軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逆転令嬢リリアンヌのもっと楽しい!?義実家訪問〜アーランデ国でも暴れちゃいます〜2

この宮殿はフィニアスに与えられていたものらしい。すでに過去だ。第三王子のフィニアスの宮だった。

ただ、今回私たちが婚約式をするとのことで、泊まる場所として提案されたそうだ。

「カスクーチの屋敷は居心地が悪いだろうから、今回は陛下のお言葉に甘えることにした」

カスクーチというのは、フィニアスの本当の家名だ。フォースローグで家名を名乗るわけにはいかないので、フォースローグ風に変えた偽名がカスティルだそうだ。

「アイリーン様が一応指揮をとってくださったので、使用人たちはきちんとした身元が明らかな者たちです。どこの家門もフォースローグと喧嘩をする気はないですから。隣接国で一番上手くやってる国なので」

ただ、毒味用の手袋は用意してくれ、と事前に言われている。

「母上が自ら?」

「なわけないでしょう。……ほとんどアイリーン様の側仕えの方々がやってくださいました。何から何まで。つまりカスクーチがやっているので、一応、お気をつけください」

フィニアスの母が何かをする気はなくても、妹の、ジュマーナの母は何かしてくるかもしれない。

「それでも、陛下はリリアンヌ様のことを気に入ってるみたいですから。危ない目には遭わないと思います。去年の夏フォースローグへ行って帰ってきたとき、フィニアス様の婚約者がなかなか面白いと周囲に漏らしていたそうです。だから今回とても注目を浴びています」

それはいいことなのか悪いことなのか。

廊下も明かりで溢れていた。

魔族は魔導具を作るのを得意としない。魔力を繊細に動かすことがなかなか難しいそうだ。つまりここの魔導具は基本輸入品。他には好待遇で魔導具作りを得意とする人族を招き入れている、という話もフィニアスから聞いた。

外の白さと同じように、中も白を基色とし、差し色に青と緑を使った内装で統一されている。

「さあ、ここだ。イライジャ、下がっていいよ」

「かしこまりました。フィニアス様のお部屋でお待ちしております。ごゆっくり」

扉を開けると、外が見える。

大きな窓があるのだ。

その先は広い庭園だ。水と緑と花々と。夜の今はそれが明かりに照らされ幻想的な風景となっていた。

「アーランデってね、土地だけはあるんだ。この部屋からの庭が一番美しい。夜もだけど、昼間の庭園もなかなかだよ。どう? 気に入った?」

言いながら私の手を引き、窓を開いてバルコニーに出る。

この時間になると、昼間の暑さは引いている。風が吹けば気持ちよい。

「素敵ですね」

「よかった。ここは元、私の宮だからね。本来この部屋は妻の部屋だ」

つまっ!? と隣のフィニアスを見ると、いたずらっ子の目をしている。

「どう? ここでの生活が欲しい?」

つまり、王子の妃としての生活だ。

答えなどわかっているのに聞くのは、からかわれているのだ。私は軽く睨むに留めた。

水をふんだんに使った湯殿で、お母様とお義姉様に出会う。

「お疲れ様です、お母様、お義姉様」

「貴方も。さすがに五日間の移動は大変でしたね」

「一番大変だったのはフィニアス様じゃなくて? ずっっとお義父様とジャスティンとアシュリーに囲まれていたんでしょう?」

「一応馬車をもう一つと提案をしたんですけれど、これからもお付き合いが続くのだからと自ら飛び込んでいったんですよ」

「フィニアス様は胆力があるお方ですから大丈夫でしょう。むしろうちの人の血圧が心配です」

「アシュリーを抑える役がいないのが困りものね」

ティファニーお義姉様は、さすがに子どものことがあるので今回は欠席だ。一緒にアシュリーお兄様も待っていたらいいのに、絶対ついて行くと言ってきかなかった。

「明日はフィニアス様と一緒にお母様の宮に行くのでしょう? 気をつけて、失礼のないように」

「化粧品は気に入ったようでしたから、新作も喜んでくださるといいのですが」

「先ほど見ていた感じ、色味は合っていると思いますが、後は好みですからね。またマクブーレ様がいらっしゃらないといいのですけど。あれは女が勉学などと貶める予定だったのかしらねえ。アーランデ国はわりと女性は男性に尽くすタイプが褒められるようですよ。男性をひたすら立てて、夫を陰ながら支える。風潮というか」

