軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十七話(カイル歴506年:13歳)新たなる仲間

母が出立した翌日、母に言われた通り7日経っていたので、その日の昼に娼館を訪れた。

「ここから先はお一人でどうぞっ」

いつもは護衛として片時も傍を離れないアンが、何故かその日は、娼館の前で踵を返してしまった。

うん、アンも女性だから娼館の中に入るのは嫌なんだろうな。

そんな風に思いつつ俺は一人で、ドキドキしながら中に入っていった。

と言っても、俺も男だ。

前回の歴史では、妻もおらず最後まで独身だった。そのため、何度かお世話になった事はあった。

「これは、これは領主様、このような所に足をお運びいただき誠にありがとうございます」

娼館の支配人は揉み手で俺を迎えた。

「ヨルは奥の間に控えております。先ずはお寛ぎください」

支配人に案内され、俺は最上階の広い部屋に連れていかれた。

扉が閉まり、支配人の姿が消えると、ヨルが飲み物を持って部屋に入ってきた。

「タクヒールさま、この度は本当にありがとうございます。このような穢れた身、お仕えするには不相応、夢を見るだけで十分と思っていました。

クリスさまより直々のお言葉をいただき、ご厚意に甘えさせていただくことを決断しました。非才な身ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」

「いやいや、ヨルティアさんの立派な行動、テイグーンの町を救ったんだよ、遠慮や気遣いは無くて大丈夫だからね」

「ありがとうございます。私が意に添わず娼婦となり、ヨルと名乗ることを決めたとき、私の中のヨルティアは死にました。でも、タクヒールさまのお陰で、この娼館を出れば、再びヨルティアと名乗ること、生まれ変わる勇気が持てました。感謝にたえません。

お礼など何もできませんが、せめて、ヨルとして最後のお勤めをさせてください。この日のためにここ1週間、毎日教会で身を清めて参りました」

一瞬考えたあと、前回の俺の知識を思い出した。

教会での清めの儀式……、それって感染症対策で娼婦たちが定期的に教会で受ける儀式だ。

もちろん、それは毎日受けれるほど安いものではない。

だが、高級店ほどその頻度は高く、感染症の対策もしっかり行われている。

巷の男達の間では、そう言われているものだ。

もしかして、ヨルが母さまの言っていた4人目……

ですよね〜。

ここでも俺は母の掌の上で踊っているだけである事を、改めて自覚した。

そして、ヨルからのお礼を受けてしまった。

アン達もこのことを恐らく知っていたのだろう、だから気を遣ったのだと、理解した。

そして母には、凄く気恥ずかしい気持ちとは裏腹に、感謝の気持ちでもいっぱいだった。

だって、前回の歴史では、この4人、だれひとりそういう関係になったことはなかった。

全員がそれぞれ魅力ある美人でしかも優秀な人材だ。彼女たちを配下に持っているだけで自慢できるような。

そしてもう一つ気付いたこと。

俺の最後の瞬間に、祈りを捧げてくれた5人全員と、今回の世界でも、関わりを持ち、そのうち4人とは深く繋がる間柄になっていた。

単なる偶然とは言えない、不思議な何かを感じた。

暫くして、俺はヨルを伴い娼館を後にした。

多くの娼婦たちが一列に並びヨルを祝福した。

「ヨルちゃん、おめでとう」

「新しい生き方を見つけて、幸せになるんだよ」

「二度とこんな所、来ちゃだめだよ」

暖かい見送りの言葉を掛けられて、ヨルは泣きながら娼館を後にした。

外に出てみると、今度は俺の3人の仲間、アン、ミザリー、クレアが待っていた。

「ヨルティアさん、ずっと待ってました。今日からあなたは私たちの仲間です」

「一緒にタクヒールさまを支えていきましょうね」

「変なこという奴がいたら、私が性根を叩きのめしてやります。遠慮は無用ですよ」

彼女たちの言葉に、ヨルティアとなった彼女は再び涙を流した。

「ありがとうございます。タクヒールさまへの感謝、皆さまのご厚意と温かい言葉、私は果報者です。命に代えてもお仕えすること誓います」

そのあと、5人で行政府に行き、ヨルティアにも俺の隠された事実を共有した。

母が残してくれたお土産は、俺にとってかけがえのないものとなった。

秘密を共有した4人は、今まで俺が及ばなかった部分をフォローしてくれている。

一か月も経たないうちに一つ目の成果が表れた。

「タクヒールさま、行政府のリストで新たに魔法士の適性があると思われる者を更新しました」

「行政府にて、最新のリストで各所に聞き取りを行い、人となりに問題のないものは〇印を、問題がありそうな者は×印をつけております」

「彼女はよく知っていますが性根が優しすぎる点が気になります。火魔法士となっても戦闘では使えない可能性が高いかもしれません」

「この男は乱暴者で、夜の街でも有名でした。

魔法士となれば、手の付けられない暴れ者になるかもしれません」

アン、ミザリー、クレア、ヨルティアたちが順番に、いや矢継ぎ早に報告を上げてきた。

「……」

なんか、俺、居なくても、今後の魔法士発掘は上手く進むんじゃね?

そう思ってひとりで苦笑してしまった。

彼女たちがそれぞれ、候補者について俺一人では集めきれない情報を収集してくれる。

少しの期間で、確度の高い候補者の情報とそれぞれの人となりが調査され、新たに6名の確度の高い候補者+ヨルティアが確定できた。

「あとは…情報の秘匿だな」

「教会の口を封じるのは難しいかも知れません。ただ情報が筒抜けになると、ダレクさまの件といい、無理難題を言われる可能性があります」

「そうですね、魔法士の数でいえば既に侯爵家を凌ぎ、公爵クラスです。これを妬み、あらぬ噂を立てる者がいるかも知れません」

「タクヒールさまの能力に目をつける上位貴族も出てくる可能性があります」

「街に密偵など、不逞の輩が増えることも憂慮しなければなりませんね」

俺の言葉に対し、アン、ミザリー、クレア、ヨルティアがそれぞれ意見を言う。

個人的には、なんか、こんな本音で話せて遠慮のいらない関係、凄くいいなぁ。

そんなことを改めて思った。

「うん、試してみたいことがあるんだ、アン、申し訳ないけどちょっと一緒に教会まで行ってもらえるかな?」

「はい、喜んでお供します」

「私たちはこちらで吉報を、楽しみにお待ちしていますね」

クレアは付いていきたそうな顔を一瞬したが、直ぐに表情を変え、自制して言葉を発した。

前から、俺の気持ちをよく理解し、対応してくれていた彼女だが、2人で朝を迎えてからは、それまで以上に、俺が何を考えて言った言葉か、説明しなくても即座に理解し行動してくれている。

俺はアンを伴って、テイグーンの街の教会へと向かった。