軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ついに。

ついに、この日がやって来た。

本日は、私が恋人を紹介する、披露目の日。で、蓋を開けてみたならば、「我々だけでです」って兄が言っていたはずのこのお披露目なるもの。

メインは父上とエドガー様、兄だけだと思うじゃない? もし追加で誰か入るとしても、シル様ぐらいかなって。

な・の・に!

主立った貴族たちも呼ばれてるんですけど……っ? 純愛貴族派と不倫貴族派の二代派閥のそれぞれのトップとか。おじ様とルシンダ様……ナイトフェロー公爵夫妻とか。

犯人は、父上。父上がわざわざ呼んだんだって。問いただしたら、「二国から婚約の打診があったからな。向こうにも広まるように人目を増やしたほうがいいだろう」とのことだった。その目がこう言っていた。

「恋人を紹介しないのならまだしも、するんだろう? だったら一体何の問題が?」って。

しかも、披露目をする場所も、玉座の間ね。

父上がでーんと玉座に座り、下段の両側に参列者が並ぶあれ。

その最中、私と恋人が玉座に続く小階段の下に立ってご報告……。

もはや公式行事一歩手前。一歩手前、とつけたのは、私が公式行事だとは認めたくないから! 内輪でささやかに紹介をしたかったという私の願望が抵抗している。

胸元に手を置く。

改めて、姿見で自分の姿を見た。着替えは済んでいたものの、玉座の間に続く小部屋に移動し、最後の微調整が済んだところ。扉の外側にクリフォードを残し、侍女たちには退出してもらっている。

偽とはいえ、恋人を紹介する場。なので、普段着用ドレス、というわけにはいかなかった。ただし、恋人探しをする必要があった準舞踏会のときとは違って、疎かにはできないとはいえ、それほど気負う必要もない。一応、昨日、パートナーであるデレクの意見も聞こうと思ったんだけど……。

はあ、と私はため息をついた。

――マチルダやサーシャに手伝ってもらいながら、とりあえず、自分でドレスは決めた。

明るい気持ちで行かなければ!

選んだのは橙色のドレス! スカート部分の広がりがあるタイプ。胸元には小さな宝石がちりばめられている。露出度は控えめ。視察のときみたいに袖がケープ状になっている。装身具は、ドレスが首の隠れるデザインなので、首飾りではなく耳飾りを。ここだけはあえてワンポイントとして水色の宝石にした。

髪型も伸ばしているのは変わらないけど、アレンジをしてもらい、髪飾りには生花を添えている。ドレスの色に合わせた、前世でいうカランコエに似ているラコルっていう小さな花。

靴はもちろん、踵の低いやつ! 靴擦れの悪夢は繰り返さない……! 色は薄紅色にした。ただし、橙色も靴に散っている装飾用の石で使われている。

そして、もはやお馴染み。左手だけに手袋。これも橙色で合わせている。

あとは――私は手に持った『黒扇』を広げた。

姿見に向かって王女スマイルを浮かべる。

――悪くない。自画自賛。

私のほうは、準備ができた。

問題は――。

「失礼いたします。わたしをお呼びと伺いました」

デレクの声だ。

やっと、だ。

この小部屋に来てくれるように、と言づてを頼んでおいたし。何なら昨日、緊急で手紙も出してあった。

これで来なかったりしたら、もう……!

「デレク様。お入りください」

入り際、わざわざ扉を少し開けたままにしようとしていたので、制止する。

「扉は閉めてください」

「は? しかし――」

内輪の打ち合わせをしようっていうのに、扉を開けたままなのはちょっと。

「二人きり、というのは良くありませんよ」

一応、恋人同士設定なのに?

「では、クリフォードに中へいてもらいましょう。――クリフォード」

クリフォードが、私の偽の恋人問題について自分から特に意見を述べたことはないけど、デレクを勧誘した場面にいた。よって、デレクのニーズを満たしつつ、私の内緒話を聞いても問題ない人物というニーズをも満たしている。

「――は」

軽く頭を垂れ、中へ入ったクリフォードが閉まった扉の脇に立った。

室内を進んだデレクが、私の前――少し離れたところで止まると、改めて挨拶をした。

「ご機嫌いかがでしょうか。お会いできて光栄です」

私は正直、むっとした。このデレクの態度、厚顔無恥過ぎない?

何故ならデレクは――。

昨日、来なかったのである!

最終打ち合わせの約束をしていたのにもかかわらず。一度、ルシンダ様からの贈り物を渡しに来ていたのにもかかわらず!

