軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者は現状に迫る

マノスはまず、都市国家群の状況から語った。

さすがにその内側から情報を集めているだけあって、内容の深さも鮮度も確度も申し分ない。

細かいところはひとまず横に。ざっくりした大勢は次の通りだ。

統一国家の樹立に向けて動いていた都市国家群の上層部だったが、亜人たちの襲撃でそれどころではなくなった。特に旗振り役のザイール・オーギーの求心力が著しく低下したことで、都市間の足並みは乱れている。

「あまり弱体化しすぎるのは問題なのだがな」

「そうですね。帝国の力が急速についてきていますから」

話題は帝国に移る。

王国から逃れてきた者たちから徐々に情報が集まるようになっていて、おおよそしかわからなかった帝国の侵攻からの流れがつかめてきた。

「帝国が王都を強襲した際、ジェレド王子が戦死し、国王エドガーは捕らえられました。国民の安全と領内の安定化を理由に、国王は翌日、降伏と帝国皇帝への全面協力を宣言しました」

「……いくつか気になる点があるな。ジェレドが戦死したというのは本当か?」

「そう伝えられています。王宮内で激しく抵抗したため、と」

奇妙だと思った。

ジェレドはリッピに襲われて片目と片腕を失った。もとから戦闘に適さない 恩恵(ギフト) を持つ彼が、勇敢に戦う姿が想像できない。

「王子という立場がある以上、殺してしまったのなら相応の理由が必要だ。その意味では『立ち向かってきた王子に敬意を払って全力でお相手し、討ち果たした』というのは聞こえがいい」

「なるほど。何か裏があるのでしょうか?」

「さてね。国王への見せしめに殺された可能性もあるが……」

だとすればエドガーが帝国に全面協力しているのもうなずける。

「協力、とはどのレベルでの話だ?」

「地方貴族たちの説得です。少数の供を連れて各地を精力的に行脚していると、確実な情報として伝わっています。内心は量れませんが、表向きは積極的に協力していますね。ただ、ひとつ気になる情報が」

マノスはひと呼吸おいてから告げた。

「帝国皇帝ユルトゥス・バランハルトの 恩恵(ギフト) に関するものです。いまだ詳細は不明なのですが、片目に眼帯をして、もう片方の瞳は赤色だった、と」

「赤色眼か……」

瞳から効果を発動するタイプの 恩恵(ギフト) だ。

「ですから、国王は皇帝に操られているのではないか、ともっぱらの噂です」

たしかに赤色眼は、相手の精神を意のままに操る強力なものもある。

「噂を信じて結論づけるのは早計だ。その疑いは地方貴族たちも当然持っているはず。にもかかわらず、多くが説得に応じているのだろう? そも相手を操れるなら皇帝自ら彼らに接触すればいい話だ」

小心者の国王のこと。ジェレドを殺されて観念したか、何か弱みを握られたか、口車に乗せられたか。いずれにせよ、 恩恵(ギフト) に頼らなくても国王は簡単に操れそうだ。

「たしかに、そうですね。浅はかでした」

「いや、推測自体は悪いことじゃない。ただ結論を急いでは危険だからな。裏が取れるまでは慎重にいこう。それよりも――」

ガリウスは努めて淡々と告げる。

「元勇者の正体が俺だと、帝国には知られたろうな」

「やはり、そうでしょうか?」

「国王が生きているなら確実に、な。ま、だからどうだという話だが。気になるのは聖武具エルザナードの状況だ。何か情報はないか?」

このところ精霊の姿でガリウスの前に現れていない。ちょうど王都が陥落した辺りからだ。

「帝国の誰かが使っているとの話は聞きませんね」

契約者が変わった可能性は低そうだ。

「唐突な質問ですまない。物に宿る精霊が、そこから外へ出られなくなる事態は起こり得るのだろうか?」

「そもそも出てこないはずですが……会話できない、となると、そうですね。精霊の力が著しく弱まったり、外的要因でこちらの呼びかけが届かなかったり、でしょうか」

「外的要因とは?」

「たとえば、封印魔法です。誰もその特殊効果なりを使えなくする意図で行うものですが、そこに宿る精霊も力を発揮できなくなりますから」

封印魔法の知識はガリウスにもある。

それで精霊が身動き取れなくなる、というのも想像できた。

もし封印魔法が施されたのなら、解除は面倒だ。術者本人に頼るのがもっとも理想的だった。

「あの、その質問をされたということは、もしかして……」

「ああ。聖武具との連絡が取れなくなってね。気になっている」

「王都に現物があるのに、ガリウスさんの前に現れていたんですか? また行動力のある精霊ですね……」

「本人は『精霊っぽいもの』と言葉を濁していたよ」

「えっ、それって……」

マノスは困惑したように眉尻を下げた。

「どうかしたのか?」

「あ、いえ……ガリウスさんは、精霊昇華をご存知ですか?」

「ああ。野生の獣が精霊格を得て、精霊獣になるアレだな」

「はい。ですが、精霊に昇華できるのは獣に限りません。人や、亜人もそうなんです」

ガリウスは目をぱちくりさせる。

「肉体を保持したままの場合もあれば、死後に精神体が精霊格を得る場合もあります。仮に聖武具がそうであるなら後者でしょうね。精霊格を得た 元の使用者(・・・・・) が、そのまま宿ったのだと考えれます」

