軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噂に殺される貴族

メイナードは私の惨状に顔をしかめ、洗浄の魔導具で綺麗にしてくれた。

そして借りていた、闘技会や、野営実習の時よりさらに高性能の、相手の魔術や衝撃を吸収する魔導具を返す。

「とんでもないものなのだな、その王家の威圧というのは」

「王家というより赤目ですね。私にはそこまで出せるかわかりません」

フィニアスも十分怖いが今日は大人しく聞いておく。

彼は怒っているのだ。

ジュマーナを国外へ追放する一番確実で短期決戦になる方法がこれだと、イライジャが言った。ジュマーナに赤目の威圧を使わせる。これは、留学の際使うことを禁じられていて、使えば即刻退去だ。

そして、ジュマーナがそれを使うような相手は間違いなく私に対してなのだ。

イライジャが提案したことに、もちろんフィニアスは反対した。だが、私もいい加減マーガレット一人に取り組みたいのでジュマーナのことは終わらせたかった。

身の安全を確保するために、メイナードへ相談したのだ。

「それなりに実力のある魔術師同士が模擬戦をやるのに開発したものだぞ。よく無事だったな」

「わたくしもそう思います」

「身体を見てもらえ。これの始末はこちらでやっておく」

「よろしくお願いします」

身体は、確かにあちこち痛い。打ち身のようになっているはずだ。

「薬草園も謝罪しなければなりませんね」

「私の方からしておくよ。リリアンヌはまずは怪我を見てもらって、そのあとスカーレット様に怒られないと」

怒られます。

今回の計画を黙っていたから。

「私の方が怒られそうだけどなあ」

「押し進めたのは私ですから」

でも、怒られるのは嫌だなぁ。

「ジュマーナさんはどうなるんですか?」

「どう、とは?」

「帰国して女王を目指すのですかね」

「いや、それすらもなくなった。留学中に禁忌を犯したんだ。忍耐力のない王を皆が求めると思うか?」

「ない、ですね」

ひとりの未来が閉ざされたと聞いて、少し心がざわつく。

「さ、先生に見ていただこう」

フィニアスは他の始末をしてくると、送り届けてそのままでていった。

野営実習のとき足を治してくれたあの教師だ。

カーテンで仕切り、服を脱いだら唸りながら背中に手を当てる。その手がずいぶんと温かい。

「内臓は問題がないようです。不幸中の幸いです。ただ、身体中あちこちにあざがあります。ひどくぶつけたようですね。何があったのかしら」

「ええっと、どこまで話して良いものかわからないので」

他国の内情に関わることだ。

「まあ、わかりましたが。さらに強い痛みが出てくるかもしれませんね。よく体を休めてください。首は後から症状が出たりが怖いです。体術の授業を取っているようですから受け身はできたのかしら? 目眩などの症状が出たらすぐに知らせること。痛み止めを処方しておきます」

服を着るように指示される。

「フィニアスさんが迎えに来ると念押ししてらしたから、少し横になっていなさい」

お言葉に甘えてベッドに寝転がる。

実はだんだん身体中に痛みが出てきた。やはりあの衝撃は凄まじいものだったのだ。さらに加えてあの威圧に対峙して、疲弊していたのは事実。気付けばうとうとと眠ってしまっていた。

