを保護したという吉報もない。

……死体が見つからないだけ、まだ喜ぶべきことなのでしょうね。

どちらにせよ、気が遠くなりそうだった。

人攫いが街の外へと連れ出せば、出入りを見張る黒騎士が見つけるはずなので、そのあたりは心配していない。

相変わらず黒犬は三羽烏亭近くの道から動こうとしないそうだ。

動かない犬といえば、暖炉の前の仔犬も同じだった。

朝からずっと暖炉の前に陣取り、静かに伏せている。

「……ティナさんは戻りましたか?」

休憩に戻った館の居間で、相変わらず伏せ続ける仔犬に話しかける。

一人が仔犬と居間に待機し、もう一人は館で休憩をとる、最後の一人は街へティナの捜索へ出かけるといった体制がいつのまにか出来ていた。

今は戻ったばかりのバルトが休憩をとり、タビサが外へとティナを探しに出ている。

……犬に話かけるなんて、相当まいっていますね。

我ながら情けない、と苦笑を浮かべていると、それまでジッと伏せて暖炉を見つめていた仔犬が姿勢を変えた。

ワンっと一声吠えたあと、ピンっと尻尾をたてて立ちあがり、パタパタと激しく尻尾を振り始める。

何か仔犬が異変を感じ取ったのだと解り、仔犬の視線の先、暖炉の中を見つめた。

「え……っ?」

昨日のうちに手形を付けたのだ、とティナが自慢していた灰の上に、小さな手形の他に足跡が増えている。

こんなものは、朝にはなかったはずだ。

「バルト! バルト、来てくださいっ!」

淑女を目指すティナの手本としてはあるまじき行為だったが、今は緊急事態なので棚に置く。

玄関ホールで椅子に座ったまま仮眠を取るバルトを叩き起こして居間へと呼びつけ、灰の中の足跡を確認させた。

「間違いありません、この靴のサイズは嬢様です!」

足跡の上に自分の手をかざし、大きさを見比べてバルトが言う。

これは本当に、精霊に攫われたのだと。

「……でも、暖炉に足跡があるってことは、すぐそこまで戻ってきてるってことじゃ?」

そう言って、バルトは暖炉に身体を半分入れるようにして中を覗きこむ。

灰に手をついてうっかり手形を消してしまわないよう注意しながら、暖炉に向ってティナの名を呼び始める。

二人で暖炉に向って呼びかけたところでティナが戻ってくるとは思えなかったので、門番へ使いを頼み、自分は書斎へ籠もることにした。

タビサやアルフレッド様へ暖炉の異変を伝えることは、門番にでもできる。

ならば、私は私に出来ることをした方が良い。

精霊に子どもが攫われるだなんて、迷信だと思っていた。

それが実際に起こっていることならば、何か解決方法があるはずだ。

そう考えて、まずは書斎へと移動する。

精霊に攫われた子どもを取り戻す方法がないかを、書斎の本から探し出すのだ。

暖炉の異変に、アルフレッド様とタビサが館へと戻ってきた。

タビサはバルトと交代で暖炉へ呼びかけることにしたようだ。

アルフレッド様は私から精霊に攫われた子どもの迷信について調べていると聞くと、メンヒシュミ教会へと向った。

このグルノールの街のメンヒシュミ教会には、精霊の寵児がいる。

彼に協力を求めるのだろう。