軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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……偽の恋人役を引き受けてくれたとき、好きな人もいないって言ってたのって、実は違ったの? 私があまりに切羽詰まってたから……?

「あの! デレクがそう言ったわけではなく、勝手におれが思っただけなので……! いえ、忘れてください! オクタヴィア様には正直でいたいからって、言うべきじゃありませんでした!」

本人を蚊帳の外に恋バナはすべきではない。……確かに。せめて本人に訊くべき。でも、いまのデレクは、私が質問したところで、答えてくれる可能性は低いんだよなあ……。

「シル様。わかりました。聞かなかったことにします」

でも、そわそわとシル様は私の背後を気にしている。

背後……クリフォード? あ、そうか。

「――クリフォードも、良いわね?」

クリフォードを振り返り、確認する。

「――は」

目を伏せてクリフォードが応じた。シル様に向き直る。すると、シル様は何とも言えない表情をしていた。

「デレク様とした話は、それですべてですか?」

「? ええ、はい」

機嫌が良かったこと以外は、デレクはシル様に対していつも通りだったってことだよね。

……念のため。

「デレク様にいつもと違う点はありませんでしたか? 記憶におかしいところがある、とか」

「? いいえ?」

相手がシル様だったからいつも通りだったって線も捨てきれないけど、記憶の有無って、それ以外の部分にも影響を及ぼすからなあ。たぶん、シル様と面会していたときは、デレクには異常はなかった。じゃあ、その後……? 公式に会う予定だったのは私。

シル様と話した後、デレクは誰かに会って、記憶を操作された。

――王城内で。

「オクタヴィア様。もしかして、デレクに何かあったんですか?」

突如、シル様が問いかけてきた。う。根掘り葉掘り聞きすぎた。

「何もありませんわ」

間を置かず、できるだけ自然に答える。……こう言うしかない。

「それなら……良いんですが」

ほっとした様子でシル様が胸をなで下ろしている。……罪悪感。でも、いまの段階で話しても余計に心配させるだけかもしれないし、難しいな。

「すみません。おれが気にしすぎでしたね」

後頭部に手を置いてちょっと笑ったシル様に、私は首を横に振った。

シル様のおかれている状況を考えれば、おかしく感じて普通。ヒューのことがあったばかりだもん。――なら、せめて。

「……シル様は、わたくしに訊きたいこと――知りたいことはありますか?」

シル様が少し目を見開いた。直後に、今度はくすっと笑う。

? シル様?

「あ、いえ……デレクと同じようなことをお訊きになるんだなって思って」

「デレク様と?」

「はい」

頷いたシル様が言葉を続けた。

「おれ、どうしても知りたいことがあれば尋ねられなくても自分から訊きに行くほうなんです。……だから、オクタヴィア様のお気持ちだけで充分です」

ヒューのこととか、気になっているはずなのに……。

でも、シル様がそう言うなら。

私も頷いた。

「――では、そのときはわたくしにも訊きに来てください」

まずシル様が向かうのは兄のところだと思うけど、私も選択肢の一つに入るってこと!

自分なりの答えを伝えます!

「はい!」

勢いの良い返事に、私も自然と笑ってしまった。

――収穫はあった。デレクと対峙する前の情報収集。ルシンダ様を通して得た約束の予定は明日だったから。一つ目の目的は達成したと言って良い。

では、次だ。

兄が同席していたら、許可を得てから、と思っていたんだけど。

戻って来ないことだし。

「ところで、シル様?」

私は極上の王女スマイルを浮かべた。

「わたくしと衣装部屋に参りませんか?」

気分転換のお時間です!

「……衣装部屋、ですか?」

シル様が、きょとんとした顔をした。

監視役の騎士二人を説き伏せて、私はシル様を連れ、衣装部屋にやってきた。兄が戻ってきたら、私たちがどこにいるかを伝えるように頼んである。

サーシャを含め、侍女たちも準備万端!