お母様たちが全力で褒めにかかったので反撃の隙間がなくなったのだと思う。

「まあ、フィニアスがいるので大丈夫だと思いますよ」

「そうですね。フィニアス様のことは信頼しております」

「フィニアス様は良く出来た方ですね」

お母様とフレデリカお義姉様の評価がやたらと高い、フィニアスだった。

本来は母も一緒にと約束を取り付けようとしたのだが、アイリーンは自分の宮殿に人が入るのを嫌がるそうだ。私とフィニアスならばと許可が出たので、二人で行くことにした。

アイリーンの宮殿はフィニアスの宮殿の近くだが、さらに広く豪華だ。さすが側妃。アーランデ国の中でも最大の家門である、カスクーチ家の後援もあってのことだろう。

通された部屋は大きなローテーブルを深い緑色のソファが囲んでいる。すでにアイリーンがソファに座っている。

「母上――」

「面倒な挨拶はなしにしましょう。さあ、座って。すぐお茶を運ばせるわ」

お腹はまだ少し出てきた程度に見えるが、元々ほっそりとした体型のようなので、産み月がいつ頃なのかわからない。

「弟か妹が出来るとは聞いておりませんでしたよ」

「おめでとうございます」

私たちの言葉に、アイリーンは軽く頷いて腹を撫でる。

「どちらかはわからないけれど、四ヶ月後くらいよ」

「祝いを送らねばなりませんね。何か希望があれば」

「あの化粧品が良いわ」

本当に人気のようだ。これ幸いと、私は荷物を預けていた使用人に手を振る。

木箱がいくつもテーブルに並べられた。

「ご希望にそえるかは分かりませんが、新作をお持ちしました。紅の色は肌に合わせてになりますので、種類があります。是非お好みの物をお探しください」

「それは嬉しいわ」

早速木箱をいくつか開け、中の物を取り出す。

「あらこれは?」

「こちらは目元の差し色です」

「いい色だわ」

「アイリーン様はこの辺の色がお似合いになるかと」

私が勧めると、少し使ってみたいと使用人を呼んだ。

「素敵ね。これは、今度の婚約式につけて行きましょう」

「それまでに色々とお試しください」

「ええ、そうさせてもらうわね。クロフォード子爵には是非頑張って、こちらでお店を出せるようにしていただきたいわ」

たぶん、反応的に良い商売になりそうなので、その点は私としても勧めていきたい。変な邪魔が入らなければ。

「婚約式はもちろん私も出席させていただくけれど、リリアンヌさんは明日のお茶会を頑張ってね」

「お茶会……明日なのですね」

「今頃招待状が届いているのではないかしら。マクブーレが張り切っていたから」

「……母上、なぜ昨日もマクブーレ様があの席にいたのですか」

「だって、どうしても同席したいと頼むのですもの。わたし、妹の頼みには弱いの」

ふふふと笑うアイリーンの笑顔に罪悪感は皆無だった。

「茶会に呼ばれるのはリリアンヌのみですよね」

「たぶん、そうだと思うわ。そうじゃないと、思うようにやれないでしょう?」

フィニアスがはあとため息を吐く。

「まあ、お茶会でやれることにも限度があると思うから、大丈夫よフィニアス。……ジュマーナさんが来たら、血の雨が降りそうだけれど」

ふふふと私が笑うと、アイリーンも楽しそうに笑う。

そうだもう一つ土産があるのだ。

私は再び使用人に箱を持って来させる。

「アイリーン様のご趣味に合うかはわからないのですが、こちらを」

箱の中からは大粒の宝石をあしらったネックレスが現れた。

まあ、と感嘆の声を上げる。

「最近見つかった鉱山で採れた物を加工したものです」

そう、トルセイ男爵がラングウェル公爵に巻き上げられていた山を調べ、掘り進めると、なんと宝石が見つかったのだ。スカーレット様がアーランデ国に行くなら、土産に持って行けと持たせてくれた。ラーヴェリヒ陛下にも渡す予定だ。そこからどこに行くかは知らないというか、まあたぶん第一妃、つまり正妻の元に渡されるとは予想している。

「これは、本当に素敵なものね」

「気に入っていただけてよかったです」

「さすがにお礼をしないと……私の宝石を持ってきてちょうだい」

「え、いえ、滅相もございません。今回はお土産として持ってきたので……」

「息子の嫁からこんな素敵なものをいただいたのよ。それにね、アーランデでは姑から嫁に宝石をプレゼントする風習があるの。作らせた物より、持っているものを渡すのがいいとされているわ」

そう説明されている間に次々運ばれてくる。だが、見るや否や下げてと言われる宝飾品があった。

「陛下からいただいた物はあげられないわ、ごめんなさいね。実家から持ってきたものにしましょう」

「言ったろ? 母上は陛下以外は眼中にないんだ」

「そうよ。私の瞳の中には陛下のお姿だけがあればいいの」

笑顔で、当然だと言う姿は、本当にそうとしか思っていない。

「母上、こちらのイヤリングはダメですか?」

「別にいいわよ。なんならここにあるもの全部持って行ってくれても構わないわ」

いえいえ、さすがにそれは。

化粧品は片付けられて、それでも広いテーブルに所狭しと宝石が並んでいるのだ。その多さと輝きにめまいがしてくる。

フィニアスが選んだのはシンプルだが綺麗な空色をしているものだった。

また空色だ。

「フィニアス……」

「いや、違う。……違うわけではないが、それ以上にこれには意味があるんだ」

そういって、空色の目をした彼は笑った。