軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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――玉座の間。入り口に立った私は、ごくりと唾を飲み込んだ。

足元の床には、玉座まで真っ赤な絨毯が敷かれている。ここから先は、ただ真っ直ぐに進むだけ。距離もそう長くはない。だけど、視線を浴びまくっているので、さすがに場に吞まれそうになる。

せめてもの気休めとして、『黒扇』を目一杯広げて、顔の前に持ってきた。

一人で、赤い絨毯を進む。

玉座には父上の姿がある。かたわらのもう一つの玉座にはエドガー様。

そして、披露目の場の参列者――。

最前列の右側に、兄とシル様の姿があった。今日はシル様も監視はされていない……というか、兄がその役か。シル様は私が玉座の間に現れた途端、パッと顔が明るくなった。マチルダを通してそれとなく様子は聞いていたものの、私も姿を見れてほっとした。最後に会ったときより顔色も良い。

それから、アレク。アレクは……昨日、様子が変だったけど、今日は普通かな。心配そうに私のほうを見ている。

手を振りたいのを我慢して、反対方向――左側を見た。

すぐに、おじ様とルシンダ様を見つけた。――デレクも。社交用の如才ない笑顔を浮かべている。ちょっと前までは、その笑顔しか知らなかった。……そんな距離だったのに。そうじゃなくなっていたから、ショック、なんだろうな。

デレクから視線を逸らして、歩みを続ける。

父上とエドガー様の座る玉座に続く、小階段の下で立ち止まった。『黒扇』を閉じて右手に持ち、私は最高礼でもって二人に挨拶をした。

――さて。

心臓がバクバクしている。

「オクタヴィアよ」

玉座の肘置きに肘を預けた父上から、声がかかった。

「恋人はどうした?」

「父上。焦らないでくださいませ」

せっかく父上が当初の予定を変えて他に人を呼んだんだもん。内々のこぢんまりとした披露目の場はいずこ。そんな感じ。だったら――最大限、目立ってやることにした。

最初から恋人を連れて入場するより、後から加わったほうが期待も高まるってもの。

「いま、呼びますわ」

私は後方に控える、職務中の恋人を振り返った。

「――クリフォード」

私の呼びかけを合図に、クリフォードが私の元までやってくる。玉座の間中の注目を浴びながら、私の隣に立った。

小部屋で、必要最低限の打ち合わせを行い、話はついている。

ていうか、マチルダが時間を作ってくれたんだけど、クリフォードとの話がついたところでほぼタイムアップだったんだよね!

なので、私に合わせて! ていう超大雑把な指示しかクリフォードに出せていない状態。しかし、こんな場所、こんな時でもクリフォードは平然としている。「好きな食べ物、何かはあるでしょ」って意味の質問をしたときのほうが明らかに困ってた!

私もクリフォードに負けていられない。

いまこの瞬間から私は女優!

クリフォードの手を握る。いわゆる前世でいうところの恋人繋ぎ。エスフィアでも言うよ! すぐにこちらを見返したクリフォードにアイコンタクト!

「…………」

右手には『黒扇』を持っている以上、握ったのが手袋をした左手でだったからか、クリフォードが躊躇いを見せた。

いや、ここは強く握り返して!

クリフォードに、握って、というのは通じた。

恋人繋ぎ、成功! ……かなり、そっとした繋ぎ方だけど。

私は父上に向かって微笑んだ。

「父上。ご紹介します。わたくしの恋人の、クリフォード・アルダートンです。わたくしの護衛の騎士でもありますわ」

場が、ざわめく。

「アルダートン伯爵家か……?」

「養子ではないか」

「元平民の……」

「――静まれ」

決して大きくはない、けれど父上の一喝が響くと、一転して静寂が訪れた。

「オクタヴィア。アルダートンがお前の好いている者だというのか? そして恋人だと?」

尋問官に取り調べを受けている気になった。

「わざわざ確認をする必要はありませんわ。恋人だ、と一度申し上げています」

「ふむ……」

肘置きに肘をついたまま、父上が顎に手をやった。

「二人の関係はいつからだ?」

い、いつから? 設定はなーんも詰めてない。すべては私のアドリブにかかっている……! 幼少期に実は会っていた設定とか……。ターヘンで? 私行ったことないよねターヘン! 実際にクリフォードに会った時期というと――。

