軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50. 冬別れの祭り

「なんだか外が賑やかですね」

ある日の朝食中、街から少し離れた辺境伯邸まで喧騒が聞こえてきた。フローラが尋ねると、アーサーはピタリと止まり、壁の時計を確認する。フォークの先にあったハムが皿に落ちた。

「冬別れの祭りの準備が、もう、始まって……」

どうやら行事を忘れていたらしい。あまり表情は変わっていないが、フローラには青ざめているのがわかる。フローラの実家や子爵の件、遠征の後処理。アーサーは過重労働だった。忘れていてもしょうがない。

「そうなのですね」

あえてそのことには触れず、フローラはニコリと笑う。後でジョシュアと話して、他の仕事を減らしておくことにしたらしい。

アーサーは朝食を食べるペースを早めているのを見て、今日は忙しくなるかもしれない、とフローラは黒パンをちぎった。

「すまない、先に失礼させてもらう」

「はい、あまり無理なさらないでくださいね」

朝食を終えたフローラが向かった先は書庫だった。フローラはお祭りの歴史や背景などが好きだった。

お祭りは合理的だ。行事というのは人々を結束させ、非日常感によって欲求不満を解消させる。民をまとめる上で、とても有用なことだ。フローラの実家のことなどよりも優先順位が上であることは間違いない。

「こちらの本でよろしかったでしょうか?」

「ええ。取ってくれてありがとう」

フロスト領の冬別れの祭りは、その名の通り冬と別れを告げ、春を迎える祭りらしい。信仰対象は冬の精霊王と春の女神であり、精霊王の力を借りて邪気を払い、春の女神のお告げを賜わる。この邪気の部分にフローラは惹かれた。

祭りというのは、単純に季節や豊作を祝うものがあれば、おまじないや鎮魂などの儀式も多い。

「ねぇ、ドリス。このお祭りは夜更けまでやっているの?」

「そうですね。広場の人形に火が灯されまして、それが消えるまでやっています」

「……とても長い時間やるのね」

フローラにとっては好都合だった。夜中に抜け出すことが決定する。大抵の場合、露店などで邪気を具現化させた謎の像や、お守りの様なストラップが売られているからだ。実家に置いてきてしまっているが、南の方の祭りのであろうものを持っている。

「まだ少し早いですが、興味がおありでしたらもう見に行きますか?」

楽しそうなフローラの様子にドリスはそう提案したが、フローラはパチリと瞬きをした。

「見に行くってどういうこと?」

フローラにとって、お祭りは民がやるものであり、自分が参加するものという考えはなかった。中央全体や伯爵領、家庭内でも祭りや行事はあったが、誰も連れて行ってくれる人はおらず、婚約者とも親密ではなく、そもそも長らく離れで暮らしていた第三夫人の娘だった。

そんなことをドリスは知らないため、いつも聡明な主君と会話が通じないことに首を傾げていた。

「よくわからないけれど、ジョシュアに用事があるの。執務室へ行かなければ」

「承知いたしました」

そうして向かった執務室にアーサーはおらず、ジョシュアが盛大に舌打ちをしていた。何やら書類が散乱し、それを必死に整理している。

「……どうなさったの?」

「あの馬鹿野郎、毎年の流れだからってざっと見て許可下ろしちまって仕事を渋滞させやがった。これだから睡眠は七時間以上取れって言ってんのに」

散乱している書類を見ると、異民族の襲撃や遠征の後処理がたまたま重なっていたことがわかる。フローラはため息を吐いた。仕事を分けるよりも先に、アーサーをなんとかしなければならない。

「……私でも出来そうな仕事は分けておいて。アーサー様はどこへ?」

「祭り会場の方だよ。あいつは領主として祝辞やら色々あるから……」

「そう」

フローラは手に取った書類をまとめて机に置き、スカートを翻して執務室を出た。

「ドリス、祭り会場へ案内してくれるかしら?」

「仰せのままに」

この状態のアーサーを一人にさせておくよりも、祭りで補佐をした方が、民からの印象がよくなると、フローラはそう考えた。旦那様が心配などという可愛い考えを期待してはいけない。