軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「…………!」

二階から飛び降りたんで、受けとめるクリフォードの衝撃はかなりのもの。

だけど、ビクともしない。

腕を広げたクリフォードに受け止められる。しがみついた首元で、クリフォードがふ、と息を吐いた。

安堵のような、呆れのような。

「無茶を……」

少し不満の混じる声が漏れる。

「だって、クリフォードがわたくしを取り落とすはずがないでしょう?」

「……はい」

でも至近距離で見る濃い青い瞳はまだ不満そう。

――はっ。顔が近い近い! 正面から抱っこされた状態。

「命令で押し切ったのは悪かったわ。馬に……」

「わかりました」

お、降ろされない……。私を抱っこしたまま歩を進めたクリフォードが、駐めてあった馬の前で立ち止まる。腕を伸ばし、馬の背中に私をひょいと乗せた。ついで、鐙がないのにもかかわらず、何の苦もなくひらりと馬に飛び乗る。

運動神経が、天と地の差……!

そ、そうだね……。うん。自力では私、乗れないや。鞍がないんじゃなおさら絶望的。

視察でクリフォードが乗ってきた馬や、王家の馬は訓練されているから、早駆けにも最適なんだけど、一頭でも勝手に乗ればすぐに知られてしまう。

そこで、二人で乗れるような一番早い馬をってお願いしてエドガー様のお父様が都合をつけてくれたのが、この馬。立派な体躯に、栗毛が綺麗な子だ。

たてがみをちょっと撫でてみる。

「……お願いね」

いざ出発! ――の前に。

クリフォードみたいな乗り方をしようとしたんだけど。ずり落ちそうになって、片手でお腹を支えてもらった。助かった……。正面座りって、つ、掴めるものが……!

たてがみ? 走行中だと引っ張っちゃいそう。馬への暴力! そして馬に乗るのって難しい……! でも、クリフォードにはフルスピードで馬を走らせてもらわなきゃ。

「クリフォード……。あなたは、私があなたのお腹に死に物狂いでしがみついても平気ね?」

「問題ありません」

よし!

と思ったら、続きがあった。

「……ですが、それはまだ治っていないのでは?」

クリフォードの視線の先は――。

あ、左手? 手袋で隠れていた包帯が、いまは見えるようになっている。グーパー、グーパー。閉じて、開いて。動きは問題なし。痛みは……たぶん、必死だったら忘れる!

「問題ないわ」

ちゃんとしがみつけるから安心して!

どことなく物言いたげなクリフォードに、大丈夫だと証明するために横座りになる。言葉通り、私はクリフォードの背中に両腕を回して、お腹にしがみついた。

「……ほら、言った通りよ」

「はい」

ぴったりと互いの身体がくっつく。う。体温と腹筋の感触がダイレクトに……。心臓が跳ねた……って、邪な気持ちを抱いてる場合じゃないでしょ! こ、これは私の命綱……!

息を吸って、号令をかける。

「行って! わたくしを城まで連れていって!」

「――承知しました」

手綱を握ったクリフォードが、馬のお腹を蹴った。

うひゃああああ!

馬が走り出したら、邪念なんて吹き飛んだ。目も開けていられなくて、命綱を離すまいという一念のみ。あと、結局クリフォードが左手で私の身体を支えながら手綱を操っている。それでも、速度に慣れてきて、目を開けられるまで時間がかかった。

ちょっぴり薄目で過ぎ去ってゆく景色を見る。

大きな門が目前だ。王城にもエスフィア橋にも最短でいける北門。城下に誰でも出入りできるようだとさすがに警備上の問題があるから、ここで必ず簡単なチェックが入る。

クリフォードは護衛の騎士の制服着用。それだけでスルーしてくれることを希望したいところ。

「止まれ!」

が、門兵は大きく両手を振った。爆走中の私たちへ声を張り上げる。しかしクリフォードは速度を緩めない。つ、突っ切るのっ? 私はクリフォードの背中に回した右手で、制服の生地をぎゅうぎゅう引っ張った。

「何か?」と問うかのようにクリフォードが顎を引いて私と目線を合わせてくれた。

「騒ぎになると不味いわ。穏便にすませましょう」

すると、馬のスピードが格段に落ちた。

北門が近づく。門兵が、馬の脇に寄ってきた。

「王家の方々の視察中です。一律に調べさせていただいています。護衛の騎士様におかれましても、ご協力ください。同乗者に関しても――」

一か八か。

門兵に私の顔が見えるように、フードを少しだけ持ち上げる。

「…………!」

「――急用だ。通って良いな?」

クリフォードの確認に、こくこくと門兵が頷いた。後ろに下がり、手で促す。

「お通りください」

ふー。顔パスいけたー。

馬が再び走り出す。

ポスと、頭の上にクリフォードの手が置かれて、フードの位置が直された。馬の走る速度があがり、景色がめまぐるしくかわる。

そして――直線方向、遠方にエスフィア橋が見えてきた。まだ豆粒ぐらいのサイズだけど、橋が見えればゴールも同然!

