軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

018 アンベールとフレデリク

「アンベール、お前にはがっかりだ……」

私、アンベール・ムノーは父上の執務室で叱責を受けていた。

父上のまるで価値のない物を見るような目は私の心を冷たくしていく。

「申し訳ありません……」

震える唇で、なんとかそれだけ口に出すことができた。

こうなったのも私がジルベールとの勝負に実質負けたからだ。

私がジルベールに負けた。思い出すだけでも屈辱が甦り、血が沸騰しそうになる。

冷静になるんだ、アンベール・ムノー。冷静に己の敗因を探るのだ。

私はすぐさまジルベールの首を刎ねたい自分を無理やり落ち着けていく。

ジルベールのギフトは【収納】だ。ものを出し入れするだけのギフトだと甘く見ていた。見くびっていた。

それが今回の敗因だ。

「ですが! ジルベールの汚い手口はわかりました! 次こそは負けません!」

未だにジルベールがなにをしたのかわからない部分が多い。だが、そう大見えを切る他なかった。気持ちで負けたら、私は本当の敗者となってしまう。

「負けてもらっては困る。お前はすでにムノー侯爵家の次期当主として認知されているのだからな。お前は誰にも負けてはならない。とくに、ジルベールにはな。それ故に、此度の勝負を途中でやめたのだ。勝てる見込みがあまりにも少なかったからな」

「私がジルベールに劣っていると……?」

父上の言葉だが、それだけは我慢ができなかった。

ジルベールなんかよりも私の方が何倍も優秀だ!

だから、父上も私を次期当主にし、エグランティーヌ姫との婚約者もジルベールではなく私に替えた。そのはずだ!

「そうは言わん。だが、今回の実質的な敗者はお前だろう?」

「く……ッ! あれは、ジルベールのギフトを見誤っていたからで、実力で負けたわけでは……」

「そうだろう。魔法さえ斬れたお前だ。ジルベールの話術に騙されず、じっくり構えればお前が勝っていたはずだ。それをむざむざ大観衆の前で失態を演じおって……」

「申し訳、ありません……」

「アンベール、お前には期待している。いつか、ジルベールとの再戦をさせてやろう。その時は負けるなよ?」

「はい!」

父上は私をまだ見捨てたわけではない。だが次はないだろう。私は誰にも負けることが許されない。

「話は以上だ。下がれ」

「はい!」

「はぁ……」

儂、フレデリク・ムノーは粛々と下がるアンベールの姿に溜息を禁じ得なかった。

アンベールは覇気も強さも十分だが、少し頭の弱いところがある。まったく、誰に似たのか……。

「マルク、どう思う?」

儂は後ろに立っていた我が家の家令のマルクに問いかける。

「旦那様、ジルベール様を切り捨てるのは時期尚早だったのでは? あの力は底が見えません。なにが起こったのか、わたくしにはわかりませんでした……」

マルクの言う通りかもしれない。儂はそんな考えを握り潰して口を開く。

「いや、儂はあの力が【収納】のギフトの限界なのではないかと考えている。元々戦闘向きのギフトではないのだ。【剣聖】のギフトには早々勝てまい……」

【剣聖】といえば、長い王国の歴史の中でも片手で数えるほどの人間しか手にできなかった貴重なギフトだ。そして、【剣聖】のギフトを手にした者は、いずれも大を成してきた。

今回の敗北は、アンベールの愚かゆえのものだ。決して【剣聖】のギフトが【収納】のギフトに劣っているとはいえない。

アンベールを次期侯爵にした儂の判断に間違いはないはずだ。

もし今、ジルベールを次期当主に戻したら、儂は過去の自分の間違いを認めることになる。そんなことはあってはならないのだ。

「予備どもの方はどうだ?」

儂は女を囲い、たくさんの子どもを産ませていた。いいギフトが発現すれば、ムノー侯爵家に取り入れて次期当主にする計画だ。子にどんなギフトが発現するかわからない以上、弾は多い方がいい。

「次々とギフトを発現させていますが、さすがに【剣聖】以上のギフトとなりますと……」

マルクが難しい表情を浮かべている。そうだな。儂も難しいことはわかっている。アンベール以上の頭を持つ【剣聖】のギフトを持つ者が現れれば最高なのだが……。上手くいかんものだな。

「はぁ……。仕方ないが、エロー男爵に手紙でも書くか……」

気が進まないが、仕方ない。

「旦那様はジルベール様との約束を守るのですか?」

「気は進まんがな……」

儂は肩をすくめてマルクに答えた。

本当ならジルベールなど今すぐにでも殴り倒してしまいたいくらいだ。儂がどれだけ細心の注意を払ってアンベールを次期当主として盛り立ててきたと思っているのだ。面倒な事態を作りおって……!

アリスとかいう少女をジルベールから取り上げて、儂の妾に加えて絶望させてやりたいくらいには憎い。

だが、儂は侯爵家の当主だ。当主がたとえ口約束だろうが約束を破るなどありえない。侯爵の言葉というのは、それだけ重いのだ。