軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.見つめるもの(第2部エピローグ)

花火を上げた、2日後の夕暮れどき。

アリスは1人尖塔の前に立っていた。

頂上を見上げながら思案に暮れる。

(――一昨日のアレ、いったい何だったんだろう)

あのとき、アリスは確かに“視線”のようなものを感じた。

テオドールに分からなかったということは、魔力的な何かの可能性が高い。

(すごく気になるよね)

本当は昨日確かめに来たかったのだが、風が強すぎてこられなかった。

今日こそは確かめよう。

アリスは、尖塔の中に入った。

中は暗くガランとしており、石と土の湿った匂いがする。

彼女は石畳の床を横切ると、壁際の石段をゆっくりと上り始めた。

壁に手を添え、慎重に階段を踏みしめていく。

――そして、一歩また一歩と上がること、数分。

ようやく最上階にたどり着くと、空は血のように赤く染まっていた。

びゅうっと冷たい風が吹き抜ける。

(っ! ……寒いっ)

アリスは軽く身震いすると、上着を両手でかき合わせた。

石の手すりに軽く寄りかかると、手を擦り合わせながら、眼下に広がる森をながめる。

奥の方に視線を向けると、木々の隙間から湖面がチラリとのぞいた。

目を凝らすと、対岸には霧に包まれた遺跡がぼんやりと浮かび上がっている。

「あそこに転移陣があるってことだよね……」

アリスは小さくつぶやいた。

天気の良い日以外は霧に隠れてほとんど見えないが、あの王宮遺跡の地下が転移先であることは間違いない。

(転移陣を完成させるためにも、一度は行ってみたいんだけど……どうなんだろう)

エマの話によると、湖の周辺には強力な魔物が出没するということだった。

さらに湖の底には水棲魔獣がうようよしていて、ここに来て8年になるビクトリアたちでさえ、対岸へ渡ったことはないという。

(何とか安全に行く方法、ないかな)

アリスがそんなことを考えていた、そのとき――

「……っ!」

突然空気が変わった感じがして、アリスは反射的に体を強張らせた。

……ガアァァッ!

続けて、地鳴りのような咆哮が聞こえてくる。

声のした方へ目を向けると、遥か遠くの空をドラゴンの飛ぶ姿があった。

真っ赤な夕日に照らされて、鱗が赤黒く光っているのが見える。

(……び、びっくりした……)

彼女は胸に手を当てると、乱れた息を整えた。

結界を修復して魔力の震えがなくなったので、なるべく気にしないように努めていた。

こうやって改めて見るとやはり圧倒的な存在感だ。

アリスの視線の先で、ドラゴンは森の上空を悠々と旋回し始めた。

恐ろしいはずなのに、なぜか目が離せない。

その姿を追いながら、アリスはふと思った。

――どうしてドラゴンは、この古城を狙っていたのだろうか。

「……というか、1000年前の人達って、どうやってドラゴンに対処していたんだろう」

実のところ、アリスはこの古代都市が滅んだ理由はドラゴンのせいだと思っていた。

ドラゴンに襲われて街が滅んだという伝説は多いし、あまりにも圧倒的な存在だったからだ。

(でも、1000年前の古代地図に描いてあったんだよね、ドラゴンの絵)

描いてあったということは、当時からいたということだ。

古城の結界は、古代都市のほんの一部しか覆うことができない。

つまり、この古代都市には、別途何かドラゴンを防ぐ機能があったことになる。

(やっぱり結界かな……)

この古城の地下にある結界のようなものが、他にも複数あって

重なるように街を覆っていたのかもしれない、と考える。

(でも、そうなると、この都市が滅んだ理由が分からないよね……)

ここまで考えて、アリスはふと思い出した。

(……そういえば、カスレ村の老人たちが言っていたっけ。自分たちは“ヴァルモアの民”で、この地を守ってるって)

彼らはこの古代都市の末裔だったりするのだろうか。

もしかして、何か伝承が残っているかもしれない。

考え込むアリスの視線の先で、ドラゴンが小さく咆哮した。

ゆっくりと首をもたげ、アリスの方をまっすぐ見て――目が合う。

「……え……?」

アリスは凍りついた。

世界が止まった感覚がする。

ドラゴンの無機質な目に見られ、心の中はどうしようもないほどの恐怖に埋め尽くされるが、なぜか目が離せない。

しばらくして、ドラゴンがまるで何かを確認が終わったかのように目を逸らした。

方向を変えて飛び去っていく。

アリスはその場にへたり込んだ。

背中が汗でびっしょりで、心臓が嫌な音を立てる。

「み、見られてた……」

見る側から見られる側に回った

そんな気がする。

「もしかして、一昨日の視線は、ドラゴン……?」

一瞬そう思うものの、アリスは首をブンブンと横に振った。

ドラゴンが山から降りて来たのは、今日だ。

一昨日の視線がドラゴンであることはありえない。

「それに、一昨日の方がドロッとしていた気がする……」

冷たい風が吹き始めた。

アリスの首筋が冷たくなり、これ以上ここにいるのは危険だと、本能が警鐘を鳴らす。

「……戻ろう」

彼女は何とか立ち上がった。

逃げるように塔を降りていく。

静まり返った森の向こうから、低い咆哮が聞こえてきた。