自分でも顔が輝くのがわかった。

ところが、すぐ上から、舌打ちが聞こえた。

……舌打ち? 誰のものかっていうと当然クリフォードしかいない。

「申し訳ありません」

? 何で謝るんだろ。舌打ちに対して?

しがみついた体勢のまま、顔を見上げる。

濃い青い瞳には、反省の色が浮かんでいた。

「朝の時点で、処分しておくべきでした」

処分って、物騒なんですけど! 一体、何の……。

ヒュン、と音がした。この音を聞くのは、本日二回目だ。弓矢……?

片手で手綱を操るのと、私の身体を支えるのを同時にこなしつつ、クリフォードが早業で引き抜いた剣で矢を叩き切った。左手で、そのまま剣を構える。

攻撃……。どこから……?

前だ。エスフィア橋から。通行を阻むように、人が立っている。騎乗している人もいる。通行の管理をしている兵……じゃない?

五騎、こっちにやってくる。騎士と兵士が交じっているけど、服装はエスフィアに仕える人間のもので間違いない。

私はフードを取った。馬の速度とあいまって、ぶわっと髪がなびいて顔面にきたのを、大きく頭を振って払う。

でも、これで……!

「わたくしはエスフィア国の王女、オクタヴィアよ! 道を開けなさい!」

声を精一杯、張り上げた。

「!」

確かに、向こうも私を認識した。けど。

振ってくる矢の量が、増えた……っ?

効果なし!

おまけに、接近した一騎の騎兵が、剣を抜いて襲いかかってきた。むしろ逆効果……! 曲者――ヒューの仲間? 自分が犯人だってバレたときの、追っ手用の対策をしてたってこと?

クリフォードが敵の剣を剣で受け止める。跳ね返した。そしてクリフォードからの攻撃で、騎乗していた敵が落馬した。

うわ。別の一騎なんて、クリフォードの馬の操縦術によって、ついて来れずに落馬。他の三騎も、剣での鍔迫り合いすらできずに、再起不能にさせられている。乗り手を失った馬が無軌道に走り出し、どこかへ行ってしまった。

あと、この間もヒュンヒュン矢が飛んできているんだけど、馬の操縦によって避けたり、剣を使ったりで、当たりそうな気配が微塵も感じられない。

クリフォードがバリアを張ってるって言われたら、私信じる。戦闘シーンの描写でよくある、銃をバンバン撃たれているのに、主人公には当たらないやつ。あれを実体験している感覚だった。

私にしがみつかれているのにもかかわらず、クリフォードは、それが生き物であるかのように――左手を使っているからか、なおさら――剣を振るっている。

……矢が、飛んで来なくなった?

このまま橋を渡ってしまえば……!

豆粒ぐらいだったエスフィア橋が、かなり接近してる。

いける!

確信した瞬間、橋が動き出しているのがわかった。エスフィア橋は可動橋。上げ下げによって、通行を物理的に完全に遮断できる。橋の真ん中が割れて、橋桁が山の形になり、可動が完了すれば、端と端で橋だった直立の板が立っている状態になる。

そうなったら、渡れない。

悪いことに、この橋、可動速度が尋常じゃない。イメージとしては、スイッチを押したらものの数秒で上げ下げ完了って感じ。

時代設定間違えてるんじゃないのって抗議したくなるほど無駄にハイテク……って、考えているそばから、橋の真ん中に空間ができ、山型に……!

敵は、私たちを倒すっていうより、進行の邪魔をして橋を渡らせないって方法に切り替えたんだ……!

「クリフォード!」

名前を呼んだ意図は、伝わっていた。

「しっかり捕まってください」

群がる敵を散らしたクリフォードが、私を抱え直した。私もクリフォードの胸に頭を押し付けて、ぎゅっとしがみつく。

上がってゆく橋に向かって、馬が突っ込んでゆく。

「急げ!」

抜かれた敵が橋をあげろと後方に叫んだ。橋が急勾配の坂みたいになっている。

そこを駆け上がる――!

クリフォードの操縦で、馬が坂と化した橋桁を蹴った。跳躍する。浮遊感。

――数秒後、着地の振動が、身体全体に伝わった。強く目を瞑る。馬が、今度は坂を駆け下りるのを振動から感じた。目を開けて振り返ると、私たちを追おうとした敵の一人が、途切れた橋桁から落ちかけているのが見えた。

ただ――エスフィア橋の王城側にも、分断された反対側にいたのと同様、多数の人の姿がある。騎兵と、歩兵が待ち構えていた。

でも、無視で!

「相手をする必要はないわ!」

無駄に戦って、クリフォードが消耗するのを避けるって意味でも。

追って来られたって、城に着いてしまえばこっちのもの。

襲いかかってきた騎兵をあしらい、クリフォードが馬のスピードをあげる。

しばらく走って――。

うう。こんなに王城の城門が見えて嬉しかったことってないかも。

門兵たちに顔がしっかり見えるよう、前を向く。

ついでに、身を乗り出した。

身体はクリフォードが支えてくれたので、なんとか!

すうっと息を吸い込む。

閉じた城門に向かって、私は腹の底から声を張り上げた。

「――門をいますぐ開けなさい!」