軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王は皇帝の秘密に迫る

『そろそろ決着をつけませんか? 貴方とお話しする用意があります。王宮前の広場にいらしてください』

赤い目をしたカラスに誘われた。

そろそろこちらから仕掛けようとした矢先だっただけに、ガリウスは表情に出さず内心でほくそ笑む。

今の言葉だけでも、有益な情報がいくつも得られた。

こちらの居場所を特定しながら奇襲するでもなく呼び寄せた。ならば相手は『王宮から動きたくない』理由があるのだろう。

彼は【マギ・タンク】なる魔力を多く貯められる 恩恵(ギフト) を持つ。

加えて王都のどこかには、人を樹木化して魔力を供給するシステムが構築されている。

ロイとそのシステムがつながっていると仮定すれば、王宮近くにシステムがあり、彼はそこから遠く離れられないと推測できた。

もとよりガリウスは、王都を見て回って魔力供給システムが王宮の敷地内にあると踏んでいた。

もっとも怪しいのはあまり使われないくせに広い離宮だ。

戦闘になれば破壊される危険がある以上、システムのすぐ側は避けたいと思うのは当然。

ゆえに、王宮前広場を指定した時点で離宮にシステムが存在する可能性が限りなく高まった。

ガリウスは返事の代わりに使い魔を風刃で斬り裂く。

近くに別のカラスがいるので、そちらに切り替わるのは承知していた。が、切り替わるには四秒ほどのタイムラグがあると、何度か試して確認している。

またその事実は、情報をリアルタイムで得るための使い魔は一匹だけと示しているに等しかった。

別行動しているアオの動向は知られていない。

切り替わるまでの間に、ガリウスは口笛を鳴らした。

アオへの指示だ。

事前に取り決めていたいくつかの中から、『離宮を襲え』を選んだ。

これまでは、アオに王宮近くから付かず離れず動き回るよう言っている。あの巨躯では潜伏できないが、彼女を陽動だと思わせておけば、注意は向かない。実際、監視用の使い魔は常にガリウスに貼りついていた。

あとはアオがシステムを破壊し、ロイへの魔力供給をストップさせる。

いかに膨大な魔力をその身に抱えようと、いつかは尽きるもの。苛烈な攻撃を耐え忍ぶ必要はあるが、回復手段は十分用意したし、戦い方は熟知している。やりようはいくらでもあった。

問題があるとすればペネレイがその場にいるかどうか。

ロイが一般に接近戦が不得手な魔法使いであり、ペネレイに裏切りの危険がある以上、何かしらの対策をして側に置く可能性が高いだろう。

いずれにせよ、速攻を想定しているであろう相手に、ガリウスは長期戦を挑むつもりだった。

そうして、いざ対峙してみれば――。

想定通り、ペネレイはその場にいた。頭に妙な兜を被っている。使役系のアイテムだろう。グリフォンを強制的に従わせていたであろうロイなら、十分に考えられる。

そして、そのロイはといえば。

「ぐああぁあぁぁあああっ!」

システムの破壊に合わせて苦しみ出した。無理な魔法システムの弊害だろうか。

ともあれ、チャンスではある。

ガリウスはシルフィード・ダガーとサラマンダー・ダガーをそれぞれ握り、ロイへ飛びかかった――。

「お、のれぇ!」

ロイは強引にシステムとの接続を切った。魔力の大半を失ってしまったが、まだ常人をはるかに超える量が残っている。

こちらには『 従属の兜(スレイブ・ヘルム) 』を装備させたペネレイもいる。強制的な命令には魔力を多く消費するが、二人がかりで大技を食らわせ、一気に片をつければいい。

「ペネレイ、彼を殺しなさい!」

ハーフでも純血のオーガ族を超える力を持つ彼女の全力攻撃は、たやすく受けられない。

(避けたところを、特大魔法で吹っ飛ばしてあげますよ)

魔力を上乗せして詠唱を省略。すぐにでも狙いを定めて撃ち出す準備を整える。

ペネレイが背負った巨大な金棒を抜き、腰を落とした。片足を軸に、ぐるんと自身の体ごと金棒を振り回して――。

「ぐぎゃあ!?」

両足に激痛。背後から金棒がロイの膝裏を打ち抜いたのだ。ぐるぐると縦回転で吹っ飛び、やがて地面に叩きつけられた。両膝はかろうじてくっついているほど滅茶苦茶に破壊されている。

「な、何が……?」

起こったのか?