羽根の飛び散った部屋の掃除が終わっても、いつまで経っても来ないから、事件か事故を疑ったほど。シル様に会えなかったとか? はたまた兄ともめた? いやいや――。

悪い想像が膨らんだ。

なので、調べてみたら。

帰ったって。

シル様とは会っていた。特に問題が起こることもなく、デレクはシル様との交流を終えたそう。で、その後、ナイトフェロー公爵家別邸に帰った。

……どういうこと?

いや、理由があって帰ったのかもしれないよ? でも、言づてを誰かに頼むとか、手紙を送るとか、方法はどれでも良いから、「行けなくなりました」の連絡ぐらいあっても……!

デレクなら、絶対そういう機転は利くでしょ? なのにそれすらないから、絶対何かあったものだとほぼ確信していたっていうのに!

まあ、何事もなかったみたいだから、それは良かったんだけど……。

でもね、さすがに、今日会ったらちょっとぐらい説明はあると思っていた。

「ご機嫌いかがでしょうか? ですって? デレク、本気で言っているの?」

心のままに言い返していた。まだ本番でもないのに、敬称をつけるのを忘れるぐらい。

「――オクタヴィア殿下」

あ、れ?

変、だ。

デレクは、私のことを公式の場でもオクタヴィア様、と呼んでいた。デレクがそう呼ぶから、デレクの影響でシル様もそう呼ぶようになったのかなって勝手に思っていたぐらい。

デレクが殿下、と言っていたのは、私の記憶では、確実に嫌われていた――おじ様を巡って火花を散らしていた時期。

他人行儀に、淡々と、デレクが言葉を続けた。

「どうなさったのです? わたしと殿下は気安く名前を呼び合うような間柄ではないはずですが……」

――どうなさったのですって、それはこっちの台詞だよっ?

丁寧なのは変わらない。王女に対しての節度を守った接し方をデレクはしている。

でも――。

「わたくしとの取り決めは?」

デレクが眉を顰めた。

「取り決め、ですか?」

「わたくしの――」

続きは、喉の奥に消えた。

――偽の恋人になってくれるって。

デレク、完全に忘れてるの?

駄目だ。言ってみなきゃ。

「あなたは今日、わたくしの恋人として紹介されることを了承していたのよ」

「…………」

困惑と、多少の不愉快さがデレクの面をよぎった。

「――殿下。お戯れはお止めください。わたしと殿下が恋人関係でないことは殿下ご自身がご存じでしょう」

ご存じだけど!

取り付く島もない、感じだった。

「デレク……」

途方にくれて呟いたとき、ふ、とデレクの様子が変わった。

こめかみを押さえ、顔を歪めている。

「デレク様?」

呼びかけると、デレクは強く首を振った。

「っクソ!」

何かに必死に抗うかのように、悪態をついた。

この、様子……。

兄のことを思い出した。まさか、デレクの記憶も、おかしくなってる?

「デレク様!」

強く呼びかける。その瞬間、デレクが私を見た。視線が合う。デレクの唇が、かすかに動いた。私へ、何かを言おうとしてる?

……だけど、目に見えて、またその様子が変わった。

「――オクタヴィア殿下」

私を、殿下と呼ぶ、デレクへと。

……戻った、んだ。

不思議そうに周囲を見渡し、瞬きしている。覚えて、ない?

すぐにデレクが頭を垂れた。

「申し訳ありません。何かわたしが失礼を――」

「……いいえ。良いのよ」

『黒扇』の要を強く握りしめる。

いまのデレクに、何を言おうとしていたのかと尋ねても、きっと通じない。

「…………」

「…………」

気まずい沈黙が落ちた。

――扉が外側から叩かれる音がした。

「殿下。そろそろお時間です」

マチルダだ。……私が、恋人を紹介する時間が、迫ってる。

「では、わたしも失礼いたします」

「……ええ」

デレクが貴公子らしい一礼をする。この動作は、変わっていない、のに。

……感じたのは、デレクは、だいぶ友好的に接してくれていたんだなってこと、だった。話すようになったのは、本当にごく最近で、準舞踏会から。でも、兄とデレクが一緒にいるとき、会話を交わさないまでも――気を遣って接してくれていたんだ。

いまさら、わかった。

「皆様がお待ちですわ、殿下」

マチルダが扉を開け、私を玉座の間へと促した。

……どうしよう?

きつく、目を閉じる。

すぐに、パッと開いた。

「――少しだけ、時間をくれるかしら」

一瞬、不思議そうな顔をしたものの、マチルダが頷いた。

「畏まりました」