軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルテの秘密

「ネギ坊主の素揚げができましたよー」

ウニールマヨネーズをつけながらネギを食べていると、ステラがネギ坊主の素揚げを持ってきてくれた。

お皿の上には丸い球体のついたネギがころりと転がっている。

傍にある塩をつけて食べるようだ。

「お帰りなさいアンドレ。ちゃんと私の分も焼いてくれていますか?」

「お、おう、勿論ステラの分も焼いてあるぜ」

ステラの微笑みながらの言葉にアンドレがビクッと身体を震わせながら答える。

そんなものを考えずに次々食べようとしていたが、そのことは言わないでおいてあげよう。

「クレトさん、アルテさん。ネギ坊主の素揚げです。どうぞ」

「ありがとうございます、では……」

ステラに差し出されて俺とアルテはネギ坊主を取り、少しの塩をつけて食べる。

ほろ苦く、ほっこりとしており、ネギの味を凝縮したような味だ。

滋養溢れる豊かなネギの香りが突き抜けていく。

ほっこりとしたネギと塩がじんわりと染み渡るようだ。

「ネギの美味しさが詰まっておるのぉ」

「こんなに美味しいものを捨ててしまってたのか……」

「これから食べてあげればいいんだよ!」

後悔する俺にニーナが励ましの声をかけてくれる。

「そうだな」

この美味しさを知った以上、これから捨ててしまうということはあり得ないだろう。

ニーナの言う通り、これからしっかりと味わってあげればいい。

「そういえば、エミリオはこのことを知っているのかな?」

「一応、ネギ坊主もつけたままお渡ししていますけど、どうなのでしょう?」

確かに俺が輸送しているハウリンネギにもネギ坊主はついていた。

しかし、俺のように知らずに捨ててしまっている可能性もあるな。

そうだとしたらかなり勿体ない。

「ちょっとエミリオに聞いてきます!」

「おいおい、そこまでしなくても……」

「もしもを考えると怖いので! こんなに美味しいものを無駄にしたくないです!」

アンドレが思わずといった様子で止めてくるが、貴重な食材の損失を見逃すわけにはいかない。

建国祭の準備でいないかもしれないが一応顔を出してみよう。転移すれば一瞬だ。

そんなわけで居てもたってもいられなくなった俺は、ネギ坊主の素揚げを皿に盛って転移。商会の執務室にやってくると、エミリオは優雅に昼食を摂っていた。

「エミリオ!」

「……どうしたんだい急に?」

エミリオは俺の出現に驚くことなく、冷静に口元をナプキンで拭った。

「ハウリンネギについているネギ坊主はどうしてる?」

「そもそもネギ坊主ってなんだい?」

「ネギについている花だ。開く前なら美味しく食べられるらしいぞ。高級料理店ではちゃんと使われているのか?」

「ああ、村ではそういう風に呼ぶのか。それならちゃんと使われているよ。というより、シェフからもっと多くもらえないかと相談がきていたくらいさ」

「ちゃんと使われているのなら良かった」

エミリオからそんな言葉を聞いて安堵した。

さすがは高級店の料理人だけあってネギ坊主の価値にも気づいていたようだ。

「それだけのためにわざわざ来たのかい?」

「だって、これすごく美味しいんだぞ!? お前も食ってみろ!」

エミリオが大袈裟だとばかりに笑うので、俺は持ってきたネギ坊主の素揚げをズイッと差し出した。

直接持ってきたことに苦笑しながらもエミリオはフォークを使って食べる。

「……うん、確かにこれは美味しいね。クレトが心配し、シェフが欲しがるのも納得だ」

「だろう?」

俺も食べてみてビックリした。まさかここまで美味しいとは。

素揚げだけでなく、天ぷらや揚げ物、炒め物として加えて美味しいに違いない。

さすがはハウリン村の食材だ。

「にしても、休日を満喫しているようで良かったよ」

なんて誇りに思っている俺を見て、エミリオが笑う。

「そっちこそ、建国祭の準備で忙しくなっているかと思ったけど、意外とまったりしてるんだな」

正直、商会に行っても忙しくていないかもしれないと思っていたくらいだ。こうして、私室で昼食を摂っている余裕まであるとは珍しい。

