軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第137話.魔道具の正体

ハイルとはすぐに会談の場が設けられることになった。

というのも暗黒魔道具の件で、ハイルとルイゼからルキウスに報告したい発見があったからだ。

フィアンマの打ち身を光魔法で治したルイゼは、ルキウスと共にハイルの部屋へと向かう。

ハイルは一足先に戻り、散らかった部屋を片づけてくれているらしい。

「ルイゼ。実は俺のほうにも話したいことがあったんだが」

隣を歩くルキウスに申し訳なさそうに切り出され、静かに赤くなるルイゼ。

昨日は再会できた喜びやら何やらで、他のことを話す余裕はお互いにまったくなかったし、今日も朝から決闘騒ぎだったのだ。

「なんでしょうか?」

おずおずと問うと、ルキウスが小さく頷く。

「ガーゴインの記憶が戻ったんだ」

「お父様の記憶が……?」

ルイゼの父――ガーゴイン・レコットは、リーナにより長年に渡り暗黒魔法をかけられていた。

その影響で記憶の大部分が混濁してしまい、暗黒魔法について思い返すにもかなり苦労していたのだ。

(お父様は、何を思い出したの?)

ルキウスの態度からして、それが極めて重要な内容であるのは間違いなさそうだ。

「詳しくは俺から話すより、ロレンツから届いた書簡を直接見てもらったほうが早いだろう。あとで時間をくれるか」

ルイゼが頷く前に、矢継ぎ早にルキウスが口にする。

「ようやく 敵(・) が見えてきたよ、ルイゼ」

「…………!」

その言葉に、ルイゼはゆっくりと深呼吸をする。

リーナやマシューに暗黒魔道具を与え、セオドリクは面白半分で王国をかき回した。

彼がどこかに隠した魔道具の行方を、ルキウスは騎士団を使って調査していた。同時にフォル公爵家から姿を消したという使用人のことも調べ続けていた。

(敵……)

セオドリクは自死し、ハリーソンが投獄されている状況で、ルキウスが何者かをそう呼んだということは。

(ルキウス様には、明確に敵対者が誰か分かったんだわ)

そこまで教えてもらえば、彼の不可解な行動の理由がルイゼにも理解できる。

公国でルイゼの名前を伏せ、シャロンの名を借りさせることにしたのは。

(ルキウス様が私の現在地を、その人物に知られたくなかったから)

今、ルイゼが公国に来ていることを知るのは限られた人間のみ。

そして――リーナやガーゴインがヤズス地方にあるエラの町に居ることも、同じだ。

(その人物の狙いは……)

考え込みそうになるルイゼは、ノックの音で我に返る。

いつの間にかハイルの部屋の前に到着していたのだ。

室内から返事はなかったが、ルキウスはお構いなしにドアを開けている。

そこでルイゼは室内の惨状を目の当たりにし、目を丸くした。

広い空間は、足の踏み場もないくらいに散らかっていたのだ。

「来たな。適当に座ってくれ」

「適当に座れる場所がありませんが」

溜め息を吐きつつ部屋に入ったルキウスが、ソファ上に置かれた魔道具のいくつかを隅にどける。

魔法大学でも親しくしていたようで、ルキウスの態度にはまったく遠慮がない。がさごそと棚を漁っていたハイルも気にしていないようだ。

「ルイゼ、ここに座って」

「は、はい」

棚の整理を諦めたハイルが、向かいの席にどっかりと座る。

「そういえば」

すぐ隣に座ったルキウスが、ひっそりと耳元に囁いてきた。

「教授には、どこも触られてない?」

「っルキウス様!」

羞恥で頬を染める少女の頭に、ちゅ、とルキウスが軽く口づける。

「色恋にまったく興味がない人と分かってはいるんだが、心配だから」

つまり、ルイゼの反応を見たかっただけということだ。

「もちろん、何もありません」

「怒った顔もルイゼは可愛い」

「……怒ってません」

「そろそろいいか?」

ハイルは呆れるでもなく首を傾げている。

もうルイゼは恥ずかしいどころではない。

「大丈夫です。お待たせしました、教授」

言いながらテーブルの下で、自然とルイゼの手と自身のそれを絡めるルキウス。

もはやルイゼは何も言えない。言えばまた、喜ぶルキウスが目に浮かぶようだ。

(それに、私も手を繋げて嬉しいから……)

という本音を、ハイルの前で口に出さないくらいの分別はあるが。

「それで、話というのは?」

「ああ。古代遺跡で掘り出し物があってな」

いそいそと長方形の箱を出すハイル。

「規則違反じゃないですか」

「気にするな。大したことじゃない」

一応指摘したというだけで、ルキウスも咎めるつもりはないらしい。

もしかするとハイルは常習犯なのだろうか、思うルイゼである。

「で、見てくれ。これだ」

「…………」

ルキウスが口を噤む。

しかしそれも当然だ。二日前に見せられたルイゼだって絶句したくらいなのだから。

(暗黒魔道具……)

黒い水晶玉のような垂れ飾りのついた首飾り。

ルキウスは動揺を表には出さず、ハイルを促す。

「それで?」

「これがなんなのか、そいつと一緒に調べたんだ」

そいつ、と言ってハイルが見るのはもちろんルイゼだ。

何やら物言いたげにするルキウスだが、深くは訊かないことにしたらしい。

「二人で夜通し話した。魔道具の型を絞りたくてな」

二人で夜通し、と聞いたせいか、握られた手に力がこもる。

だが、もちろんやましいことは何もない。

落ち着いてほしい、という意味を込めて指先でルキウスの手の甲をつつく。

ルキウスはすぐに冷静になったようだ。力はすぐに、するりと抜ける。

あとはもう、ルイゼに不安なことはない。

冷静なルキウス以上に、頼もしい味方は居ないのだから。

「聞かせてください。教授はこの魔道具を、なんだと?」

ハイルは胸を張るでもなく、淡々とその先を口にした。

「聞いて驚け。この魔道具の正体は、おそらく――」

そして、その日のうちに。

ルキウスとルイゼは、アルヴェイン王国に帰国することを決めた。