軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

015 直談判

「アリスはお菓子でも食べて待ってて。すまないが、オレはちょっと用事ができた」

「え? は、はい……」

オレは応接間を出ると、怒りに任せて速足で父親であるフレデリクの執務室へと向かう。

「はあ……。よし!」

執務室の前で気合いを入れると、オレは執務室のドアをノックした。

するとドアが少しだけ開き、ムノー侯爵家の家令である初老の男、マルクが顔を出した。

「これは坊ちゃま。どういったご用件でしょうか?」

「父上に話がある。取り次いでくれ」

「その必要は無い」

ドアの奥、マルクの向こうから岩を転がしたような声が聞こえてきた。フレデリクだ。

「弱者の言葉など聞く価値もない。追い払え」

「坊ちゃま、申し訳ありませんがそういうわけですので」

まったく聞く耳を持たないな。だが、ここで引き下がるわけにはいかんのだ!

オレは閉まる直前のドアを掴むと、強引にバーンと開けた。

マルクがドアに頭を打って呻いているのを無視してオレは執務机の向こうに座ったフレデリクを睨みつける。

「何をしている? さっさと出ていけ」

「断る! 父上が私の望みを叶えてくださらない限り出ません」

「これ以上お前と話すのも苦痛だ。マルク、こいつを摘まみ出せ」

「かしこまりました。坊ちゃま、失礼します」

マルクがオレの襟首を掴もうと手を伸ばしてきた。マルクは初老の優しい雰囲気の男だが、かなり強い。この力こそがすべてというムノー侯爵家で家令にまでなった男だ。弱いわけがない。

だが、オレはマルクの手を弾くと、マルクの左顎目掛けて右の拳を振るった。

「あぐっ!?」

マルクの体から力が抜けて、バタリと赤い絨毯の上に倒れた。

「くっ!? 先ほどの一撃は……!」

マルクはまだ意識があるようだが、動けないようだ。

「ほう?」

目の前で家令が殴り倒されたというのに、フレデリクは面白そうな顔をみせた。そして、初めて真正面からオレを見る。

「父上、話を聞いてもらいます」

「いいだろう。話だけは聞いてやる」

「ありがとうございます」

まったく、ムノー侯爵家のこの体育会系の上位互換のような、強い者こそが正義みたいな思想はオレには合わないな。控えめに言っても野蛮だと思う。

「父上、私の婚約者のアリスは、おそらく親族から暴力を受けています。我が家で預かることはできないでしょうか?」

「ふむ……。それはそのアリスとかいうのが弱いのがいけないのだ。たとえ妾腹の出だろうが、己の力を示せばいい。我がムノー侯爵家がわざわざ力を使ってまで守ってやる理由にはならん」

やっぱりこの家大嫌いだよ。

そして、今さらっと重要なことを言われた気がした。アリスが妾腹の出? アリスはエロー男爵家の正式な娘ではなく、妾の娘だったのか。どおりで立場が弱いわけだ。

「私には理由があります。私は婚約者を守りたい!」

「儂には関係ないことだ。それでも己の意思を通したいというのならば、己の力を示すがいい。お前にその覚悟があるか?」

「はい!」

「いいだろう。では、お前にはアンベールと三本先取の試合をしてもらおう。それで勝ったら、そのアリスとかいう小娘を我が家で引き取ってやる」

「アンベールと……」

アンベールと試合? なんか話がとんでもない方向にきたな。

「お前も体術を習い始めたのだろう? できないというのなら諦めろ」

アンベールは【剣聖】のギフトを持っている。ギフトを授かってから毎日剣を鍛えてきたアンベールの剣術のレベルはどれほどだろう……?

フレデリクはオレが体術を習い始めたことを知っていた。だが、アンベールはそれよりも長い期間剣術を鍛えている。

おそらく、フレデリクはオレに諦めさせたいのだ。だから、オレにアンベールと試合しろと言っている。だって、普通に考えたら【収納】のギフトで【剣聖】のギフトに勝てるわけがない。

【収納】の秘密を知らなければね。

わかってはいたけど、オレはフレデリクに嫌われているようだな。

「わかりました。アンベールと試合します」

「なに?」

フレデリクはオレを予想外なものを見るような目で見ていた。

そうだよな。普通は諦める。

だが、オレは諦めない。

「そうか。わかった。アンベールとの試合を組むことにしよう。せいぜい無様をさらさないことだな。もしアンベールに負けるようなことがあれば、お前には発言権を認めない。このような徒労はもうたくさんだからな」

「わかりました」

いかにもアンベールの勝利を疑っていないという顔だなぁ。

オレはフレデリクに付いてアンベールの部屋へと向かった。

「父上? なにか御用ですか?」

アンベールは従者と共に部屋にいた。勉強でもしていたのかな?

「アンベール、お前にはこれからジルベールと三本先取の試合をしてもらう。練兵場に行くぞ」

「兄上と?」

アンベールはフレデリクの後ろにいたオレを見ると醜悪な笑みを浮かべたみせた。

「かまいませんよ、父上。最近は兄上が噛み付いてこないので退屈していたところです。久しぶりに躾けて御覧に入れましょう」

仮にも兄に対する態度じゃないんだよなぁ……。