「元、使用者?」

「なるほど。あれほど凄まじい性能を発揮する理由がわかりました。通常の精霊よりは人に近しい存在であるため、その力を最大限借り受けられるんですよ」

精霊はあくまで自然の一部。力を借りるにも相容れない部分があり、どうしても制限がある。しかし精霊昇華した人や亜人からは、そういった制限がなくなるのだとか。

「まあ、あいつの正体を問いただすにも、直接会う必要があるな。まずは状況を正確に把握したいところだ」

「そうですね。皇帝の側近にかなりの魔法の使い手がいるとの話もあります。仮に封印されているのだとしたら、行ったのは彼でしょう」

マノスは続けて帝国の主要人物について語った。

「その魔法使いは、名がロイということ以外あまり詳しくわかっていません。 恩恵(ギフト) は魔法に特化したものと推測されていますが、目立った功績もないので、なぜ彼が皇帝の側近なのかも不明です」

戦闘でもっとも活躍しているのは、赤い鎧を着た女騎士だ。

「まだ二十歳に満たない少女ですが、残忍で自軍の兵士からも恐れられています。彼女の 恩恵(ギフト) は相手の動きを封じるタイプのようですね。こちらも赤色眼を持っています。しかもグリフォンを使役しているとか」

「 恩恵(ギフト) 自体は戦闘に有利だが、常人を超える身体能力はなさそうだが?」

「そちらは装備で補っているようです。武器の黒い槍は詳細が不明ですが、身にまとう赤い鎧は『フェニクスの鎧』だとか」

「また厄介だな……」

不死鳥(フェニクス) の名を冠するその鎧は、自己回復機能を備え、傷ついてもすぐに回復できる。また魔力をこめれば使用者の身体能力を飛躍的に向上させる特殊効果もあった。

南方諸国のどこぞの国の国宝だったが、帝国に奪われたらしい。

「その娘以外の主戦力は?」

「南方諸国はまだ完全に平定されていませんから、何人かは残っているようです。王国へ入った主戦力と呼べる者は……オーガ族が二名、いえ、一名ですね」

「オーガ族がどうして帝国兵に? 二名ではなく一名と言い換えた理由は?」

「まず前者の質問に対してですが、彼らは南方諸国の山里に暮らしていた種族です。里ごと人質に取られ、戦闘力の特に高い二名が従軍させられたと思われます。ひとりはハーフオーガの女性で、里の代表代理であるとか。もうひとりはオーガの中でも大きな体をしていたそうです」

『していた』と過去形だったのでピンとくる。

「何かが起きたのは後者か?」

「はい。彼は王都攻略戦に参加していまして、王宮にも直接入ったそうです。が、その後、消息を絶ちました」

「死んだ、のではなく?」

「彼一人ではなく、王宮を警護していた帝国の一般兵も数十人が姿を消したそうです。別任務で隠密行動を取っている可能性もありますが、王都から来た商人の話では、四メートルはあるオーガ族が王都どころか王宮から出た話はまったく聞かなかったと、不思議がっていました」

おかしな話だ。

目立つ巨躯を隠す方法はあるだろうが、だったら一度王都を出て、そのうえで任務に当たらせればいい。隠密行動ならなおさら、王都から消え去ったと思わせるのは不自然だ。

「不思議といえば、妙な話もひとつあります。関係あるかはわかりませんが、王都から逃れてきた兵士から――」

マノスは困ったように続ける。

「離宮前の広場に、奇妙な大岩が現れたそうです」

「大岩?」

ガリウスも王宮には何度も足を運んでいる。勇者になる前は離宮近くに住まわされていた。が、そんな大岩は見たことも聞いたこともなかった。

「誰が、いつ持ちこんだのかわかりません。すくなくとも帝国が襲ってくる前はなかったそうです」

仮に帝国が持ちこんだとして、目的がさっぱりわからない。

だが――。

(王宮から消えたオーガや一般兵。代わりに現れた大岩。つながりはまったく見えないが、だからこそ関連があるように思えるな)

ジェレドの死因。

エドガーが帝国に協力的な理由。

皇帝の 恩恵(ギフト) や、取り巻き連中の詳細。

帝国に従うオーガ族。

などなど、謎は深まるばかりだ。

一般人レベルから得られる情報では埒が明かない。はっきりさせるには、相応の人物に直接あたる以外ないだろう。

確実なのは皇帝ユルトゥスだが、 恩恵(ギフト) が判明していない段階では危険が大きい。

魔法使いも同様だ。

赤い鎧の女騎士は、手持ちの装備では苦戦が確実。

となれば――。

「国王エドガーか、ハーフオーガの女性だな」

どちらも『ただ使われているだけ』の可能性は否めないが、それでも一般の噂レベルを超える有力な情報が手に入りそうだ。

「二人の現在の動向はつかめるか?」

「ともに王国の東領、ガルブルグに入ったところまでは把握しているのですが……」

ちょうどガリウスたちが奴隷解放作戦をしている最中に、徹底抗戦を呼びかけていたガルブルグ公に帝国は攻め入った。

ハーフオーガの女性が少数の部隊を率い、あっという間に城を攻め落としたらしい。

その後、国王エドガーが治安回復やもろもろの調整で城に入っている。

だが、それからどうなったかはつかめていなかった。

「俺は一度都に戻り、今日得た情報を伝えてくる。オーガ族の二人に関する情報も、あちらで得られるかもしれない」

「女性の名はペネレイ。男性はゾルトです。では、私はペネレイさんと国王の動向を探ります」

「こちらでの調査は大きな危険を伴う。あまり無理はしないようにな」

「はい。肝に銘じておきます」

「では、一週間後にまた来る」

ガリウスはマノスと握手を交わし、部屋を出た。

その日のうちに街から離れ、最果ての森へ出発するのだった――。