作品タイトル不明
まるで姉妹
「思ったよりも遅かったな?」
「すみません、ネギ坊主のことで話し込んでしまって……」
転移で戻ってくると、アンドレが焚火をいじっていた。
「ネギ坊主のことはどうだった?」
「きちんと使われていたようです。というか、料理店のシェフからはもっと数が欲しいと要望があったくらいでした」
「おお、そうか。それならもう少し多めに送ってやってもいいかもしれねえな」
「無理のない範囲で渡してあげると喜ぶと思いますよ」
「俺たちが食べる分も残しておかねえとだからな!」
ガハハと笑い声を上げるアンドレ。
「こんな風に村の外でも売って稼げるようになったのはクレトのお陰だ。本当にありがとうな」
「いえいえ、俺はいい物をもっと多くの人に広めたかっただけなので」
本当にすごいのはこんなに美味しいものを作り続けているアンドレたちだ。
俺はそれを運んでいるだけに過ぎないのだから。
なんだかこんな風に真面目に言われると気恥ずかしい。
「それより、他の皆はどこに行ったんですか?」
「ああ、ニーナとアルテなら家で一休みしてるぜ」
俺の露骨な話題転換にアンドレは苦笑しながらも答えてくれる。
アンドレにそう言われて様子を覗きに行ってみる。
アンドレの家にお邪魔してみると、リビングにあるソファーではアルテとニーナが折り重なるように横たわっており、健やかな寝息を立てていた。
そこにステラが静かにやってきて二人に薄いタオルケットのようなものを優しく掛けた。
「お腹がいっぱいになって眠ってしまったようです」
「そうみたいですね」
仲良さそうに眠る二人を見て、俺とステラは小さく微笑む。
二人は血の繋がりはまったくないし、出会ったばかりの関係だけど仲良くなったものだ。
ついさっきエミリオから王国の第一王女だと言われ、恐々としていたがこうした姿を見るとアルテもただの女の子だと思える。
俺にはアルテの事情や抱えている悩みにはわからないけど、依頼として彼女に頼まれた以上は最後まで付き合ってあげたいな。
「クレトさんがよければなんですけど、こちらにいる間はアルテさんをうちで泊めてあげてもいいですか?」
「俺は構いませんけど、いいんですか?」
家は隣だし、自分の家に泊めるのもどうかと思っていた部分もある。
宿ならともかく、同じ屋根の下というのはバツが悪かった。
アルテの正体が王族だと知ってからは尚更だ。密かに頭を悩ましていたので、ステラの提案は渡りに船だ。とはいえ、迷惑ではないのだろうかという気持ちがある。
「とても気持ちのいい子ですし、ニーナも懐いているようなので。ハウリン村にはあまり同じ年ごろの女の子は少ないですから」
「確かにそうですね。アルテが頷くようであれば是非お願いします」
「ありがとうございます」
王女であることを隠して預かってもらうのは心苦しいところもあるが、ここはステラの気持ちに甘えることにした。
多分、アルテなら喜んで頷くと思う。
そんな俺の推測は正しく、起きてからのアルテの返事は輝かんばかりの笑顔だった。
●
「クレト―! 体操しよう!」
四日目の朝。朝食を食べ終わって食器を洗っていると、ニーナが庭の窓を開けて元気良く言ってきた。
隣には遅れて顔を覗かせているアルテもいる。顔色がいいことから昨日はしっかりと眠れたらしい。
「わかった。すぐに出るよ」
最後に洗い終わった食器を掛けると、靴を履いて庭に出る。
「体操とはなんじゃ?」
「身体を伸ばして動きやすくさせるんだ!」
「ほう、騎士がやるような準備運動みたいなものかの」
ニーナの大雑把な説明を聞いて唸るアルテ。
どうやらよくわからないままに付いてきたらしい。
普通の者は騎士の準備運動なんて知らないと思うが突っ込まないぞ。
