軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やるべきこと

五日目。アルテはニーナと二人でハウリン村の中を遊びつくし、実に楽しそうに過ごした。

そして、依頼最後の日である六日目を迎えた。

朝食を食べ終わるとアルテがステラやニーナ、アンドレを伴って俺の家にやってきた。

アルテが帰還するのは事前に今日であるとニーナたちもわかっている。

これから帰るアルテを見送りにきてくれたのだろう。

「……アルテお姉ちゃん、もう帰っちゃうの?」

ニーナが寂しそうな顔でアルテに言った。

二人は、この三日間ですっかりと仲良しになっていた。

それ故に、こうして訪れてしまった別れが悲しいのだろう。

「わらわももう少しここにいたかったのじゃがな。わらわにはやるべきことがある」

ニーナの言葉に嬉しいような困ったような複雑な笑みを見せてニーナの頭を撫でるアルテ。

背丈にあまり違いはないものの、こうして大人びた様子でニーナに接しているアルテは姉のようだった。

「……わかった。また遊びにきてね?」

「うむ、必ずじゃ」

ニーナとアルテは名残惜しそうに手を繋いで、それから離した。

「次は俺が釣りを教えてやるから、いつでも来いよな!」

「ニーナもすっかりと懐いていますし、アルテがいると家も明るくなりますから私も大歓迎ですよ」

「アンドレ、ステラ……二人ともありがとうなのじゃ。暇ができたら必ずまた遊びにくる!」

アンドレとステラの言葉に感激した表情を浮かべるアルテ。

その時は俺が連れてくることになるだろうが、ハウリン村で遊んでいるアルテは本当に楽しそうだったので、できる限り力になりたいと思った。

「王都に戻ればいいのか?」

ニーナたちとの別れの言葉が済んだところで、俺はアルテに問いかける。

「いや、最後に連れていってもらいたい場所がある」

アルテの真剣な表情を見るに、次の場所こそが彼女にとって一番行きたい場所なのだろう。

彼女が次に求める場所こそが、俺に連れていってほしいと願う真の場所だ。

「どこだ?」

「ここじゃ」

俺が尋ねると、彼女は懐から小さな地図を取り出して指をさした。

その場所は王都から西に進んだ場所にある土地だった。

というより、正式に言い表すと王家が所有している土地。

そこには王家の者しか入ることの許されない場所だった。

それを明かすということは、アルテは自分の身分を明かしているも同然だった。

つまり、アルテが王族であると。

「わかった。一瞬で、とは言わないけど連れていくよ」

「……ここに行きたいと行っても、何も動じないのじゃな?」

「だって、アルテにはそこに入る資格があるだろ?」

「なんじゃわかっておったのか……」

「気付いたのは途中だけどね」

あの時、エミリオに指摘されなければ恐らく気付かなかっただろう。

王族なんて雲の上の存在で、縁がないと思っていたし。エミリオから告げられた時は動揺したものだ。

「自分でも言うのもなんじゃが、よく知っていて自然体でいれたものじゃな」

「だって、俺に依頼してきたのはただの冒険者のアルテだろ? だったら、このまま接するさ」

あと、他には俺がこの世界の人間じゃないから、そういった特権階級へのイメージが薄いせいもあるかもしれない。すごい権力を持った王族がいるとはいっても、いまいちピンとこないのが正直なところだ。

とはいえ、さすがに公の場では、こんな軽い態度で接することはできないけどね。

「それもそうじゃな。では、もう少しの間は今のままで頼む」

「わかったよ」

アルテが不快の思っていないようなので、もう少しの間はこのままの口調でいくことにした。

「ニーナ、ステラ、アンドレ、世話になった! 暇ができれば、またやってくるからの!」

「うん! また来てね!」

アルテが別れの言葉を述べると、ニーナやアンドレ、ステラが手を振ってくれる。

「うむ! では、さらばじゃ!」

アルテも手を振り返し、そんな言葉を述べると同時に俺は転移を発動させた。

景色が移り変わり、ハウリン村からだだっ広い平原に変わる。

「うぬ? ここはわらわの言った場所とは違うぞ?」

その通り、ここは王都から西にあるカルツ平原だ。

アルテの願った場所には大幅に近づいてはいるが、まだまだ距離がある。

「生憎とあの場所には俺も行ったことがないから、一発でとはいかないんだ」

なにせ王族しか入ることのできない場所だ。ただの平民である俺が入れるわけもないし、不用意に近づいただけで疑われる。

つまり、マッピングをしたことがないので一発でその場に転移とはいかないのだ。

「ほお、クレトの魔法にはそのような制限があるのじゃな。あまりにも便利じゃったから、当然とばかりに考えていた」

「ちなみにアルトとしては、どのくらいの時間に戻ることができればいいんだ?」

「できれば昼までには帰っておきたい。そうでなければ、夕方のパレードに間に合わなくなり、わらわが大目玉を食らう」

「今から帰ったところで大目玉は確定していると思うけど」

「それは言うな。どうしても行きたい場所なんじゃ」

もっともな正論を言うと、アルテはどこか遠いところを見るような視線をする。

そのことについては現実逃避中らしい。パレードを前にして王女が行方不明なんて怒られないわけがないよな。

「わかった。そういうことならできるだけ早く向かおう。少し荒っぽい移動になるが勘弁してくれ」

「うむ、ドンとこいじゃ!」

アルテをはじめとする王族や役人たちのためにも早く用事を済ませて帰る方がいい。

そう告げると、アルテは胸を張って自慢げに叩いた。

お、多少荒くなっても平気というわけか。それは頼もしい。それなら遠慮なくやらせてもらおう。

「じゃあ、空に飛ぶぞ」

「うん? 今――」

アルテが首を傾げて問いかけてくる時間も惜しかったので、俺は複数転移を発動して西の空に移動。高度百メートルくらいのところまで一気に転移。

空中に転移した俺たちは浮遊感を感じながら重力に引っ張られて下降を開始する。

「なんとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

それに伴いようやく状況を理解したアルテが悲鳴を上げた。

「く、クレトぉぉっ!? 落ちる! 落ちる! 落ちる! というか、既に落ちているのじゃ!」

「大丈夫だ! 地面に激突する前にまた転移するから!」

落下していって地面が近づくより前に数キロほど先にある西の空へと再び転移。

またしても上空へと転移し、そこから休息に落下をする。

しかし、地面に落下するよりも前に俺が転移を繰り返して、あっという間に進んで行くので問題ない。

強いて困る点があるとすれば、高所から落下するかもしれないという恐怖感と、断続的に上昇と落下を繰り返す浮遊感が慣れなければ気持ち悪いくらいか。

とはいえ、俺の魔法があれば落下して地面に叩きつけられることはあり得ないし、そんな地面すれすれまで降りるわけでもない。

遊園地にあるような落下系の遊具とそうスリルは変わらないだろう。

「アルテ、ちょっと怖いけど慣れれば景色が綺麗だろ?」

「…………」

「アルテ?」

ずっと黙っているのも退屈だろうと声をかけるが、アルテから返事がくることはない。

というか、やたらと静かだ。

気になってアルテを見てみると、ぐったりと状態で宙を舞っていた。ふらりと回転しているアルテを見れば白目を剥いていた。

「あっ、気絶してる」

王女として以前に淑女として人に見せられないような顔だった。

別に気絶させたままでも転移できるが、気絶したアルテを空に放り出すように転移するのは忍びない。

仕方なく俺はアルテを抱きかかえて、そのまま黙々と転移を繰り返すことにした。

とりあえず、目的地にたどり着いたら謝ろう。