軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王はスペリアの攻略に着手する

砂漠に建つアカディア神殿を攻略し、マスター登録をした直後。

残る三つの神殿のうちひとつの攻略情報が『特別報酬』として与えられるという。

それを伝え聞いたガリウスはしばし考えてのち。

「スペリア神殿だ」

きっぱりと言い放った。

隣にいた竜人族のジズルが問う。

「そこはルビアレス教国の聖都にある神殿じゃろう? 所在のわからぬ他の二神殿のどれかにすべきではないのか?」

三百年の間〝世界〟を記録してきたケラですら、その名前から所在は突き止められていない。

「ひとつが判明したところで結局はひとつが謎のままだ。だったら確実にひとつを攻略したほうがいい」

「しかし明確に 亜人(わしら) を敵視しておる国のど真ん中に乗りこむのもなあ……」

「いくつか策はある。最悪の場合は連中の心臓部――大聖堂を占拠しなくてはならないだろうな」

そうして神殿の制御装置だけを飛空戦艦で持ち去る時間を稼ぐのだ。

「スペリア神殿の攻略情報の内容次第ではその『最悪』が避けられるかもしれない」

ともあれ、とガリウスは続ける。

「時間制限があるかわからないが回答は早々にすべきだろう。ここは俺に任せてくれないだろうか」

「ん、儂は異論ないわい。こっちはお前さんの領分じゃからのう」

ガリウスはダニオたちにも同じ内容を伝えた。あちらも異論はないようで、特別報酬は『スペリア神殿の攻略情報』で決定した――。

――翌日。

アカディア神殿の攻略直後ではあったが、リムルレスタの都では緊急に会議が開かれた。ダニオも呼び寄せ議事堂に多くが集まる。

半円形の議事堂は階段状に座席が敷かれ、ガリウスは一人壇上に登った。

まずはアカディア神殿の制御装置の運搬スケジュールを決める。

飛空戦艦の運航予定を組み替え、なるべく早く移送するために話し合った。

続けては砂漠の民との交渉について。そちらはリムルレスタ側の窓口を決めていたため、大枠を確認するのみで後は窓口に委ねる方針となる。

休憩を挟み、いよいよ本日のメインの議題となった。

「スペリア神殿の攻略に着手しようと思う。まずはこれを見てくれ」

ガリウスの横には他の神殿から持ってきた制御装置がある。台座に手を触れると上に浮かぶ球体がぼんやり光り、帯状魔法陣がくるくると回転を始めた。

虚空に像が映し出される。立体的な地下迷宮が半透明になって浮かんでいた。

「そりゃあ、スペリア神殿……いや遺跡の全体像かのう?」とジズルが問う。

「そうだ。情報はアカディアで得たが、他の遺跡の制御装置でもこのように引き出せる。入り口部分はこの端っこで、制御装置が置かれている場所は反対側のこの地点だな」

ガリウスは長い棒で迷宮の立体地図を指し示した。

「なんとまあ、ごちゃごちゃしておるのう。まあ火山島の地下にあったグリアと同じようなもんか」

「遺跡部分は塔や地下階層も多少ギミックは違えど似たようなものさ。だがスペリア最大の特徴は、その広さが段違いということだ」

首をひねる一同に、ガリウスは別の画面を虚空に表示させた。細かな文字情報が連なっている。

「通路はほぼ同一の幅でおよそ十メートル、高さは二十メートルにもなる」

どよめきが起こる。

「ちょ、ちょっと待たんか。この細く見える通路がみな十メートル幅じゃと? いったいどれだけの広さなんじゃ……?」

「おおよそだが、十一ある都市国家すべてに王都を加えたほどだな。ルビアレス教国の国境にある山間部すら越えて平野部にまで伸びている」

どよめきが一層大きくなった。

「迷宮のギミックも他の遺跡を組み合わせたように複雑だ」

火山島の地下にあったグリアは分岐がとても多かった。王国にあるイビディリアは通路が変化していた。砂漠の塔であるアカディアは特殊なアイテムが必要だった。

スペリアはそのすべてが最奥へ到達する障害となっている。

「幸い必要なアイテムは事前に準備できるものばかりだ。通路の可変パターンもトラップの類も攻略情報を信じれば問題ないだろう」

「なるほどなあ。しかしこれ、攻略情報がなければ何年かかるかわからんぞ」

「ああ、教国の連中が攻略していない理由のひとつかもしれんな」

彼らは唯一神信仰の中心だ。しかし七神殿は多神教信仰に基づくものであるらしく、彼らが積極的に攻略しないのはその辺りがもっとも大きな理由だろう。

加えて攻略難度が高いため、ほぼ放置してきたとガリウスは推測した。

「ならばこちらも、のんびり構えておればよいのではないか?」

ジズルの言葉に議事堂に集まった面々がうなずく。

「やはり、他の神殿の情報を得たほうがよかったのではないでしょうか?」

そんな中、リザードマンの男性が控えめに零すと。

「いや今さらだろう」