「それじゃあ、やろうか。アルテは俺たちの動きをゆっくりと真似してくれ」
「わかったのじゃ」
アルテが頷き、俺とニーナはいつものラジオ体操を始める。
腕を前から頭の真上に伸ばすと、アルテはこちらを見ながらも真似る。
今日は初心者であるアルテがいるので、少しだけ動きはゆっくり目にしている。
とはいえ、ラジオ体操の動きは簡単だ。
ちょっとした注意点さえ逃さなければ、初心者でも見ながら再現できる。
次は腕を振り子のようにし、横に振って交差させる。
「お、おお?」
「腕を振ると同時に足も曲げるんだよ!」
「お、おお、なんとも愉快な動きじゃな」
ニーナの足の動きを真似て、アルテも足を曲げる。
女性としてはちょっと恥ずかしいガニ股の動きであるが、アルテは恥ずかしがる様子はない。むしろ、愉快そうに笑っている
それから腕回し運動、胸反らし運動などをやっていき、最後に深呼吸だ。
「面白いでしょ?」
「ああ、面白い。それにニーナの言っていた通り、身体の筋肉が良く伸びた感じじゃ!」
どうやらラジオ体操を気に入ったようでアルテも満足そうに笑う。
この世界で騎士がどんな準備運動をしているかは知らないが、アルテからしても新鮮な動きだったようだ。
「この後は何する?」
体操を終えると、ニーナがアルテに問いかける。
仕事に戻る様子がないことから、ステラが気を利かせて今日は免除されているのだろう。
「少し散歩をしてみたい! これだけの緑に囲まれた場所は初めてじゃからの!」
「じゃあ、俺たちのオススメスポットを案内してあげるか」
「そうだね!」
「是非とも頼む!」
ニーナと顔を見合わせて言うと、アルテがわくわくとした面持ちで頷いた。
まだ王都のオシャレな店や面白い店は開拓できていないが、ハウリン村のオススメスポットならそれなりに紹介できる。
アルテがほっこりしながら自然を堪能できる場所を教えてやろう。
散歩に行くことに決まった俺たちは、そのままゆっくりと歩き出す。
雲一つない空に燦々と輝く太陽、視界には青々とした草が生い茂っている。
風に揺られる木々や草花のざわめきを聴きながら、村人たちが踏み固めた土の道を歩く。
「ハウリン村は本当に緑が豊かで綺麗じゃな!」
「王都と比べて人や建物も多すぎず、のんびりとした空気が流れていて、ここにいるだけで癒されるよな」
「まったくじゃ」
都会で長年暮らしてきたアルテと俺はしみじみと呟く。
都会の荒波に揉まれて生きてきたからこそ、ハウリン村の良さがわかるというものだ。
「そうなのかな? 私は生まれてからずっとここに住んでいるからわかんないや」
「でも、ニーナもなんだかんだ王都から帰ってきた時はホッとしただろ?」
「それは……うん、そうだね」
王都に遊びに行って帰ってきた時のことを思い出したのか、ニーナが反芻したように頷いた。
「まあ、俺たちの場合はちょっとくたびれた感じがあるからね」
「うむ、ニーナもこの先色々な経験をすればよりわかるはずじゃ」
「そうなのかな」
それがわかることが本当にいい事なのかはわからないが、今のニーナにとって落ち着く居場所は間違いなくハウリン村だろう。
そんな風に雑談しながら話していると、小川の傍にやってきた。
「ちなみにこの小川は、ちょっとしたくつろぎ場所さ」
「おお、綺麗な水が流れておるの! 冷たくて気持ちが良い!」
流れる水の中に手を入れて気持ちが良さそうにするアルテ。
今の季節のような暑い日であれば、軽く足を入れたりするだけでも十分に涼をとることができる。
俺とニーナも同じように皮に手を突っ込んで涼をとる。
ハウリン村の水はとても綺麗で一切の濁りがなかった。水面をじーっと眺めると、気持ち良さそうに泳いでいる小魚がいる。
水の中を優雅に泳ぎ回る彼らを見ていると、こちらも涼やかな気持ちになれた。