作品タイトル不明
119 大局的視点
「ダンジョンよ! 私は帰ってきた!」
しばらくダンジョンはお休みだと言ったな?
あれは嘘だ!
だって、ダンジョンに潜りたくなったんだもん。仕方ないじゃないか。仕方ないね。うん。仕方ない。
「相変わらず、だだっ広い草原だなあ」
目の前に広がるのは、これまでと同じ草原エリアだ。空を見上げれば、外の時間と同じ位置に太陽がある。ここがダンジョンだとはとても思えないな。
これがダンジョンの第二十六階層の景色だ。ゲームと同じならば、第四十階層まで草原エリアが続いていることになる。まだしばらくお世話になる景色だ。
今回は行ける階層のレアポップモンスターの情報がなかったので、階層攻略の日だ。
まぁ、この階層でもバッファローはポップするのでバッファローのミルクを集めようかな。オレの収納空間に入れておけば腐ることはないし、リットリアに持って行けば無駄がない。集め得なのである。
「行くか!」
オレは草原を駆け出す。出会うモンスターたちをタコ殴りにして次の階層への階段を探す。
ソロで潜っているからか、たまに会う冒険者パーティには驚かれる。
それとも骸骨のお面をしているからかな。たまに剣や杖を向けられることがあるんだけど……。オレはモンスターじゃないよ?
「BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」
「うしっ!」
いつものようにバッファローの群れを退治し、バッファローのミルクを拾っていく。その場で収納空間内でバターにしておくことも忘れない。
「ん?」
草むらからバッファローのミルクを拾っている時だった。草原の一部が白く染まっているのが見えた。
「何だあれ?」
バッファローのミルクを収納空間に仕舞っていると、急にその白い部分が土煙を上げて動き出す。しかも、こっちに向かってだ。
「モンスターか?」
何だろうと思いながら見ていると、だんだんと近づいてくる白い物体。それはヒツジのモンスター、メリーの群れだった。
「メリーか。たしか羊毛と毛皮をドロップするんだよな」
しかし、数が数だ。苦戦することになるかもしれないが、訓練と思えばちょうどいい。
「っしゃ! 来(こ) いや!」
覚悟を決め、オレは英知の歯車を構える。
しかし、メリーの群れは構うことなくオレに突っ込んでくる。
よく見ると、みんなツノが生えてるな。このメリーって全員オスなのか?
そんなことを思いながら、オレは戦闘を開始する。
まず真っ先に突っ込んできたメリーの黒い横顔に右フックをぶち込み、その勢いを利用して重心を少し右にズラす。
脳震盪を起こしたように倒れたメリーを無視して、次に突っ込んできたメリーにアッパー。
途端に空高く打ち上がるメリー。
オレの身体能力もバケモノ染みてきたな。いいことだ。頼もしいね。
打ち上がったメリーも無視して、とにかく目の前のメリーを叩くことに集中する。
「ごふッ!?」
ついにはメリーに囲まれ、全方位からメリーが突っ込んでくるようになった。こうなるとさすがにすべてを対処することは難しい。
「ぐッ!?」
何発かメリーの頭突きを喰らいながらも、それでも愚直に丁寧に対処していく。
武術の基本は大切だ。基本がすべてと言っても過言ではない。
オレはマチューに教わったことを思い出しながら、一つずつ丁寧に対処していく。
ステップを踏み、基本のワンツー。
メリーの突進をステップで避け、避け、合間にその脇腹に拳を叩き込む。
すべては基本だ。
「ごほッ!?」
今度は背中に頭突きを貰ってしまった。オレもまだまだ甘いな。
だが、いい訓練になる。
目の前のことに集中し過ぎた。もっとメリーたちの気配を読まねば。
さっきと言っていることが逆に聞こえるかもしれないが、オレの中では成立している。目の前のことも大事だし、もっと大局的な視点を持つことも大事だ。そして、どちらかに偏り過ぎてはいけない。
「ふッ!」
今度は背後からの突進にも対応できた。
そのまま通り過ぎるメリーの黒い顔面に英知の歯車の裏拳を叩き込む。
今度は入れ違うように真正面からメリーが突っ込んでくる。格好の的ではあるのだが、オレが右後方にサイドステップを踏んで避けて敢えて見逃す。
次の瞬間、オレの目の前にはメリーの白いもこもこの脇腹があった。
真正面から突っ込んできたメリーは、本人にその気はなくても囮だった。あれを殴っていたら、右の真横から突っ込んできていたこいつに頭突きを喰らっていただろう。
目の前のことだけ見ていたら気付けない大局的な視点だ。
一対多数での戦闘では、特に重要な視点になると思う。
まぁ、目の前のことを疎かにし過ぎたらボコボコにされるから、バランスが大事なんだけどね。
オレはそれから小一時間ほどかけてメリーを殲滅した。
やっぱり基本に立ち返ることは大事だね。大局的な視点を得るいい訓練にもなったし、やってよかった。
「さて、アイテムを拾うか……」
後処理として大量の散らばったアイテムを拾うのは面倒だが、またやりたいな。