「だが最低でもひとつは場所が知れたのだぞ?」

「たしかに場所が特定されたスペリアでなくともなあ」

「やった後に蒸し返しても仕方ないですよ」

活発とまではいかないが議論が起きた。

ガリウスはそれらの声を拾う。

「みなの懸念はもっともだ。俺自身あの時点では迷いがあり、賭けではあったからな。だがスペリアの攻略情報を得て状況は好転した」

ガリウスはぐるりと議事堂を見回して告げる。

「スペリアを攻略したら、似たような特別報酬がまたもらえるとにらんでいる」

「根拠を聞かせてもらうかのう」とジズル。

ガリウスはうなずいて語る。

「最初にイルア神殿を攻略し、マスター登録をして他の六神殿の存在が明らかになった。その後ケラと接触して神殿の情報を得たとき、俺は違和感を覚えた」

「違和感、とな?」

「自称とはいえ三百年もの長きにわたり世界を記録し続けてきたケラですら、二つの神殿の名と所在を知らなかった。『七つある』とは知っていながら、だ」

なのでガリウスは七つある神殿は対等ではなく、大きく二つのグループに分かれると考えた。

情報が極めて少なく探ることすら難しい 三つ(・・) と、後世にも所在などが知れやすい 四つ(・・) だ。

「前者のグループを『高難度グループ』、後者を『基本グループ』と呼称しよう。七神殿を作った者たちの思惑を推測するに、基本グループを攻略して初めて高難度グループに挑める設計にしたのではないだろうか。なら高難度をひとつクリアすれば再び特別報酬がもらえてもおかしくはない」

もしかしたら所在程度の情報かもしれないが、それでも前進はする。

「んん? 待てガリウスよ、高難度が二つで基本が五つではないのか?」

「俺も最初はそう分けていたよ。だが『基本グループ』と呼ぶには、ひとつがあまりに特殊過ぎてね。だから高難度に含めた。むろんそれは推論の域を出なかったのだが――」

四つ目を攻略した時点で『特別報酬』が与えられて確信した。

「なるほどのう。して、その『特殊なひとつ』とはどこじゃ? 状況からしてスペリアであるのかの?」

やたら入り組んで広いスペリアが特殊だとの考えもあるだろう。しかしガリウスは断言した。

「いや、特殊なのはイルアだ。最果ての森に隠され、極めて限定された条件でしか開かない門を備えている、な」

イルアは攻略情報が知れたからと言ってすぐに挑戦できる神殿ではない。

どこぞの探検家が偶然にも見つけて名と所在を人社会に持ち帰り、ケラはそれを拾ったのだろう。

「ふぅむ、図らずも最初に攻略したのが特別な神殿じゃったとはなあ」

「俺たちは七神殿の設計者の思惑から外れた順で攻略している。幸いにも基本グループのひとつを未攻略なのに特別報酬を受け取れたのは大きいな」

「設計者は『七神殿のうち四つを攻略すること』を条件にしてくれておったのかのう」

「ま、イレギュラーは想定してくれていたのだろう。だからと言って順序を乱したままでよいとも限らない。ゆえに 正しい順序(・・・・・) に戻すべきと考えた。もしかしたら基本グループをすべて攻略すれば別に何か報酬があるかもしれない」

そこは期待しすぎないことだがね、と肩を竦めつつ、

「それに、スペリアを長くは放置できない。教国の連中の気が変わって遺跡に足を踏み入れるかは不明だが、スパイを潜伏させたままだしな。しかもそいつはいつ裏切るかわからないときた」

みなが何とも言えない複雑な表情になる。

と、ここでダニオが口を開いた。

「しかし教国の真っただ中に潜入するのは至難だぞ。神殿の攻略とともに連中の相手もせねばならんが」

「ああ、それなんだがな――」

ガリウスはしれっと答える。

「こっそりやろうと思っている」

は? と皆が呆気に取られた。

「通路が広いから物資を大量に送りこみ、最短のルートで一気に攻略する」

ケラからの情報では遺跡の入り口は大聖堂側で封鎖されており、転移装置で転移する先の基点はその遺跡側であるのも確認済みだ。

一度に送れる量は限られるが、何回にも分けて必要量を用意する。

「ある程度遺跡内を進めば、仮に教国連中に気づかれても追いつかれはしないだろう。守護獣と迷路に阻まれてな」

「だが攻略がなされても制御装置を運び出すのは――む?」

ダニオは虚空に浮かぶ迷宮地図を眺める。

「制御装置のある部屋は国境を越えた場所……まさか穴を掘るのか!?」

「幸い真上は高山ではなく平野部だ。聖剣の最大攻撃を何度もぶつければ穴くらい開けられるかもしれない」

それが無理なら神殿自体を封鎖する。

場合によっては飛空戦艦で強襲し、大聖堂を一時的に占拠して回収する手もあった。

「ま、回収方法は状況次第だな」

そして不測の事態に備え、メンバーも厳選する必要があった。

当然ながら――。

「今回は俺も行く。精鋭をそろえての短期決戦だ」

決意を胸に、ガリウスはみなに意見を募った――。