軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44 密かに進行する事態3

アイオライト王都、第十七地区。

グランヴァリア王立魔術学院の近くにある、ストロベリーフィールズ家所有の私設図書館。

何も無いはずのその地下に、それはあった。

地上から四十二メートル。

外周をアダマンタイトで覆われたその施設は、隕石が落ちてきても計算上では耐えうる異常なまでの頑強さを誇っていた。

「002(セカンド)の父君と祖父君もとんでもないものを作ったものだ。彼の大帝国にもここまですさまじい施設は存在しないだろう」

最下層、円卓の会議室に腰掛けたドランは言った。

「当然よ。ストロベリーフィールズ家が総力を結集して作った施設なんだもの」

ロールした髪を揺らしたのは、ウィルベルだった。

「最新最高の技術のすべてが、この施設には注ぎ込まれているわ。帝国軍精鋭部隊の魔術砲火でも、傷一つつけることはできないでしょうね」

「素晴らしい。実に素晴らしい」

ドランはうなずいて言う。

「ブルーノ・タウンゼントのおかげで、人々は巨悪と戦う正義の存在をより好意的に捉えるようになっている。我々黒の機関の活動も、受け入れられやすい土壌ができたと言えるだろう」

「なるほど! それが狙いだったのね!」

「そういうことだ」

本当は何も考えておらず、ただかっこよく正義の味方的なことをしたかっただけなのだがそんなことはもちろん言わない。

「では、早速今日も世界の闇と戦う活動を始めよう」

「まだアーヴィスくんには伝えないの?」

「まだだ。ゼロ様は大変お忙しい。今も 全国魔術大会(ヴァルプルギスナハト) と、謎の化物との戦いに日夜追われているはずだ。これ以上負担をかけたくない」

「すごい人なのね、アーヴィスくんって」

感心した様子で言うウィルベル。

「私様たちも、負けてられないわね! がんばって世界を守っていかないと!」

「そうだ。今日は完成した戦闘用スーツの実戦テストをしようと思う」

「戦闘用スーツの実戦テスト?」

「ああ。スペック上は素晴らしい出来とはいえ、それはあくまで机上での話。実際に使わなければわからないこともある」

「実戦で試してみるってわけね! 楽しみ!」

声を弾ませるウィルベル。

「でも、誰を相手に試すの?」

「ここに犯罪を犯し逃走中である賞金首の手配書がある。世界の闇というには、物足りない小物ばかりだが、試験の相手としてはちょうど良いだろう」

「いいわね! 早速とっ捕まえにいきましょう!」

006(シックス)からの通信が入ったのはそのときだった。

『001(ファースト)、ターゲットのアジトを発見しました。中にいる人数は二十二人。現在幼稚舎に通う貴族令嬢を身代金誘拐する計画を立てているようで、明日にも実行に移す予定のようです』

「新たな犯罪に手を染めようとするとは……なんたる外道」

「絶対に今日中になんとかしなきゃ! 黒の機関の出番ね!」

うなずく二人に、006(シックス)は言う。

『ええ! 絶対に許すわけにはいきません! 小さな女の子を誘拐しようとするなんて……!! 小さな女の子は世界の宝です! この世界で最も愛らしく美しい、神が作り出した最高の贈り物。それを傷つけるような真似、絶対に許されない……!!』

「「え?」」

流れる沈黙。

006(シックス)は慌てた声で続けた。

『あ、いえ、私はロリコンではないですよ! ええ! 絶対に違いますから、決して誤解されませんよう! 私はあくまで、芸術として主観を忘却した客観的な視点から、小さな女の子の素晴らしさを評価しているだけで、決してロリコンというわけでは――』

