軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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この部屋、久しぶりに来たなあ……。

前回来たのは、確か二カ月以上前だったから――クリフォードが私の護衛の騎士になってからだと、これで二回目?

あの頃はクリフォードの名前すら知らない状態だったっけ……。

そう考えると結構感慨深い。

以前と室内の様子は何も変わらないだけに。

もともと快適に過ごせるように一通りの調度品は揃えられてあった。そこに私好みに改装を加えてもらい、本棚や寝台が追加されているのもそのまま。

本棚には、王城の書庫外から収集したBLっぽい妄想が捗る本や、シシィ繋がりで入手した本の一部が収納されている。寝台はもちろん、本を読みながらごろごろするため……!

もはや私の中では第二の自室!

――ただし、正式名称は『祈りの間』。

エスフィア城内では、歴代の王女のための専用部屋として周知されている。

心を落ち着けるため、王女が一人で過ごしても許される場所。本当に文字通りの意味。

ここでは護衛の騎士も侍女も入室厳禁!

極端な話、私がこの部屋に籠城したら、現国王である父上の入室すらも正式に「嫌!」と拒否できる。

いわば王女の聖域? 治外法権?

過ごしている分には感じないし、いまだかつて使ったことはないんだけど、部屋の位置は当然として、侵入者対策が施されていて、安全性も折り紙付き。

ただ、いま一番重要なこと――そして、私がここに久しぶりに来た理由はただ一つ!

ここでは他の人の目がまったくないということが大きい。

いまだかつて、私はそういう用途で『祈りの間』を使ったことはなかった。誰かを招き入れたこともなかった。護衛の騎士も、扉の外での待機不要と追い払って、ちょっと何か食べたいなーって、飲物や食べ物を頼んだときも、扉を開けて受け取って、入室は断っていた。

……何ていうのかな、麻紀として、どうしても一人になりたくなると来ていたから、私以外の人が部屋に入ったり、いる発想がそもそもなかったんだよね。

でも、考えてみれば、ここって密談に最適じゃないですか! しかも中では堂々と話せる。こっそりする必要もなし。『祈りの間』では王女権力が至高なんだもん。

――私はクリフォードを振り返った。

『祈りの間』に来たとき、入室するよう私が命じたせい。

部屋には、私とクリフォードの二人きり。

「念のため、訊くわね。周囲に人の気配はない?」

静かにクリフォードが頷いた。

「はい。ありません」

ふう。私も一安心。まさかここでも「いえ。人の気配が……」とか言われてたら詰んでた。

だって、これまでことごとくそうだったから!

――発端は、父上だった。

クリフォードを私の恋人として紹介したお披露目の日が終わった後のこと。

父上は、「公式には王女と護衛の騎士だ。恋人であっても、いや、だからこそ、密室で二人きりというのは好ましくない。わかるな?」と女官長のマチルダに通達したという。

そんなわけで、クリフォードを自室にちょっと呼んで内緒話を――なーんて方法が難しくなった。

前なら、ちょっと席を外してくれる? といえばOKだったのに、通用しない!

いや、サーシャは聞き入れてくれるかもしれないんだけど、後々それが父上にバレたらサーシャが処罰されちゃうからね。他の侍女や、たとえマチルダであっても同じこと。

王女権力は、国王権力の前には脆い……!

ならば、自室以外で!

たとえば、私の目からは周囲に誰もいなくて、密談できそう! と思った城内の一角。

なのに、念のために「周囲に人の気配はあるかしら?」とクリフォードに訊くと、「はい」と肯定の返事が来るんだよね。

おまけに人数や位置まで……! 視界に入らなくても、意外と人っているんだね……。

それでも諦めず、廊下とか、無作為に入った部屋とか、チャレンジしてみたけど、クリフォードによると、どこも人の気配があった。

最後のここなら! と入った部屋なんて、二個隣の部屋で修羅場が広げられていたり……? たまーにあるやつ。全員男か、男二人と女一人の三角関係の場合が多いんだけど、そのときは前者だった。貴族の横恋慕による無理やり系だったみたいで、王女権力を発動しちゃったけど……。

というわけで、城内をうろうろして、人がいなさそうな場所を狙う、のは諦めた。

――かといって、ピンポイントで、いくら密談ができそうでも地下牢とか極端な場所に足を運ぶのは逆に目立つかもしれないし……。

かくして、ここなら! と思いついて来た場所が『祈りの間』だった。

我が聖域よ!

クリフォードの返答からすると、ここでは本当に二人きり!

誰かに話を訊かれる心配もない。

クリフォードがあくまで偽の恋人だということは、私とクリフォード、当事者しか知らないこと。かつ私たち以外には知られてとはいけないこと。

これで、ようやく。

ようやく、できる……!

恋人同士らしく振る舞うための打ち合わせが……!

