軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「これで、仲直り、かしら?」

「……はじめから、喧嘩なんてしていません」

「そうね」

「……何も、解決もしていないのに」

「だって、それとアレクがわたくしを避けるのとは、別問題でしょう?」

「……そうでしょうか」

深刻な顔つきでアレクが首を傾げた。

「そうなのよ」

対して、うんうんと私は頷いた。

――アレクには誰にも言えないことがあって、悩んでいる。でも、だからって、私に迷惑をかけるかも、なんて重荷を増やす必要はない。

「……何だか、姉上に騙されているような気がします」

「時には騙されることも重要よ?」

――仕方ないなあ。

そんな顔で、アレクが微笑んだ。

「約束して。アレク。何も言わなくても良いの。でも……これからはわたくしをこんな風に避けたりしないって」

私は右手の小指を示して見せた。

「……はい」

それを見つめ、ゆっくりと頷いたアレクが、小指を差し出す。

「指切りげんまん……」

小指を絡み合わせる。二人で、「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます」の呪文を唱えた。

「指きった!」

満足して言い放つ。小指が離れても、しばらくアレクは自分の指を見つめていた。

「……アレク?」

ゆるく、アレクが首を振った。

「……いえ。約束を、きちんと守らなくてはと思って……」

衝動的に、私はアレクの頭を撫でた。途端、アレクが嫌がる。

「――姉上。子どもみたいなことは止めてください」

ふふっと笑ってしまう。

「ごめんなさい。気をつけるわ」

私とアレクは、そのまま大回廊に留まった。

端に並べられている椅子に、隣り合って座っている。

せっかくアレクが避けないって約束してくれたのに、すぐお別れしちゃうなんてもったいない! そして、ここにいたってようやく、給仕に『黒扇』を預けたままで退出していたことに気づいたけど、後回し!

「アルダートンは、偽装の恋人なのですか?」

――で、私は、自分の見栄についてはアレクに白状することにした。当初はデレクにお願いしていたことも。

アレクが、私の命令通り、いつもより離れた位置に控えているクリフォードに目をやる。

ついで、アレクの護衛の騎士のランダルにも。ランダルは、アレク側という違いはあれど、同じように控えている。

「ランダルの耳にも入ってしまいましたが……」

「良いのよ。アレクの護衛の騎士だもの。アレクに話すのと同じことだわ」

私にとってのクリフォードのポジションだと言える。

それに、さっき見た姿。あんな風にアレクを心配しているランダルだしね。聞かれたくないなら、事前に退出してもらうこともできた。それをしなかったのは、私の意思。

「……はい。姉上が構わないのなら」

アレクが柔らかく微笑む。

「聞いた通りだ。ランダル。相手が誰であっても、他に決して口外しないように」

無言で、ランダルが頭を垂れた。その面には、もう心配そうな感情は浮かんでいない。

「しかし――姉上。周囲には本物の恋人だと思わせておきたいのですね?」

「ええ。アレクも協力してくれる?」

「もちろんです」

深くアレクが頷いた。……その様子を見て、正直、思った。最初からアレクには白状していれば良かったと……! お姉ちゃん風を吹かせたかった、悪しき我が見栄……!

だけど、直後、アレクの表情が陰った。長い睫が伏せられる。

「……デレクは、何故姉上との取引を反故にしたんでしょう?」

「わからないわ」

これに関しては、概要が漠然としすぎていて、アレクにもまだ言えない。兄も関わってくるし。

「――アレクも、何故デレクを護衛の騎士に?」

わかるかと思って、と言っていたけど。

「……記憶が、途切れている間に、デレクと会った気がしたんです。でも、彼は兄上の友人でしょう。接点がありません。しばらく近くに彼がいれば――。理由として思いついたのが、護衛の騎士だっただけです」

それで、わかるかと思って、なのか。

デレクの記憶がおかしくなったと思われる日に、アレクもデレクに会ったかもしれない? うーん。

――嫌な符号だな、と思った。

……そのまま想像が進みそうになって、中断する。

ポカポカ自分の頭を叩きたくなった。状況だけで考えすぎ!

馬鹿みたい。アレクが……だなんて。

第一、もしそうなら、アレクの記憶がおかしい説明がつかない。

「護衛の騎士といえば――姉上もです。バーンという者は、信用できるのですか? いまはいないようですが……」

「大回廊の外に待機させているわ」

私たちが通ってきた、閉じた扉のある方向へ、一瞬、アレクが視線を投げる。

「……ルストは、父上が承認した人物よ」

記章を渡してまで。

「わたくしか、アレクにつけるつもりだったらしいわ。わたくしが取ってしまった形になったけれど……」

「……聞きました」

「アレクは、彼に護衛の騎士になって欲しかった?」

「――いいえ」

はっきりと、アレクが首を横に振った。

「ルストが護衛の騎士になる前に、アレクと会ったと言っていたわ」

「……一度だけです。第二の鍛錬場で、偶然」

アレクが、眉間に皺を寄せた。

……良い出会いではなさそう。

「……彼の、顔のせい?」

アレクも、ルストの……『あの青年』そっくりの顔に忌避感がある?

だけど、返ってきたのは不思議そうな瞬きだった。

「あの者の顔……ですか? 顔……」

悩んでいる。ルストの顔って、客観的には、ものすっごく整っているけど、アレクにとっては注目ポイントではないらしい。

「――顔ではなく、存在自体が」

そこでアレクは言葉を切った。

「あの者も、私が嫌いだと思います。……父上も、それをわかっていると思います」

アレクの言葉が当たっているなら、それなのに、ルストにアレクの護衛をさせようとしたってこと? ……ルストも、了解してた?

「バーンに会ったときの記憶も、部分的に途切れているんです。父上が認められたのですから、危険はないと思いますが――それでも、気をつけてください」

「わかったわ」

これまでのところ、護衛の騎士として不審な行動を私の前でルストが取ったことはない。

でも、私は頷いた。

他にも……アレクの記憶が途切れたって、ルストのせい? アレクの問題?

「それと、姉上」

天井画に目をやっていたアレクが、ふいに言った。

「もし、私の様子がおかしくなったら、絶対に近づかないでくださいね」

ついで、自分の護衛の騎士に言い含める。

「ランダルも阻止するように」

そして、最後に不本意そうに言葉を続けた。

「――アルダートンも」

クリフォードに対して、

「護衛の騎士として、絶対に姉上をお守りしろ」

傲岸不遜に言い放った。

その言葉が大回廊内に響き渡る。

「言われずとも」

答えたクリフォードが、離れた位置から頭を垂れた。