軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

016 アンベールとの試合

屋敷のすぐ隣にある練兵場。そこでオレはアンベールと三本先取の試合をすることになった。

「坊ちゃん、大丈夫なんですか?」

「たぶんいけるだろう」

「たぶんって……」

マチューが言葉を失くして青い顔でオレを見ていた。

「そう心配するな。楽に勝ってくるさ」

「坊ちゃん……。負けてもいい。せめて生きて帰ってきてください……」

マチューもオレが負けると思っているようだな。

まぁ、普通に考えればオレの敗北だろう。だが、オレには秘策がある。ただでは負けんよ。

「それでは、アンベールとジルベールの試合を開始する。両者前へ」

フレデリクの宣言で、オレとアンベールは五メートルくらいの距離で向かい合っていた。

「兄上、よく逃げずに来ましたね。兄上は被虐趣味でもあるんですか? なら、これからの時間は兄上にとってご褒美になってしまいますね」

「…………」

「なにか言ったらどうですか? それが兄上の遺言になるかもしれませんが。そういえば、兄上はエロー男爵家の妾腹の娘のために私と勝負するんでしたか?」

アンベールはアリスのことを知っているのか?

「薄汚い生まれですが、見てくれはいいので、私のペットにしてあげますよ。どうですか? 兄上はこれから婚約者まで私に奪われるんですよ? 悔しいですか? 情けないですか? でも、【収納】なんてギフトを貰った弱い兄上が悪いんですよ?」

「…………」

決めたわ。こいつはボコボコにする!

「そうだな。アンベールが勝ったらアリスとかいう娘はアンベールの自由にするといい」

フレデリクも腐ってるなぁ。この強者ならばなにをしても許されるというムノー侯爵家の家風は大嫌いだね。

「それでは両者構え!」

「はあ……」

「…………」

アンベールが溜息を吐きながら剣を構えた。オレも拳を構えてナックルダスターを強く握る。こいつにはタスラムを使う価値もない。

「では、はじめ!」

「ん?」

開始の合図があったのに、アンベールはへらへらと笑ってオレを見ているだけだった。

「兄上に一手譲ってあげますよ」

「なに?」

「普通にやっちゃつまらないでしょ? それに一方的になりそうなので、最初くらいは兄上に活躍させてあげようかと」

「そうか……」

アンベールは自分の勝利を疑っていない。それ自体はいいだろう。だが、それは驕りだよ?

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう」

オレは真っ黒な収納空間を展開する。

「それが兄上のギフトですか? ものを入れたり出したりするだけでしょ? そんなもので何ができるというんです?」

「こうするんだ」

バシュンッ!!!

「あぁぁぁああああああああああぁぁああああああぁぁぁぁぁぁああああああ!?」

一筋の風切り音が空気を引き裂き、練兵場にアンベールの悲鳴が響き渡った。

アンベールは地面を転げ回り、剣を手放して両腕で右膝を掴んでいる。その右膝から先は千切れ飛んでいた。

「わ、私の足があああああああああああああああああああああああああああ!?」

「いったい何が!?」

フレデリクにもなにが起こったかわからないのか、目を白黒させている。

「アンベール様!」

「足を拾ってくっ付けろ!」

「特級ポーションだ! 早くしろ!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

やっとアンベールの窮地に気が付いたのか、アンベールの従者たちがアンベールに駆け寄って治療を始める。

「なにが起こったんだ……?」

「これって、坊ちゃんの勝ち、なのか……?」

「坊ちゃんが、アンベール様に勝った……?」

「そんなバカな……」

オレたちの試合を見守っていた兵士たちがどよめいている。オレはそれを冷めた目で見ていた。

どうせオレが無様に負けるのを期待していたのだろう。ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべてオレを見ていたからな。

「父上、私の勝ちですね?」

「む? うーむ……。そうなるな……。お前は何をしたんだ?」

「お答えできません。わざわざ自分の手の内をさらす間抜けはいないでしょう?」

「うーむ……」

フレデリクはずいぶんと歯切れが悪い。アンベールの勝利を望んでいたのだろう。だが、強者こそが正しい。フレデリクは己の信念が邪魔してオレの勝利を否定できない。

「クソッ! クソッ! 恥をかかせやがって! ジルベール! 貴様はここで殺す!」

ようやく足が治ったアンベールが悪態をつきながら立ち上がった。その目にはオレへの憎悪をたぎらせている。最初にあった余裕などどこにもない。

「じゃあ父上、第二試合といきましょうか?」

「う、うむ。では、両者構え!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

アンベールの呪詛がすごいな。本気でオレを殺しにきそうだ。

「では、はじめ!」

だが、予想に反してアンベールは動かなかった。オレが展開させっぱなしだった収納空間を警戒しているのだ。

なので、オレはアンベールに優しく声をかける。

「アンベール、さっきの礼に一手譲ってやろう」

「……は?」

アンベールの顔は、これ以上人の顔に憤怒という感情を表現するのは不可能というくらい顔を怒りに歪めていた。