「建国祭は三日後だからね。ギリギリまで忙しなくしなければいけないようにスケジュールは組んでいないよ。後は各々がやるべきことをこなせば回るようになっているはずさ」

「さすがの手際だな」

以前会った時は忙しいと言ってはいたが、なんだかんだと余裕は見せているらしい。

「後は王都の役人との打ち合わせがずれたのが大きいかな」

「建国祭前なのにか? 珍しいな?」

「ここだけの話だけど第一王女が三日前から行方不明らしいんだ」

「それって大丈夫なのか? 建国祭では王族がパレードで顔を出すんだろ?」

「だから、上はてんやわんやしていてね。屋台や商会の方まで目が回っていないのさ」

確かに王女様がいなくなったとすれば大変だな。

祭りの主役でもあるし、それを抜きにしても行方不明とあれば大事だ。

下手をすればパレード自体なくなるような騒ぎなのではないだろうか。

「その第一王女って、どんな人なんだ?」

「アルティミシア=アルデウス王女殿下さ」

アルティミシア? なんだかアルテと似ている名前だな。

「……どうかしたのかい?」

「いや、ちょうど今同行している依頼人と似ている名前だなーって……」

「ははは、さすがにアルティミシア王女がクレトと同行しているなんてあるはずがないよ」

「だよなー。俺の思い過ごしか!」

さすがにそれは妄想が過ぎるか。王女といえば、雲の上の人物だ。そんな簡単に平民が会えるはず

がない。

「と、呑気に笑い飛ばしたいところだけど、念のために依頼人がどんな人なのか聞いてもいいかな?」

なんて笑い合っていたが、エミリオが急に笑みを消して真顔になった。

その落差が怖いぞ。

「もしかして、俺を信じていないな?」

「クレトは時々とんでもない拾い物をしてくるからね。そこに関しては生憎と信用できない」

確かに仕入れに行った際に、希少な素材を見つけてくることはあるが、それと同じような扱いを受けるとは思わなかった。

不服に思いながらも俺はアルテという冒険者について話す。

そんな説明を聞き終わると、エミリオは大きく息を吸いこんで吐いた。

その様子は何か大きな感情を堪えているかのようである。

「……クレト、それは間違いなくアルティミシア王女殿下だ」

「本当に言ってる?」

「藤色の髪のエメラルドのような美しい瞳。この特徴を持っている小柄な美少女というだけで相当絞られるし、さらに国家予算並みの価値を持っている宝石を持ち歩いているとなると、そんな人物は王女殿下しかいないよ」

エミリオにそのように言われると、本当にそうなんじゃないかと思えてきた。

いいところのお嬢さんだとは思っていたが、想像以上に上だった。

「……なあ、エミリオ。一度ハウリン村にこないか?」

「遠慮しておくよ。僕が行ったところでできることもないしね」

エミリオも巻き込んでしまおうと思ったのだが拒否されてしまった。

「建国祭に向けての準備はほぼ終わったんじゃないのか?」

「スケジュールに余裕はあるだけで、当日までにやらなくてはいけないことが無いとは言っていないよ」

などと言っているが、絶対に巻き込まれたくないだけだろうな。

俺が逆の立場でも同じような返事をすると思う。

「にしても、どういう巡り合わせで王女殿下を連れ回すことになるのか。クレトが転移で連れ回していれば、役人や騎士が探し回っても見つかるはずがないよ」

「……それもそうだな」

初日はペドリック、三日目にはハウリン村だ。仮に居場所を知るような方法があったとしても、転移で移動している以上追いつけるわけがない。

というか、国の王女がまさか王都の外に出ているとは誰も思わないだろうな。

「俺はどうするべきだと思う?」

「どういった理由でクレトにそんなことを頼んだのかは知らないけど、建国祭の日には帰る意思があるみたいだし、知らないまま同行していればいいんじゃないかな。下手に連れ戻していい結果にはならないと思う」

「わかった。そうするよ」

下手に連れ帰っても誘拐犯だとか言われそうだし、アルテが自分の意思で帰ろうと言い出すのは待つのが賢明だな。

「……大変だとは思うけど、楽しい休暇をおくるんだよ」

哀れなものを見るような眼差しを受けながら、俺はハウリン村に帰還した。