軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「――すべて?」

耳を疑った。しかも、できないことはない?

「はい」

クリフォードが頷いた。

衝撃の発言を放った本人は、何でもないことのように平然としている。

むしろ私のほうが動揺してるよ!

「それは……」

大事をとって、突っ込んでみる。

「身体的な接触もすべて問題ないということ?」

「はい」

今度も、やっぱり何の躊躇いもなくクリフォードが頷いた。

さっきからクリフォード、「はい」しか言ってないんですけど?

これは……。

私は広げていた『黒扇』を閉じた。

「クリフォード……あなた」

これは、絶対に言っておかないと!

「もっと、自分を大切にすべきよ」

するとクリフォードは微かに眉を顰めた。

「……自分をないがしろにしたことはありませんが」

反論が来る。心外だ、という様子。

でも私も納得するわけにはいかない。

「いいえ。望んだら何でも、だなんて……」

クリフォードを睨み据え、閉じた『黒扇』を突きつける。

「もしわたくしがエレオヴィラのような要求をしたらどうするの?」

エレオヴィラは、エスフィアにおける歴代の王女の一人。そして、通常、王女の名前は現在まで残らない。一部の歴史学者の間とか、文献を紐解けば別だけど。

ところが、彼女は他国にまで知れ渡っているほど悪い意味で有名。

――悪女として。

『種馬なら自分で選びたいわ』

『わたくしに選ばれたことを光栄に思うのね』

彼女は男性に対し、彼らに恋人がいても問答無用で夜の相手に命じたという悪名高い王女。悪い意味での権力大乱用! 相手の拒否権なし!

エスフィアでは『エレオヴィラ』という名前が悪口としても通じるほど。

ただ、私がエレオヴィラを知ったのは、そういった常識より先で、本人が残した日記からだった。……別名、ご先祖様赤裸々日記!

夜の相手として選んだ理由は、気に入ったとか、好みの男性とかいう理由じゃなくて、殺伐としており、政争が絡んでいて小説顔負けのドロドロな背景があったみたいなんだけど。

後から、エレオヴィラの被害者側の人たちが残した記録も読んだ。

たぶんそっちを先に読んでいれば、「エレオヴィラめ!」ってなってたと思う。でもそうじゃなかったので、彼女の行動の善し悪しは別として、実は私はエレオヴィラが嫌いじゃない。人間、最初に読んだほうに影響されがち。

というか、すべての王女が日記を残しているわけじゃないけど、日記を通してその人柄に触れたご先祖様のことは全員好きだったりする。

とはいえ――エスフィアにおける一般的なエレオヴィラの評価は、前世の日本でいうところの十八禁であり、その代名詞。

エレオヴィラのような要求、といえば、連想されることは一つしかない。

そういうのでも大丈夫だとでも?

「――お望みであれば」

クリフォードから答えが返ってくる。

いや、ダメでしょ!

が、私が口を開く前にクリフォードが言葉を続けた。

「……しかし、殿下はそれをお望みになられるのですか?」

質問が投げかけられる。

はあ、と私は息を吐いた。『黒扇』を下ろす。

「望まないに決まっているでしょう? ただの例えだもの」

エレオヴィラのような真似は演技でも無理。無理無理! だいたい、フリにそんなの必要なし!

「はい。そうおっしゃると思いました」

頷いたクリフォードの、私を見つめる濃い青い瞳が優しい色を宿している。

……あ、そうなんだ。

突然、腑に落ちた。

望むなら全部できるっていうクリフォードの答えに嘘はない。

――そもそもの前提として、恋人同士だって強調するにあたって非常識なお願いはして来ないって、私を信頼してくれてるんだ。

嬉しいのと同時に、恥ずかしくなる。

私ってば、一人で勝手に十八禁な連想を……! 勝手に想像して突っ走った……? クリフォードには全然そんなつもりはなかったやつだこれ……!

し、仕切り直そう。

「――けれど、わたくしがおかしな考えを起こさないとは限らないわ。恋人らしく振る舞うのは、命令ではなくお願いだということを忘れないで」

念押しする。私の我が儘で始まったことだもんね。すべては私にかかっているってことはわかった。でも、その私が邪念に取り付かれないとも限らない……! もしくは間違った方向に行くとか……! そうなったらクリフォードから線引きしてもらわないと!

「嫌だったら拒否すること。良いわね?」

クリフォードが一礼した。

「――承りました」

私の恋人役を引き受けたときと、まったく同じ答えだ。

これで、一応は大丈夫かな?

――と、顔をあげたクリフォードの濃い青い瞳と目が合った。

それだけなんだけど、ピンときた。

何か言いたげ?

「……何か言いたいことがあるの?」

正解だった模様。

促すと、クリフォードが口を開いた。

「――むしろ、私より殿下ではありませんか?」

ん? 私?

「演じるにあたり、殿下こそ、許容できないことがおありでは?」

許容できない……? 私が無理無理って思うような、クリフォードとの恋人同士的振る舞いがあるんじゃないかって……?

想像してみる。

それって――。

何だろう?

だって私自身が、「――恋人同士って、どういうもの?」状態なわけで……。

行きすぎているのはナシだと思うけど……。エレオヴィラのような行動は論外としても、そもそも私の無理じゃない範囲とは!

やっぱり、重要なのはスキンシップの程度かな?

それによる気がする。

スキンシップの観点から、どこまでなら、クリフォードと恋人的な振る舞いができるか? それも、自然に。

……まず、大丈夫なラインを確認したほうが良いかも。

幸い『祈りの間』にいるいまなら、検証もしやすい。ここに来た当初の目的にも合致しているといえる。

「そうね。――いまから、探ってみるわ、わたくしの許容できる範囲を」

スキンシップとして……まずは初歩的な一歩。

手と手の接触はどうだろう。

エスコートで手を預けたりとか、披露目の場での、手を繋いだりとか? これはやったことあるけど、一応。

「手を出してもらえるかしら?」

クリフォードに近寄る。差し出された手を繋ぐ。それから、握ったり。

手袋越しでも、大きくて節ばった手だとわかる。

友達繋ぎに、恋人繋ぎ……。

抵抗されないのを良いことに、調子に乗ってブンブン振ったりもしてみた! 「?」って顔をクリフォードがしていたけど、ちょっと面白かった。

うん。手は全然大丈夫。まあ、恋人云々は関係なく、立場上、手を預けるシチュエーションは多いしね!

「あなたは問題ないかしら?」

一旦、手を離してから質問する。

こうして二人で探ってみれば、私だけじゃない、本人が自覚していないかもしれないクリフォード側の許容ラインもわかって一石二鳥!

「……はい」

離れた手を見つめたクリフォードが首を縦に振る。

双方の意見の一致を見た!

じゃあ……。

「次は、腕を組んでみましょう」