「…………」

「…………」

ロリコンだった。

ロリコン以外の何者でも無かった。

「またFクラスに業が深い生徒が一人増えてしまったか……」

「私様に近づかないでもらえる? ロリコンがうつるわ」

『違います! ロリコンではありません! 信じてください!』

響きわたる006(シックス)の叫びを背に、二人は壁に掛けられた絵画の前に移動する。

001(ファースト)が指を鳴らす。

壁の絵画は回転して奥から大量の魔術兵器と戦闘用スーツが現れる。

「行こうか。世界を変革するために」

001(ファースト)は言った。

◇◇◇◇◇◇◇

side:クラッコ盗賊団

その日、彼らは明日決行予定の身代金誘拐。その最後の打ち合わせを行っていた。

「警備の騎士は二人だが、所詮騎士団崩れの半端な連中だ。数で勝る俺らの敵じゃねえ。カルロは西の入り口から。タイレルは非常口を封鎖する」

当日スムーズに動けるよう、一つ一つ丁寧に確認する。

打ち合わせが終わって、言ったのは一人の盗賊だった。

「いくら分捕れるか楽しみだな」

「俺は金よりも暴れられるのが楽しみで仕方ねえよ。何もない日常が当たり前に続くと平和ボケしてた連中が、絶望する顔が早く見てえ」

「まったくだ。貴族のガキなんて、嫌な思い一つしたことないんだろうしな。さぞいい声で鳴いてくれるだろうよ」

笑い声が響く。

最初に異変が起きたのはそのときだった。

「おい! 何かいる! 何かいるぞ!」

見張りの盗賊から悲鳴のような声。

「何だ! 何があった!」

団員たちが駆けつけたとき、見張りの盗賊は既に意識を失い倒れ込んでいた。

そして、何もない空間から突如現れたのは、四人の戦士。

全身黒尽くめのその顔は、仮面で覆われている。長いマントを翻し、彼らは足取りを揃えてゆっくりと近づいてくる。

「い、いきなり何も無いところから……!?」

「なんなんだ、こいつら……」

突然の事態に混乱する盗賊たち。

「慌てるな! どんなトリックを使ってるのかは知らないが、撃ち殺してしまえばいいだけだ!」

団長の男の鋭い声。

それで、ようやく彼らは冷静な思考を取り戻したようだった。

懐から、自動式魔術小銃を取り出し、一斉に放つ。

耳を裂く、轟音。

煙が、視界を遮る中、盗賊たちはほっと息を吐く。

間違いなく殺したはずだ。

あれだけの量の弾丸を浴びて、人間が生きていられるはずがない。

しかし、ゆらめく煙の中から現れたのは、無傷のまま近づいてくる四人の姿だった。

「ば、バカな……」

「嘘だろ……」

「傷一つ無いなんて……」

呆然とする盗賊たち。

「想像以上だな。ここまでの性能とは」

言ったのは、黒衣の男の一人だった。

「当然よ! 私様のお父様とお祖父様が総力を結集して――むぐっ」

「002(セカンド)! いけません! 雰囲気が崩れます」

「そ、そうだったわね」

黒衣が黒衣を諫めている。

一体何なんだ、と思う盗賊たちに、団長の男が言う。

「行け! 銃が通じないなら斬り伏せれば良いだけだ!」

やられる前にやるしかない。

一斉に斬りかかる盗賊たち。

対して黒衣の戦士は何もしなかった。

何も。

何一つも。

(取った……!!)

この距離ならもうかわせない。

全身の力を込めて振り抜いたサーベルが、黒衣に吸い込まれる。

鋭利なサーベルは、肩口から身体を貫通し、骨ごとその身体をゼリーのように裂くことだろう。

しかし、彼らの予想は裏切られた。

止まっている。

サーベルはすべて、黒衣に触れたところで止まっている。

「無駄だ」

黒衣が拳を振り抜く。

人間のそれとは思えないすさまじい動きは、王立騎士団の筆頭騎士級。近くにいた盗賊たちは次々となぎ倒されていく。

(ば、バカな……)

目の前で為す術無く蹂躙される団員たちを、見つめて団長は言葉を失う。

( 王の盾(キングズガード) でもここまでの動きは……)

黒衣の男はゆっくりと、団長に歩み寄る。

「お前たちは一体何者なんだ……?」

「――黒の機関」

黒衣の男は言う。

「世界の闇を狩る漆黒」

(ば、化物だ……格が違う……)

腰を抜かした団長は、首筋に手刀を受けて失神する。

その日、王立警備隊が十年追い続けて捕まえられなかったクラッコ盗賊団は壊滅し、すべての団員が簀巻きにされて刑務所の前に並べられたのだった。