軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王は神殿の主になる

ガリウスが人知れず、遺跡内部の悪霊化した骸骨兵を一掃してのち。

脅威がなくなったため、本格的な探索――というよりも『発掘』が始まった。

まず着手したのは、神殿までの『道』を確保すること。

上部にある十二の階層を縦に掘り進め、階段を作る。地下深くから物品を引き上げるための大穴も開けた。

精霊獣タイロス指揮の下、ゴーレムたちが作業の中心を担う。

一週間ほどで、地下に放置していた巨大魔力樹の運搬が可能となった。

ガリウスは久しぶりに神殿前に降り立つ。

『まさか門番のオレが、ここに来ようとはな』

傍らにタイロスを、また当初のパーティーメンバーも連れていた。

「スケルトンさんたち、ホントにいなくなってるね」

リッピたちには、『親玉の悪霊獣が退治されて力を失い、彼らは消滅したのだろう』と説明している。事情を知るのはタイロスと、なんとなく察したムーツォ、そして――。

「夜な夜ないなくなってた誰かさんのおかげかしらね」

ぴっとり寄り添ってきたリリアネアが、ガリウスに小さく耳打ちする。

「怒っているのか?」

「怒ってるんじゃないわ。なんていうか、その……ちょっと拗ねてただけね。ごめんなさい」

「いや、謝るのは俺のほうだ。君には話しておくべきだったな。心配かけてすまない」

「へ? や、うん…………ありがと」

「はいそこー。ひそひそといちゃつかなーい」

「いいいいちゃついてないわよ!」

「すまないリッピ。気をつける」

「肯定しないの!」

などと騒ぐ彼らのところへ、神殿からさらに騒がしく走ってくる者がいた。

「ガリウスさんガリウスさんガリウスさあーん! ここは素晴らしいところですよ!」

梟の頭を持つムーツォだ。

「はあ、はあ、ふぅ……走ったら立ちくらみが……」

「普段から体を鍛えたほうがいいな、君は」

「ええ、痛感しました……ってそれよりも! すごいです。本当にすごいのですよガリウスさん!」

疲れた体で小躍りする彼が興奮している理由を、ガリウスは知っている。

「やはり神殿の内部はレアアイテムの宝庫、ということか」

悪霊化したスケルトン兵を倒して回っていたとき、ガリウスも神殿内部に置かれた品々に驚いた。単身であったためにきちんと確認はしていないが、いくつかは目を見張る物だった。

「そんなに?」とリッピが目を輝かせる。

「今日は隠し部屋の確認をするつもりだったが、先にちょっと見てみるか」

ムーツォを先頭に、タイロスを残して一行は神殿に向かった。

緩やかな階段を上り、玄関ホールに立ち入る。

吹き抜けの広いホールだ。正面には大階段が左右に分かれていて、二階へと続いている。ホールの左右には廊下があった。

「みなさん見てください。この柱一本だけでも、大層な価値があるのです!」

玄関ホールの脇にそびえる柱をぺちぺち触るムーツォ。柱は赤い光をにじませている。

ガリウスも柱に触れ、【アイテム・マスター】で構造を読み取った。

「火の魔石が使われている。しかも粉末を混ぜたのではなく、原石を埋めこんであるんだ」

「そうなのです! つまり柱を砕けば、魔石の原石が回収できるのですよ! 柱だけではありません。壁にも、天井にも、床にも埋まっています。赤く光っているところはすべて! ああ、神殿全体から回収したら、百年は火の魔石に困りませんね……」