お披露目が終わった後、城内は国をあげての次なるイベント、諸侯会議に向けて慌ただしく動き出している。

私も、新たな問題へ目を向けていた。

一つは、お披露目の日当日に発覚したデレクの異変のこと。

もう一度会って話をしてみないことには始まらない。さっそく探りの招待状を送ってみたものの、王女相手でもまったく失礼にならない、まさに高位貴族の社交術を駆使した丁重なお断りが来た! ぐぬぬ。

普通なら引き下がるところ、この問題ではそうもいかない。

本人が一筋縄ではいかなそうなら、間接的に!

おじ様と迷ったけど……会う理由を自然に作りやすいルシンダ様に助けを求めることにした! それとなくデレクとも話したいという意図を添えて手紙を出したら、了承の返事をもらえた!

そう。デレクに関しては、会う機会が作れただけでも一歩前進。

――そんなとき、父上から私宛の呼び出しが来た。

これは私から催促したせいだと思う。だって、お披露目の日から数日たっても約束が果たされる気配がなかったから。

約束してたもんね! 私が恋人を紹介したら、ヒューの居場所を教えるって!

だから、呼び出しは当然というか、むしろようやく、という感じだったんだけど……。

でも、私だけじゃく、クリフォードも呼び出されるとは……!

私とクリフォード、二人で来るようにって指定があった。

二人で父上に呼び出されるって……?

絶対、「クリフォードを私の恋人です!」ってお披露目で宣言したことと無関係じゃないよね?

実はクリフォードが偽の恋人だとバレたら、すべてはが水の泡。

何を隠そう。

父上の通達によって、内密にクリフォードと話ができる機会がなかったのもそうなんだけど、偽の恋人役が決まって一安心! という気持ちが大きく……!

アレクのことで気になっていることもあって、そっちに意識がいってたりして、あれから本来行うべきだった、偽の恋人役を続けてもらう上でのクリフォードとの打ち合わせをしてなかったんだよね……!

こっちは解決した気になっていて、つい……。

王女と護衛の騎士という関係は変わらないから、クリフォードとの接し方はそのままで、特に恋人同士らしくする必要もなかったし……。おまけに周囲には特に疑われている様子もなかったので油断していたというか……。

でも!

このままのこのこと父上の前に行ったらたぶんボロが出る!

父上の前では注意してそれっぽく見せないと……! 幸い、お披露目の日当日は、火事場の馬鹿力みたいなものでアドリブで乗り切れたとはいえ――。

アドリ、ブ……。

キス未遂のことが唐突に脳裏に浮かんで、私は顔の前でパッと広げた『黒扇』を振った。

ク、クリフォードの機転のおかげでもあった!

とにかく!

父上の呼び出しに応じて二人で赴く前に、恋人同士を演じる打ち合わせをしないと……! 普段はこれまで通りで良いとしても、それっぽくしなければならないときにどうするか……!

恋人らしく……!

真剣に考えること数秒。

私は、はたと気づいた。

お披露目を行ったことによって、はれてクリフォードが偽の恋人になったものの……。

――恋人同士って、どういうもの?

私、前世と足しても男性とのお付き合いの経験が、ない!

真剣に考えれば考えるほど壁が立ちはだかる。

くっ。前世で経験値を稼いでおくべきだった……! 青春真っ盛りのときに『高潔の王』という二次元に心血を注ぎまくった弊害がここに……! 今世は今世で、王女という立場上、「お付き合い? 青春? なあにそれ?」状態だったし……!

いや、オクタヴィアになって初恋はちゃんと経験してるもんね!

心の中で奮起したのもつかの間、私はすぐに意気消沈した。

でも初恋、砕け散ったし……。

いいな、と思った男性はことごとく同性の恋人を作っていった……。

自分が、役に立たない……!

しかも、偽なわけだから、さじ加減も重要なんだよね?

恋人だと疑われないラインで、かつそれっぽく……?

「…………」

目を瞑ってまだまだ考える。

わ・か・ら・な・い。降参です。

目を開ける。

…………クリフォードに相談しながら決めよう。

「クリフォード。『祈りの間』への入室を命じたのは、父上とお会いする前に内密に話すべきだと思ったからよ。あなたはわたくしの偽の恋人になったわけだけれど……恋人同士らしく振る舞うことが求められることが今後増えると思うわ」

「披露目の場で、陛下が私と殿下の口づけを要求したようにでしょうか」

う。み、未遂だったけど、確かに……。

「……ええ。ただ、本物の恋人同士ではないのだもの。できることとできないことを決めておきましょう」

クリフォードには、お願いで偽の恋人役になってもらったんだから、何でもかんでもってわけにはいかないしね。

すると、真顔であっさりとクリフォードが言った。

「殿下が望むのであればすべて行います。ですので、できないことはありません」