視察で私がシル様用にと購入した服は、お店で兄が最後に試着していたもの。シル様に合いそうだなー、とあえてセレクトした服でもある。

私とシル様の、服にまつわる原作エピソードが消えた代わり。デザインや色はシル様にはまるはずなんだけど、兄が着てピッタリだったんで、シル様がそのまま着たら大きすぎる。だからサイズ直しが必須!

当初はシル様に試着してもらって採寸だけ城で行い、服をメリーナさんに送って補正してもらう――というのを考えていた。だけどグッドタイミング! メリーナさんも立ち会って採寸が行えることになった!

それがいま!

「こ、これは……?」

というわけで、衣装部屋には女性陣が手ぐすねひいて待ち構えていた。

シル様が怖じ気づくのも無理はない。でも大丈夫。怖くない怖くない。

「シル様。いってらっしゃいませ」

「オクタヴィア様っ?」

ガシッとシル様が捕獲された。右腕をメリーナさん、左腕をサーシャが確保している。私は『黒扇』を振ってシル様を見送った。

シル様が連行されていったのは、衣装部屋内の、仕切りで隠れた向こう側。これは即席で作った。衣装部屋はここと試着室の二部屋構成。本来は試着室を使いたかったんだけど、一応シル様は監視対象に入っているから、その辺の配慮が必要なんだよね。

あと、サーシャに力説されたせいでもある。「もしあるとすれば、試着室に入って良い殿方はアルダートン様だけなんです!」って。……そうなの? いや、基本的に男性は入れないけどね? クリフォードであろうと、変わらないよ? 城のこの衣装部屋って、実質王女専用だし。

恋人設定が効きすぎてるのかな……?

衣装部屋内には、今回、クリフォードもルストも待機している。通常は部屋の外にいてもらうんだけど、利用者が私ではなくシル様のため、こうなった。クリフォードは準舞踏会の衣装決めのときに一度入室を許可した過去がある。ただルストに関しては、「バークス様は試着のためだから仕方ないとしても、バーン様も衣装部屋に……? 入れる護衛の騎士はアルダートン様だけなのでは……?」って顔をサーシャがしてたんだよね。これに関しては口に出したわけじゃないし、すぐに切り替えていたみたいけど。

ルストが加わったことで、私の護衛の騎士が二人になった。それで、思うところがある。

メインがクリフォードで、サブがルストだってことを対外的に示すべき……?

空気のように控えているクリフォードを観察。装備している長剣――その柄に付けられているのはレヴ鳥の黒い羽根を使用した飾り房。

これはルストには渡していない。ていうか、ルストには父上からの記章があるし、あれ以上のものはない。異例の護衛の騎士への抜擢だけど、記章があれば軽んじられることもないだろうし。ルストの立場はぽっと出でも安泰。……あと、もし記章がなくとも、世渡りが上手そうなんだよね、ルストって。自力で王城内での地位を確立しそう。いずれにせよ、私からの飾り房の下賜は必要ないと思う。

だから、いまのところレヴ鳥の羽根の剣の飾り房は世界にたった一つで、剣に付けているのもクリフォードだけ。

でも、あの黒い羽根の飾り房以外にも、ルストとの差別化をはかるなら……? 護衛の騎士でもあり、恋人でもあるってことになっているわけだし、それがわかるような何か。

飾り房以外にもう一押し……?

「殿下。バークス様の試着と仮の採寸が完了いたしました。正確な採寸はこの後に行います。まずは殿下の目でご確認を」

メリーナさんの呼びかけと共に、仕切りの向こう側から、着替えたシル様が姿を現した。サイズの合わなかった部分――袖や裾は捲って留め具で仮止めしてある。

「どうでしょうか……?」

不安げにシル様が訊ねてくる。でも、サーシャやメリーナさん、他の侍女たちの満足げな顔からしても一目瞭然。

私は心の中で大きく頷いた。

似・合・う!