ムーツォがうっとりする様に、みなは驚きつつも苦笑を漏らした。

遺跡は太古の人々が安らかに眠る場所。そういった考えから亜人たちは荒らすのを躊躇うものだが、中にはムーツォのように気にしない者もいる。

「思うところはあるだろうが、大事に、正しく使わせてもらおう」

ガリウスは言うと、ククルが代表して「はい!」と大きくうなずいた。

神殿は王宮のような造りをしている。

いくつもの部屋が連なり、大広間もあった。しかし生活感は皆無だ。誰も住んでいない以前に、調度品が圧倒的に足りない殺風景な部屋ばかりだった。

玄関ホールから左の廊下に入り、すぐの部屋へ足を踏み入れた。

ベッドもタンスもない。中央にぽつんと真四角のテーブルだけが置かれていた。

リッピがきょろきょろする。

「ここにレアアイテムはないみたいだね」

「いや、そこのテーブルがそうだ」

縁(ふち) や脚には精巧な意匠が施されていて、調度品としては素人目でも素晴らしい出来栄えだ。しかし所詮はテーブル。

ムーツォ以外が首をひねる中、ガリウスはテーブルに近寄ると、聖剣を抜いて斬りつけた。

キィィン……と澄んだ音が反響する。

聖剣が衝突した箇所から白い光が波紋のように広がったものの、テーブルは無傷。

「うそ……なんで斬れないの?」

「手を抜いたとか以前の問題だよね……」

「傷ひとつ付いていないとは……」

ククルが「まさか」とつぶやく。

「 不砕鋼(アダマンタイト) 、なのですか……?」

「正解だ。しかも純度百パーセントのな」

「アダ――ッ!? ちょっと待ってよ。『世界でもっとも硬い金属』が、なんでテーブルに!?」

リリアネアが取り乱すのも無理はない。

アダマンタイトは 神位鋼(ミスリル) 、 幻想鋼(オリハルコン) と並ぶ超々稀少な金属のひとつだ。

純粋な硬度では世界最高。

しかも魔力をまったく通さない特性があるため、純度百パーセントのアダマンタイト製防具は、物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返す。

加工するには同じくアダマンタイトが必要なので、わざわざテーブルにするのは物好き以前の問題だろう。

「他の部屋にはオリハルコン製の大きな棺があった。キッチンらしきには燭台とティーセットがあったが、それはミスリルだったな」

「何がしたかったのかしら……?」

「さてね。ま、何に加工されていようが、稀少な素材が入手できるのだから有難く使わせてもらうさ」

ミスリルは三大希少金属のうちでもっとも硬度に劣るが、通常の金属よりも当然硬い。しかも魔力の通りが極めて高いため、魔石と組み合わせて様々な特殊効果を付与できる。

オリハルコンはミスリルとアダマンタイトの中間に位置し、硬度と魔力の通り易さのバランスが良い。

これらが一度に、それなりの量を入手できるのは幸運だ。

さらに幸運なこともある。

「ここで得られるのは希少金属だけではない。帝国が開発した魔力供給システムに、近いものが構築されているんだ」

大空洞にはちょうど地脈が通っていて、そこから得た魔力を神殿で有効活用しているのだ。

「まだざっとしか調べていないが、効率面で際立っている。魔力樹と組み合わせれば、町単位でのシステム構築が安価に実現できるかもしれない」

「いやあ、夢が広がりますねえ」

ムーツォはうっとりとする。

「それはそれとして、今日やるべきことを片付けるか。こっちだ」

ガリウスは部屋を出て、廊下を奥へ進む。ぐるりと回廊に沿って、ちょうど玄関ホールの階段裏側の辺りにたどり着いた。

大きな扉を開けると、大広間につながっていた。

王宮なら玉座が置かれているであろう数段高くなった場所には何もない。代わりに豪奢な椅子が、部屋の角にひとつずつ置かれていた。

「属性ごとに、どれかの席に座ればいいのかな?」

「わたくしはどこでしょうか?」

「何かヒントのようなものはないのですか?」

注目が集まったガリウスはしれっと答える。

「いや、あれは半分フェイクだ。下手に四人全員が座ると、部屋中が超高温にさらされる」

事前に暴露のランタンと、【アイテム・マスター】で確認済みだ。

「最後の最後で実に意地が悪い。ノーヒントでそれっぽいトラップを仕掛けているのだからな」

部屋自体がひとつのアイテムとして機能しているため【アイテム・マスター】で絡繰りは見抜けたが、逆に言えばガリウス以外では、絶対に正解にはたどり着かなかっただろう。

(見ず知らずの誰かに名指しされているようで気持ちが悪いが……。ま、使えるモノはなんでも使わせてもらうか)

