軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話 麦芽水あめを作ろう!調達編

はい!それではですね。今日は麦芽水あめを作っていこうとぉ~~思いますっ!!

脳内でYoutuberっぽい始まり方をシミュレーションしながら俺はさっそく知識チートをもくろむことにした。

なんか前世の行動をまねると記憶が鮮明になってくる。なんかそう言うのあるのかもしれない。

……話を戻そう。

古代では貴重だった甘味。

こういうシチュエーションでは定番中の定番だ。

正確には古代ローマにも甘味はいろいろあるし、ルクレティウス家レベルであればルクレティアお嬢様は毎日何らかの果実、ドライフルーツを食べているし、ハチミツをパンにかけたりもできる。

俺もルクレティアお嬢様のお気に入りの奴隷としてそのおこぼれにあずかっているのでこの時代の人間としてはそこそこ甘味を食べている方だと思う。

が、甘味としてはハチミツがメイン、くどいのでそんなに食べれるわけではないし、そもそも奴隷や子供がそうそう手を出せるレベルでは当然ない。

いつだったか屋敷の ヴィリクス(家財管理奴隷) であるフェリクスのおっちゃんにハチミツの値段を聞いてみたら1セクスタリウス(500ミリペットボトルくらい)で2デナリウス――銀貨2枚前後らしい。

日雇い労働者の1日~2日半の賃金だ。

ルクレティウス家が買うハチミツなのでブランド産地品と考えてもクッソ高い。

そんなわけで甘味を作れればへそくりができるだろうという考えの元、心配そうに俺を見つめるルクレティアお嬢様に話を切り出す。

「実は……熱にうなされている間に、知恵の女神ミネルヴァ様のご神託を授かったのです」

「ミネルヴァ様が? あなたに?」

ルクレティアお嬢様が目を丸くする。

古代ローマ人にとって、神々の啓示というのは気を引くのにもってこいの単語だ。

もちろんそれを語って騙そうとするやつはごまんといる(今の俺とか)。

なので無条件に信じるわけではないが、高熱で死の淵を歩いていて回復したばかりの今の俺という立ち位置は、神託を受けるタイミングとしてはばっちり。

記憶覚醒前の俺はそこそこ信心深かったらしく、真面目にミネルヴァ様の祭壇の手入れをせっせとしていたことも説得力を増す要因になっている。

覚醒前の俺マジグッジョブ。

「はい。高熱にうなされているとき、ミネルヴァ様の使いを名乗るフクロウが夢に現れまして……『ハチミツは飽きた。そなたの熱を治す代わりに、麦から取れる蜜を 我が祭壇(ララリウム) に供えよ』と」

「麦から蜜が取れるなんて話は聞いたことがないわよ?」

「はい、俺も聞いたことがないです。でも……どうしてもやらなければいけないと思うのです」

深刻そうな顔で 上目遣(うわめづか) いでルクレティアお嬢様を見つめる。

「確かに……もしミネルヴァ様がその麦の蜜を作るためにあなたを治したのだとしたら、それを無視したらどんな天罰が下るかわからないわね」

「はい、でもこの奴隷の身ではマルクス様にこのことをお伝えするのは 憚(はばか) られるのでどうしたものかと」

「わかったわ。仕方ないわね。フェリクスに言いつけておいてあげるわ」

少しの思案のあと、フェリクスのおっちゃんを使う決断をするルクレティアお嬢様。

「大丈夫なのですか?」

「今はお父様がご不在だし、私の言いつけで麦を少し使うくらいなんてことないでしょう?で?必要なのは大麦?小麦?」

「ミネルヴァ様に教えていただいた方法は大麦です」

「そ。じゃあ行くわよ」

そう言って俺を連れてフェリクスのおっちゃんの部屋に向かうルクレティアお嬢様。

即断即決のお嬢様だ。

「フェリクス?いるわね?」

「へぇ、お嬢様……とルシ坊か。ルシ坊、熱はもう大丈夫なのか?」

蝋板(メモ帳) (タブラ)に帳簿を書いていたフェリクスのおっちゃんは、まずルクレティアお嬢様を見て背を正し、その後ろにいる俺を見つけて俺にも声をかけてくる。

フェリクスは20代後半のいかにも中間管理職という顔をしたおっさんだ。

(現代だと20代後半はまだまだお兄さんだが栄養状態の悪い古代ローマの平民は1.5倍くらい老けてる人が多い。)

ルクレティアお嬢様のお気に入りである俺にとっては気のいいおっちゃんだが、ほかの奴隷の話を聞くと結構保守的で厳しい面もあるらしい。

「ミネルヴァ様の加護でなんとか」

「そう、そのミネルヴァ様がね!ルシウスに神託を授けたらしいのよ!ほら、ルシウス説明しなさい!」

ルクレティアお嬢様に催促され、俺は必要な材料と資材についての説明を行う。

今回作るのは麦芽水あめ。

失敗しても大丈夫なように1セクスタリウス(500mlくらい)程度を作ろうと思う。

脳内で前世の記憶の単位系に変換する。

材料は大麦のみ、3.6キログラムくらい。

そのうちの1.2キログラムの大麦を水に浸し、少し芽が出るまで放置する。

これが「麦芽」だ。

この麦芽は乾燥させた後に細かく砕く。

乾燥麦芽ができたら大麦を水で煮て麦粥を作る。

アツアツのままでは麦芽の酵素(これが糖化を行う)が死んでしまうのでアツアツの状態で鍋から保温用に一時的に使う壺に一度移し、少し冷ます。

麦粥を手を入れたらめっちゃ熱いけど少しは耐えれるくらいの温度が適温だ。

この温度になったら粉砕した麦芽を投入。

混ぜ合わせる。

これで糖化の前準備はOK。

で、これを半日保温しなければいけないので、一回り大きい壺(この壺もできればローマ式サウナ……カルダリウムで温めておく)を用意してきてわらを敷き詰め、麦芽入り麦粥の壺をその中に入れ壺を木の板で蓋をしてまたわらをかぶせる。

そのうえで日ごろの煮炊きで腐るほどある灰の中に半日放置。

後は粥を絞って糖度の高い液体を抽出し、それを2時間程煮詰めれば麦芽水あめの完成。

「これは確かに神託かもしれんな……途中までは知り合いのゲルマン人奴隷が言っていた麦酒の作り方に似てる感じもする」

具体的な手順まで説明したことによりフェリクスのおっちゃんも真剣に考える様子を見せてくる。

そういえばビールは紀元前のエジプトではすでに作られていたわけだし、途中までは一緒な工程なのになんで麦芽水あめないんだ?

ローマはワインが主流だからかな?

まあそのおかげでチートができて助かるっちゃー助かるんだが。

「わかりました!お嬢様のご命令ですし、大麦、ご用意いたします。ルシウス。まずは大麦2セクスタリウス(1.2~1.5キログラム前後)が必要なんだな?」

フェリクスのおっちゃんが俺に問いかけてくる。

第一関門はクリアしたようだ。

「うん、麦芽分ならそれくらいの量のはず」

「ねえ、これってどれくらいでできるの?」

ルクレティアお嬢様が興味津々に聞いてくる。

「麦芽作るところからですから……8日くらい?」

これが成功するかどうかでポンペイの灰に埋まるかが決まるといってもよい。

是が非でも成功させねば。