軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『現代編』verシェイド

*おふざけ番外編です。ヤンデレ系~のキャラが現代の高校生だったら、という話。キャラの生い立ちが本編と違ったり、IF要素も含んでいます。

「シェイドが不良になってしまったようなの……」と言って、クリナムは俯いた。

クリナムもシェイドも私にとってはいとこにあたるが、二人は腹違いの姉弟である。この二人の家は、複雑な事情を抱えている。

過去のいざこざについては割愛するが、今でも二人の姉弟仲はあまり気安いものではない。クリナムの実母である叔母様は、継子であるシェイドに対しては『関係を持たない』という態度を貫いていて、クリナムにもそれを強制するところがあった。

けれどクリナム自身はシェイドのことを気にかけていて、よく私に相談に来る。

「シェイドが不良に……?」

私はとっさに、ランクラーツの家に来たばかりのころのシェイドを思い浮かべた。当時3歳、それはもう天使のように愛らしく、ふくふくとした薔薇色のほっぺが愛らしい子供だったのだ。

それがいつのまにやら成長して、嘆かわしいことに非常に生意気になって。ついには高校二年生にしてタバコでも吸い始めたというのだろうか。

「そうなの。最近は帰りも遅くて……服に香水の匂いがついていることも多いとメイドが。バイトをしているそうなのだけれど、それが、少し年をごまかして、お酒を取り扱っている店で働いているようなの……」

「なるほど。ちょっとだけ夜の世界に足を突っ込んでいる、みたいな。学校に知られれば停学くらいにはなりそうな行動ね。それにしても……」

私はバーテンの格好でシェイカーを振るシェイドを想像してみた。その周りに、年下の男にちょっかいをかけたがる、麗しい大人のお姉さまなど配置してみる。

あまりにも絵になった。

「――グレる方向性が微妙に格好つけで、イラッとするわね。リーゼントにするとか、長ランを着るとか、そういう思い切ったことはしないんだもの」

「リコリス……。その発想は少し酷だと思うわ」

とにかく、私がシェイドと話をしてみるということになった。

本当は、父がいたら良かったのだと思う。

父はシェイドを自分の息子のようにかわいがっていて、我が家にはシェイドのための部屋が存在するくらいなのだ。

シェイドの方も父には随分となついていて、中学時代あたりの特に難しい時期なども、父にだけはいろいろと相談をしていたようである。その父は現在海外出張中。

私は、週末に我が家へ訪れたシェイドと一緒の夕食後に、彼にお説教をすることにした。

「シェイド。部屋に戻るのは少し待ってくれる? 話があるの」

私が改まった声でそう告げると、シェイドは眉をひそめた。

「何ですか?」

「最近、かなり遅い時間に家に帰るそうね」

「そうかもしれません。新しくできた友人と遊ぶのに忙しくて」

あっけらかんととぼけてみせる。

シェイドは我が家に来るにあたっては、香水の匂いなどさせる間違いは犯さないのだ。そんなことをすれば、私という口うるさいいとこからすぐにも詰め寄られてしまうためである。

「お酒と香水の匂いをさせている友人なんでしょう?」

「……クリナムからご注進がありましたか」

「認めるのね」

シェイドはフンと、とても可愛くない笑い方をした。

「少し、社会勉強のつもりでバイトをしています。それだけですよ。安酒もタバコも、さほど興味はありません」

「か、可愛くない言い方……」

「可愛くなくて結構。そもそも、十六にもなる男に可愛いは侮辱です」

「しょうがないじゃない。私にとっては可愛い弟なんだから」

「俺はあなたの弟じゃない」

シェイドが冷たい声を出すので、私は気圧されそうになった。

「だいたい、家族でもなんでもないのに保護者面はやめてください」

「私はあなたの家族よ!」

「……違います」

シェイドはふいとそっぽを向いた。

(そういうことを言うのね!)

「そこまで言うなら、覚悟なさいシェイド! 私は『家族でもなんでもない』相手に容赦はしないわよ!」

「……容赦しないとどうなんです? 学校に言って、それでもやめないようなら退学にでもしますか?」

「いいえ。そんなまだるっこしいことはしません!」

私は、パチン、と指を打ち鳴らした。

我が家の有能な執事が音もなくスムーズに押している台の上には、大画面テレビ。

「ここに用意したのはね、お父様秘蔵の『うちの天使成長記録。特別総集編リコリス&シェイド版』!」

「……は?」

「うちのお父様、昔から海外出張が多かったでしょう? それで、我が家のメイドやフットマンたちには、私たちの生活を撮影するという仕事があったそうなの。これはその映像が編集されたもの」

「……まったく、あの人は……」

私もこのことを知った折には、今のシェイドと同じようなつぶやきを漏らしたものである。

「それで、自分で覚えているかどうかわからないけど。あなたが四歳くらいの時。それはもう天使のごとく愛らしかった時分。あなたはこんなことを言っていました」

私は大きく息を吸うと、はっきりとした発音でかつてのシェイドの言葉を再現した。

「『ぼくの、しょうらいのゆめは、リコリスおねえちゃんの、 およめさん(・・・・・) になることです!』」

執事さんが『そのとおりでございます』とばかりに頷く。彼は非常に記憶力がよく、私たちの幼少期のことは知り尽くした上に覚え尽くしていると言っていい。

「ぅああああああ!!!!!」

私の声をかき消すようにシェイドが叫ぶ。しかし、遅い。

「そして、こちらに証拠映像が……」

「……っ!!」

なりふり構わない様子でテレビに向けて突進しようとしたシェイドだが、執事さんはそれを優しく押しとどめた。

「シェイド様。こちらにあるのは、コピーデータでございます」

「そのとおりよ! 当たり前でしょう? さあシェイド! これでもまだ私の言うことを聞く気にはなれないの? 上映会をされたいの?」

ふんぞり返る私を前に、シェイドはがくりと片膝をつく。

「こ、ここまで……ここまでするのか!」

「するわよ! 容赦しないって言ったでしょ!」

私は噛み付くような勢いでまくしたてた。

「リーゼントにするくらいなら許してあげたのに! 年を偽ってバイトなんて!! 貴方自身がしっかりしているつもりでもね、お酒やタバコの誘惑があるだけじゃないのよ! 何か問題に巻き込まれたらどうするつもりなの!? 私は心配なんか、してあげませんからね!!」

最後は涙混じりの声になって、格好はつかなかった。

しかしシェイドはそんな私をじっと見つめた後、根負けした様子で肩を落とし。

そして、深い深いため息をついたのだ。

そもそもの異変に気づいたクリナム。映像提供のお父様。そして私と、執事さん。その渾然一体の攻撃――つまり、家族愛の勝利だった。