「約三カ月前、クリフォードがわたくしの護衛の騎士となってからですわ。わたくしが先にクリフォードを好きになったのです。いつしか、心が通い合うようになりました」

私が先に惚れたってほうが信憑性あるよね! だって、私、初恋が護衛の騎士だったグレイだもん。

父上の尋問の矛先が移動した。

「――アルダートン。どうなのだ?」

私は内心ハラハラして見守った。繋いだ手に力を込める。……あ。やっぱりそっとした感じだけど、握り返してくれた。

「オクタヴィア殿下のおっしゃる通りです」

「本気か?」

「――はい」

国王たる父上に詰められても、まったく動じないクリフォードが頼もしい。この調子で合わせてね!

……ちょっと余裕が出て来たので、参列者の反応を窺ってみる。

兄は――眉間に皺を寄せてる? クリフォードが恋人だと気に入らないの? なんで?

隣のシル様と対照的だし! シル様はすごく嬉しそうだよ? 見覚えある。あれは前世で推しカプを眺めているときのような……?

心の中でぷるぷると首を振る。

いや、あれと同一視したらシル様に悪いか。

それから――デレクだと伝えていたのに、クリフォードが私の隣に立っているのを見て、きっと驚いただろうアレク。……俯いてる。表情はわからない。

「新しい飾り房をアルダートンに下賜したようだが、それも恋人故だと?」

父上に視線を戻す。父上は、無表情。隣の玉座に座るエドガー様は――うん? 納得の笑みを浮かべてる?

「いいえ。恋人かどうかは関係ありませんわ。クリフォードがわたくしの護衛の騎士であるがために渡したのです」

ところで、クリフォードって、父上にとっての、例外じゃないよね?

『例外は、あるが』

私が恋人を連れてきたところで、却下される可能性もあるって示唆されていた、あれ。

「すぐに我々に恋人の名を明かさなかった真の理由は何だ?」

真の理由? そんなの、いなかったからに決まってる! 夕食会で、「この場で名前を申してみよ」って言われたときは、相手に迷惑をかけるからって答えたはず。同じ答えじゃ受け付けてくれないってことだよね。それっぽい理由……。

「――まだ、その時期ではないと思ったのです」

必殺、濁し! でも嘘でもない。実際、私にとってはその時期ではなかった……。けれども、偽の恋人役がいるいまは、紹介しても良い時期!

「父上なら、おわかりでしょう?」

つい数日前にカンギナとバルジャンから婚約の打診が来たことだし! いつまでもフリーのままではいられなくなったってことが! 切羽詰まってる!

「…………」

ほんの少しだけ目を眇めて、父上が黙った。

「――父上は」

それに乗じて、私は攻めに転じることにした。

「わたくしとクリフォードの関係をお認めくださらないのですか?」

「……恋人だという証拠は?」

……証拠?

父上は、一体何を言ってるんですか。

「口ではどうとでも言えるだろう。この三カ月、お前たちが良好な関係を築いていたことは知っている。お前の護衛の騎士として続いているのもしかり。またお前はアルダートンにかかった嫌疑を晴らそうとし、『黒扇』と揃いの飾り房を下賜した。なるほど。主従としては認めよう」

一旦言葉を切った父上が重々しく続けた。

「いいか、オクタヴィア。アルダートンはわたしにとっての例外ではない」

よっしゃ――、と快哉を叫びたくなったのもつかの間、まだ続きがあった。

「しかし、わたしはアルダートンが人を愛するような男だとは思わぬ」

「父上の主観でしかありませんわ」

「そうか?」

父上が私とクリフォードを見下ろす。

「ならば、お前たちが恋人同士だという証を」

――証拠を見せよ。

挙げ句の果てに、そう、父上は要求した。

だから、父上、証拠って、何を出せばいいの?

私は直球で尋ねることにした。

「何を見せれば宜しいのです?」

受けて立つ! 証拠を提示してみせるんだから!

「――口づけ」

「…………」

私は耳を、疑った。

「愛し合う者同士ならば、口づけぐらいは当然だな?」