ガリウスはみなに指示を飛ばす。

入ってすぐ左の角にある椅子にリッピを、その対角線上にある右奥の角の椅子にはリリアネアを座らせた。この段階ではトラップは発動しない。

「次にククル。広間の中央に、うっすら円形の模様がある。そこに立ってくれ」

「はいです。えーっと、あ、これですね」

ククルがちょこんと指定されたところに立ち、ゾルトが数段高い場所に移動した。

「ペネレイは左奥の椅子に。座らず、武器を構えてくれ」

「私はどうすれば?」

「ムーツォはそこで待機だ」

言って、ガリウスは右の手前にある椅子へと向かった。

「ペネレイ、三つ数えるから、椅子を 破壊して(・・・・) くれ。タイミングは俺のほうで合わせる」

声を飛ばし、聖剣を構える。

「一、二、三っ!」

大上段に振りかぶったペネレイの動きを視界の端に捉えながら、聖剣を振り抜く。椅子は真っ二つに割れ、ペネレイも椅子を粉砕した。

「ゾルト、すぐそこから離れろ!」

「へ、へい!」

ゾルトは言われるまま高所から飛び退いた。

彼がいた場所が、振動とともに沈んでいく。途中から斜め下にスライドしていき、下からは階段が現れた。

「さて、いったい何が隠されているのやら」

ガリウスはみなを集め、先頭に立って階段を降りていった――。

薄暗い部屋だった。

広さは十メートル四方で、天井は巨躯のゾルトが首を引っ込めてようやく入れる程度。他とは違い、壁や天井、床から光はにじんでいなかった。

部屋の中央に、妙な物がひとつだけある。

ガリウスの胸まで高さの台座の上に、球体が浮いていた。透明で、薄ぼんやり光っている。球体の周りには帯状の魔法陣が三つ、くるくると回転していた。

無機質な声が天井から降ってくる。

≪ようこそ、〝イルア〟の『 主の部屋(マスタールーム) 』へ。代表者はマスター登録を行ってください≫

言っている意味がわからなかった。

暴露のランタンでトラップでないのを確認し、ガリウスだけが近寄って台座に手を添える。帯状魔法陣が回転の勢いを増し、またも天井から妙な声が降ってきた。

≪確認が完了しました。問題ありません。おめでとうございます。貴方を七神殿のひとつ、〝イルア〟の 主(マスター) として登録しました≫

淡々と告げる声の内容を咀嚼しながら、ガリウスは【アイテム・マスター】で台座と球体の情報を読み取る。

(これはただのコンソールか。その先にある〝何か〟までは読み取れない)

と、眼前に妙なものが現れた。半透明の四角い板のようなものが浮いていて、そこに文字が表示される。

≪目標の神殿を選択してください≫

六つの項目が並んでいた。

うち五つは灰色だったが、ひとつだけ黄色をしていて目立っている。しかもその項目の言葉だけ、ガリウスがよく知るもので――。

≪〝イビディリア〟が選択されました。 転移を開始します(・・・・・・・・) ≫

「なにっ!?」

球体が強烈に光る。帯状魔法陣が広がり、ガリウスを捕らえた。

≪なお、マスターは〝イビディリア〟を攻略中であるため、最深到達点に転移します≫

「ガリウス!」

叫んだのは、誰だったか。

そしてガリウスを引き戻さんと腕をつかんだのは、同じ者だったのか。

≪残る攻略ポイントは『 主の部屋(マスタールーム) 』のみとなります。もうすこしですので、がんばってください≫

無機質な声に励まされる中、ガリウスは白い光に包まれた――。