スレイブ・ヘルムの強制力は絶大だ。相応の魔力を必要とするが、十分に流しこんでいたはずだった。命令に抗えるとは思えない。

事実、彼女は命令には従っていた。

金棒は襲いくるガリウスへカウンター攻撃を食らわせようとしたのだ。ガリウスは地面を蹴って高く跳躍したため、金棒もロイも避けてしまったが。

ペネレイはただ、隣にいたロイを無理やり攻撃の射線上に入れただけ。

だから命令違反はしていない。してはいないが――。

「ぐあっ!」

頭蓋が砕かれるような痛みに、ペネレイは膝を折った。実際に兜が頭をつぶさんほど締めつけている。

「愚かな。術者を傷つける行為も、ペナルティの対象となるのは、知っていただろうに……」

ロイは治癒魔法を全開で施しながらつぶやいた。

「その、ようだな……ぐぅぅ……」

そうと決めた瞬間から、兜はペネレイの頭を締め上げていた。だが命令の遂行に合わせたためか、殺さない程度ならギリギリ実行に移すことができた。

「ぅ、ぁ……」

意識が朦朧とする。体を支えていられず、うつ伏せに倒れた。それでも必死に手を伸ばし、

「助けて、くれ……」

駆け寄ってくる男に、救いを求めた。

ガリウスの言葉は聞こえていなかった。しかしロイが苦しみ出したのを見て、今しかないと思った。ペネレイは初めから、戦闘中のわずかな隙にロイを叩きのめそうと考えていたのだ。

里の者たちはもう、生きていないかもしれない。

ゾルトも今のままなら、いずれ死んでしまうだろう。

一族で生き残ったのは、自分だけ。

それでも――。

「みんなを、助けて……」

ほんの少しでも、希望があるなら。まだ救える命が残されているなら。

この男に賭けてみたかった。

誰か一人でも、救ってほしかった。

たとえこの目で確認できなくとも。

ガリウスはペネレイを受け止めつつ、兜に手を触れた。

「まったく無茶をしたものだ。おかげで俺はずいぶん楽になったがね」

強烈な締めつけが、嘘のようにぴたりと止まった。声も聞こえる。

「ああ、もちろんだとも。俺は君たちを助けに来たのだからな。むろん、君もその一人だ」

するりと、兜が頭から抜けた。

「詳しい説明と、申し訳ないが本格的な治療は後回しだ。今はこの程度で我慢してくれ」

ガリウスはペネレイの額に手を当てた。

痛みが引いていく。まだ意識は朦朧として、体は思うように動かないが、上体を起こして座ることはできた。

「何を、したのですか、今……? どうして外せた? その兜は術者である私にしか外せないのに!」

ロイがよろよろと立ち上がる。まだ完全ではないが、治癒は終わりつつあった。

ガリウスの 恩恵(ギフト) は【アイテム・マスター】。どんなアイテムであれ、触れたものは彼の支配下に入る。

生物や魔法により具現化したものはアイテムとして認識されないが、対象が明確にアイテムであるなら、術者しか扱えない状況下であっても機能を停止させることはできる。

もっとも、丁寧に答えてやる必要はない。会話で治療する間を与えるのは愚の骨頂だ。

ガリウスは両手にそれぞれ短剣を握って襲いかかった。

「ひっ!?」

ロイは眼前に魔法陣を展開する。防御魔法壁だ。

ガリウスはサラマンダー・ダガーを突き出すも、金属音を響かせるのみで弾かれた。が、構わず二つの短剣の特殊効果を発動させながら、魔法の壁を打ち付けていく。

一度大きく後退。風刃を撃ち出した。風刃は弧を描いてロイの側面を襲う。

「くっ」

ロイはそちらにも魔法陣を作って防御する。

ガリウスは炎の砲弾を正面に放った。横に意識を向けていたためか、正面の防御がおろそかになり、防御魔法壁が炎弾と相殺する。

手を休めることなく、炎弾と風刃を浴びせかける。

「くそ、くそくそくそくそくそぉ!」

ロイはふらつきながらも防御魔法壁をいくつも生み出した。ガリウスのフェイント攻撃にまんまと引っかかるのはもちろん、まったく意味のない場所にも作っては消し、消しては作ることを繰り返していた。

やがて攻撃が緩んだ一瞬の隙を見逃さず、

「覚えていなさい。この屈辱はけして忘れません!」

ふわりと浮き上がり、飛竜にも匹敵するスピードで空中を翔けた。

「ほう。飛行魔法まで使えるのか」

飛行魔法は扱いの難しい魔法のひとつだ。人が使うには専用の 恩恵(ギフト) がなければ空中で停止も方向転換も覚束ない。

次から次へと最高難度の魔法を披露するロイに舌を巻きつつも、ガリウスは落ち着いていた。

「キシャァッ!」

飛竜のクロが、ロイの行く手に回りこみ大口を開けて威嚇したのだ。

あらかじめ『敵が逃げようとしたら牽制してほしい』とお願いしておいたのだが、実に絶妙のタイミング。ロイの行動を予測していなければ無理だったろう。この飛竜もなかなかに賢い。