目が覚めると、それはもううっとりとするほど綺麗なスカーレット様が目に飛び込んできた。

図書館で借りた本だろうか、ベッドの脇で優雅にページを捲る姿にしばらく黙って見入る。

すると、こちらの熱のこもった視線に気付いたのか本から目を上げた。

「リリアンヌ、身体は?」

柔らかく微笑むスカーレット様にこちらも自然と笑みがこぼれた。

「大丈夫です。多少あちこち痛いですけど、すぐ治るものです」

そう、と呟いてさらにため息。

でもそれ以上何も言わない。

何か怒られたりすればまたそれに言い訳なりなんなりできるのだが、何も言ってもらえないのは逆に堪える。

「わたくしが望んだことなのです」

「……でしょうね。リリアンヌはいつも自分を犠牲にするわ。いつか、大怪我をしてしまわないか心配よ」

「ご心配おかけして申し訳ございません」

「何を言っても聞かないのでしょうけど、これからはフィニアスさんに見張っていただかないといけないわね」

「フィニアスさんにですか!?」

「その方があなたは言うことを聞きそうだし」

ニッコリと笑顔で言われる。

「この間までのは演技なので!!」

これからはさすがにあそこまではないと思う。たぶんきっと。

「どうかしら」

スカーレット様の笑顔が怖かった。

その後はスカーレット様と部屋へ向かい、翌日は授業をサボって寝て過ごしました。

いや、本当は出たかったんだが、やはり威圧の吸収しきれなかった残りの威力が凄まじく、一晩寝て目覚めたら身体中がギシギシと痛んだ。

そして部屋に花束が届く。

「愛されてるわね〜」

アンジェラが茶化すが、もう、違うとは言えない状況だ。認めるしかないのだ。

ユリの花が青い小花と一緒になっている。

ベッドでゴロゴロしている代わりにアンジェラが花瓶に生けてくれた。

「朝、食堂で一悶着あったのよ。マーガレットさんがフィニアスさんに、愛を説いていたわ。要約するとジュマーナさんが可哀想だと言うことなんだけどね」

「この短期間にどれだけ仲良くなっていたのかしら」

まさかそこでマーガレットが行動を起こすとは。

「フィニアスさんは、国のことだから口を出さないように言ってたわ。それはもう、ピシャリって感じだった。ギルベルト殿下に慰められていたけどね」

それで、とアンジェラが封書を三つ差し出す。

「一つはスカーレット様から、もう一つはデクランさんから、さらにユージンからね」

ペーパーナイフを取ってもらい、嬉々としてスカーレット様のものから読む。が、それはスカーレット様の父、ラングウェル公爵からのものだった。

中身は以前言っていた、マーガレットが平民ではないかという疑いについてだが、間違いなく男爵家の娘であることがわかった。

さらに、ウォルポート公爵が本格的に動き出し、ギルベルト殿下とも何度か連絡を取っているようだとのことだ。

これは、養子を固めて婚約者にするつもりか? だが、スカーレット様との婚約を解消するためにはよっぽど聖女を得ることが大切だとするか、スカーレット様に汚点がなくてはその後が大変だ。

ギルベルト殿下やマーガレットではそこまで考えていなかったとしてもわかるが、ウォルポート公爵がそれはないだろう。

つまりスカーレット様に汚点となるものを見つけているか、さもなくばこれから作るか、だ。

今まで以上に身辺に気をつけるようにとのことだった。

二つ目のデクランからは、パーシヴァルつまり魔塔主からの手紙を預かったものだった。

先日の杖習得後の実習場になった魔の森の調査結果だ。

ところどころおかしな魔力溜まりがあり、不審な点が多い。騎士団とも協力して調べてみたが、それ以上の手がかりは得られなかった。

引き続き調べるが、学園に近い魔の森のことなので十分に気をつけること。近頃ギルベルト殿下周りの動きが怪しいので、スカーレット様はあまり出歩かない方だから心配はないと思うが、私はよく出回っているので注意を怠るなとのことだった。

なんだか、信頼の置かれてる度合いが違っていて不満を感じる。

魔塔に用事がある時はメイナードを頼るか、パーシヴァルを呼びつけろともあった。

魔塔主を呼びつけるのはさすがに恐れ多いだろう。メイナードに頼もう。とはいえ、今は特に行く予定もないので大丈夫だと思いたい。

そして待ちに待っていた三通目、ユージンからの手紙だ。

今月のだいたいの売り上げなど詳しいものではないにしろ、利益の話があり、その後に例の件は予想通りに進んでいると結んであった。

私はその手紙を皿の上で燃やすと笑みをこぼさずにはいられない。

「ごきげんね」

「市井での噂の報告があったの。歌劇座の演目は想像以上にウケているらしいわ」

「ああ、王子様と平民の少女の話ね。私も先週見に行ったわ」

「その上で神殿でマーガレットさんと一緒のところを見られたでしょう?」

誰がとはあえて言わない。

「そうしたらね、平民の間で噂されてるの。まるで歌劇座の演目ではないかと」

王子はギルベルト殿下、平民の少女は聖女。

「同時にね、こんな噂も流れてるの」

もしやこの演目は、二人のことを題材に描いた物語なのではないか? と。

「……本当なの?」

「マーガレットさんは正真正銘男爵令嬢。でもそんなこと平民にはまったく関係ないことよ。王子様と平民の少女のロマンスが彼らの気持ちに寄り添っているというのが大切なのよ」

平民が王族になる。

そんな夢のような話に盛り上がる。

「そのうち噂は真ん中が抜け落ちていくの」

一人歩きしだす前に事態は簡略化される。二人のことをモチーフとした演目が、二人のロマンスを描いたものになり、平民の気持ちをとてもよく分かる聖女は、平民だったからよく分かるのであるのだろうと。

「恐ろしいわね、噂って」

「ええ、貴族は噂に殺されるのよ」

しかし、地位は黒を白にする。

だからマーガレットを公爵家の養女にさせてはならない。するのならば、公爵家ごと落ちてもらわなければいけないのだ。

公爵家を貶めるのはなかなか難しい。あちらだって老獪な貴族である。

マーガレットを養子とするにはためらう出来事をちりばめていくしかないだろう。

「打てる手はできうる限り打っていかないとね」

そんな私を見つめてアンジェラは言う。

「聖女サマは、リリアンヌをそこまでさせるなんて一体何をしたんだろうね」

今回のことだけなら、ここまでするかと思えるのかもしれない。だが、私がいろいろと手を尽くしたから、これだけのことにおさまっているのだ。

「違うか、スカーレット様にどれだけのことをしたのか、か」

「そうね、スカーレット様に仇なす限りわたくしの敵だわ」

こわいこわいと茶化して、アンジェラは部屋を出ていった。