軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おつまみ

仕入れの帰り道、リーナは陶器工房を訪ねた。

「この前お願いしていた小鉢とお皿、できてますか?」

「おう、丁度いいとこに来たな」

職人が無造作にカウンターへ置いたのは、土の温もりがそのまま形になったような器だった。掌に乗せると、しっくりと馴染む重みがある。指の腹で釉薬の境目をなぞれば、素朴な手触りが繊細な和食の色合いを優しく引き立ててくれそうだ。

「ありがとうございます……あ、あの! 相談なんですが」

「ん? 今度はなんだ」

「お酒用のジョッキと、ワインのゴブレットも作れないかなって。口当たりが良くて、お酒がもっと美味しくなるようなやつ」

職人のあご髭が、わずかに揺れる。

「ほぉ。口当たりの厚みにまでこだわりたいか……面白い。一週間待てるか? とびきりの試作品を焼いてやるよ」

「やった、楽しみにしています!」

心強い約束を取り付け、リーナは包みを抱えて工房を後にした。

店に戻ると、すぐに仕込みの続きだ。いつもの唐揚げと冷しゃぶ、それに叩ききゅうりの和え物を手早く用意する。今夜からはお酒も出せる。新しい小鉢と長皿に盛られた料理が、どんな風に映えるだろう。

「リーナ、店開いてる?」

扉を叩いたのはジュードだった。

「どうぞ、開いてるわよ」

「おっ、やったね! 一番乗り!」

「あ! くそ! 先を越されたか!」

背後からトムが大きな体を割り込ませ、豪快に笑う。

「現場からの帰りに寄ったんだ。今日から酒出すんだってな!」

アデラインとガレスも加わり、お店は一気に活気づいた。

「エールと白ワインがあります。どちらにしますか?」

「俺はエールだな!」

ジュードが勢いよく手を挙げる。

「訓練の後には、喉にガツンってくるやつが良いんだよ!」

ガレスも野太い声で賛同する。大工のトムも肩を揺らして笑った。

「体使った仕事の後は、やっぱりエールだよな」

アデラインは少し考えてから、口元を緩めた。

「私は白ワインを頂こうかしら」

使い慣れた木のジョッキに琥珀色のエールが注がれ、アデラインの前にはシンプルな陶器のカップが置かれる。

「じゃあ――かんぱーい!」

ガレスの音頭で、ジョッキとカップがぶつかり合い、賑やかな音が響いた。

ジュードはジョッキを傾け、喉仏を大きく上下させる。

「ぷはっ……! 生き返るぅぅぅ!」

「仕事の後のこれがたまんねえな」

トムも目尻を下げて息をつく。

さあ、ここからが本番だ。リーナは、今日持ち帰ったばかりの新しい小鉢をテーブルに並べた。土色の器の中で、料理の彩りが鮮やかに浮き上がる。

ガレスの大きな手が唐揚げを掴み、そのまま口へ放り込む。ザクッ。小気味良い音が響き、噛むたびに肉汁が溢れ出した。彼は話すのも忘れてジョッキを煽り、琥珀色の液体で脂を流し込む。

「んんっ! やっぱり最高なんだよな、リーナの唐揚げはさ」

ガレスがジョッキを置き、満足げに腹をさする。

「ここで飲めるってのがいいんだよ。毎日この美味い料理と美味い酒! 最高じゃねえか!」

「私はワインでもこの唐揚げは、いけると思うわ」

アデラインは唐揚げを小さく齧り、ワインを含んだ。口の中で脂が酸味に包まれ、すっと消えていく。

「こっちのキュウリもやべえぞ。塩気が絶妙だ」

ジュードが叩ききゅうりを頬張り、エールを流し込む。パリッとした歯ごたえの後に広がる塩気が、次の渇きを誘う無限ループ。

「お? リーナちゃん、この器は初か?」

トムが新しい小鉢を指先で支えて、目を細めた。

「冷しゃぶ、この器で食うと違うな。色が映えるっつーか、料理が綺麗に見えるな」

土色の素朴な器が、トマトの赤と野菜の緑を引き立てている。冷水で締められた肉が特製ダレに絡んで、口の中でほどけていく。エールを一口含めば、爽快感が喉の奥まで駆け抜けた。

リーナは厨房へ戻り、もう一品に取り掛かった。卵を溶き、出汁をたっぷりと含ませる。卵焼き器の上で卵液がじゅわっと膨らみ、手早く巻いていく。

「アデラインさん。これ、試してもらえませんか?」

乳白色の長皿に盛られた、だし巻き卵。きつね色の表面が湯気を立ち上らせ、白い器が卵の黄色を際立たせている。

「卵焼き……?」

アデラインは怪訝そうに眉を寄せつつ、フォークで端を切り取った。断面から、出汁がじわっと滲み出る。口に運び、そして白ワインを一口。

アデラインの動きが止まった。

「…………あら?」

店内の喧騒が、一瞬だけ遠のく。

「出汁の旨味が、ワインの果実味と……溶け合ってる」

卵の優しい甘みと出汁の深みが、白ワインの酸味に抱かれて、口の中で調和している。こんなに穏やかで、それでいて複雑な味わいがあるなんて。アデラインは信じられないものを見る目で、空になったフォークを見つめた。

その独り言のような呟きは、しかし周囲の男たちの耳にも届いていたらしい。

「なんだって?」

「ズルいぞ、俺にも食わせろ!」

「あ、こらジュード! 順番!」

身を乗り出す男たちに、リーナは苦笑しながらフライパンを握り直した。

「はいはい、今焼くから待ってて!」

心地よい喧騒と、卵が焼ける優しい匂い。今夜はまだまだ、長い夜になりそうだ。