「ひぃ!?」

驚いたロイは魔法の制御を失って落下した。その間際に風刃を飛ばすと、恐怖と焦りからか、やたらめったら防御魔法壁を展開する。

――パキィン。

しかし、そのうちのひとつが風刃の直撃で砕け散った。すかさずガリウスは風刃を隙間に滑りこませ、ロイの脚を切り裂く。

「ぐあっ!」

防御魔法壁はすべて消え去った。

「ゆ、唯一神よ、我に癒しの加護を――」

慌てて治癒魔法をかける。しかし簡易詠唱では効果が薄い。止血が精いっぱいだった。

「どうやら自慢の魔力も尽きかけているようだな。ま、当然か。あれだけ高度な魔法を無詠唱で続けていれば、魔力の消費量は半端ないだろう」

魔法使いなら誰であれ、魔力をいかに効率的に利用するかを考え、鍛錬するものだ。

しかしロイはその 恩恵(ギフト) の特徴から、それを怠った。

(本来はむしろ逆で、膨大な魔力を持っているからこそ、効率利用を研究するものなのだがな)

彼ほどの魔力量なら七日七晩、戦場に立ち続けることもできただろうに。

ガリウスは二振りの短剣を手に、ゆっくりと歩み寄る。

「どうして……なぜだ? 貴様はなぜ、それほどに強い? 貴様の目は、 虹色ではない(・・・・・・) のに……」

ロイは呆然と眺めながら、ぼそりとつぶやいた。

虹色眼――別名、覚醒眼。

唯一神より授かりし 恩恵(ギフト) を極限まで鍛え上げ、性能限界を超えた者がたどり着く境地だ。

王国史を紐解いても、三人しか確認されていない。

直近ではガリウスが生まれるずっと前、大賢者が晩年になってようやく虹色眼に覚醒したと伝えられている。

「あれは 恩恵(ギフト) そのものを鍛え上げて行き着く先だ。俺は 恩恵(ギフト) の何たるかを理解し、身を委ねることで性能を最大限引き出せたが、鍛えているとは言えないだろう。虹色眼など、夢のまた夢だな」

ガリウスはサラマンダー・ダガーを突き出した。刃が熱で赤く色づく。

「ま、待ってくれ、いや、待ってください。私の負けです。そうだ! 私を配下に加えてくれませんか? きっと役に立ちます。手始めに、ユルトゥスの秘密を教えましょう」

引きつった笑みでまくし立てるロイに、ガリウスは冷ややかに告げた。

「ユルトゥスの秘密、か。まさか奴が 金色眼(・・・) の持ち主だと言うんじゃないだろうな?」

「……へ?」

「奴の隠された左目は、金色なのだろう?」

「どうして、それを……」

ロイは呆然とする。まさしくガリウスの言うとおりだったからだ。

「メルドネが言っていた。ユルトゥスは個でも彼女を上回る強さの、 魔法使い(・・・・) だとな」

しかし皇帝ユルトゥスの 恩恵(ギフト) は心を読むものだ。戦闘を有利に運べるだろうが、あくまで補助的にしか使えない。

「お前ほどの魔法使いが従っているなら、お前と同等以上の力があるのだろう。しかし特殊な 恩恵(ギフト) なしでそれはあり得ない。ならば答えは決まっている」

――ユルトゥスは、 他にもうひとつ(・・・・・・・) 恩恵(ギフト) を持っている。

恩恵は本来、一人にひとつ。しかし中には神の悪戯か、極々稀に二つを有する者がいる。それを示すのが金色の瞳――金色眼だ。

「お前はその詳細を知らされていないな。あの強かな男があえて語るとは思えない。メルドネの物言いでは防御に特化した 恩恵(ギフト) のようだが、さて、お前はどう見る?」

「……私の魔法攻撃は、ことごとく透明な球体に弾かれました。あの男は、私やメルドネ、貴方にも勝てないかもしれませんが、負けることもありません」

「だから従いながらも、その 恩恵(ギフト) の正体を探って寝首を掻こうとしたのか」

「それはあの男も承知済みですよ」

「だろうな。まったく、クズの下にはクズが集まるようだ」

短剣の刀身が燃え上がる。ガリウスはロイの腹に狙いを定めた。

「お、お願いです! 殺さないでください。私の力は、貴方のために使うと約束しますから!」

「多くの者たちから無慈悲に魔力を吸い続け、主君すら平気で裏切るお前を誰が信用すると?」

感情をこめずに言うと、短剣から炎の渦が飛び出した。

「ひぃ! や、うわぁああぁ! あづい、あづいぉぉぉおおおぉお!!」

「どうせ反省も懺悔もしないだろうが、せめて彼らの苦しみをわずかでも味わいながら死ね」

炎に包まれてもがき苦しむロイに吐き捨てる。

喚声が風に運ばれてきた。

王宮のすぐそばまで民衆が押し寄せ、帝国兵と衝突しているようだ。

ロイの生首でも放り投げれば帝国兵は降参するだろうが、今はまだ王宮内を荒らされると困る。もとより混乱を収束させるつもりはないから燃やしたのだ。彼らにはしばらく民衆を押しとどめてもらおう。

アオにだけがんばらせるのは申し訳ない。早く離宮へ入り、樹木化された者たちを救出しなければ。

そのためにまずペネレイの治療をすべく、ガリウスは彼女に歩み寄るのだった――。