軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十五話 南部戦線⑲ 最終決戦

タクヒールたちはゴーマン伯爵の進言を受け、アイギス攻防戦の帰趨を決すべく、最終準備に入っていた。

率いる兵は、魔境騎士団2,000騎、魔境伯軍800名、ロングボウ兵1,000名、屯田兵200名、武装自警団600名の合計4,600名だった。

対する第一皇子の軍勢は、鉄騎兵3,000騎、歩兵8,000名の11,000名、これまでの戦いにより、ここから多少数を減らしているが、それでも彼らが圧倒的に優位なことに変わりなかった。

「鉄騎兵の位置、最終確認!」

「アイギスより関門方向、約600メル離れた森の中に潜み、我らを待ち伏せすべく、臨戦態勢で待機しております!」

「第一皇子の位置、最終確認!」

「城壁より600メルの位置に潜んでおります。直属の軍は城壁に沿って横並び、帯状に展開しております。

想定の通りです!」

そう、開戦当初から俺たちは、この日に備えてある欺瞞戦略を行っていた。

『400メル以上離れた先に、決して攻撃を加えるな』

この至上命令が、団長から全軍に徹底されていたのだ。俺たちの攻撃が、せいぜい300メル、高さの優位を以ても射程は400メルを越えない、そう敵軍に思い込ませるために。

「タクヒールさま、全軍の準備は完了いたしました。帝国軍に、思いっきりかましてやってください」

笑顔で笑う団長に促され、大きな銅鑼が何台も並んだ防壁上の一角に出た。

各銅鑼の前には、巨大なメガホンに似た拡声器が取り付けられており、一か所だけ銅鑼が設置されていないない場所があった。

俺はその前に立った。

「全員、耳を塞ぐか耳栓を用意!」

各所で旗が上がった数秒後、団長の右手が振り下ろされた。

それを合図に、10基の銅鑼が一斉に鳴らされ、耳をつんざくような大音響が響き渡った。

この音は、メガホンにより一方向へ指向され、更にシャノンによって増幅された結果、まるで雷が落ちたかの様な轟音となって、第一皇子の陣営に響き渡った。

「なっ、なんだ? て、敵の攻撃か?」

第一皇子は、突然の轟音に驚き、棹立ちとなる愛馬から振り落とされそうになっていた。

周囲を見ると、馬が暴れ落馬した者たちも多く、誰もが混乱している。そして多くの兵は、あまりの轟音に驚き、耳を抑えてうずくまっていた。

「落ち着けっ! こけおどしの音だけでは、我らは何の痛痒も感じぬ。恐れるな!」

耳鳴りに耐えながら、なんとか発した第一皇子の言葉で、兵たちも徐々に平静を取り戻しつつあったとき、今度は信じられないことが起こった。

遠く離れた城壁の上から、届くはずのない大きな声が、はっきりと聞こえて来たからだ。

『平和を乱し、皇族の継承争いという不毛な理由で、我が国に侵略し、無用の流血を欲する帝国軍の指揮官とその将兵に告げる。

お前たちは既に、我が軍の包囲下にある。

だが俺たちは、野蛮な流血を欲していない。それが例え、お前たちの様な侵略者であっても、全身を引き裂き、皆殺しにするのは忍びないと考えている。

この上は、大人しく武器を捨てて降伏せよ!

我々は無慈悲な帝国軍とは違う。捕虜の処遇は人道を以って行い、後日、帝国へ返還する用意もある。

武器を捨て、城壁前に集まった者たちには、攻撃は加えない』

「何を言うか! 嘘を付くならもう少しマシな嘘を付きやがれ! 圧倒的寡兵で、包囲下にあるのは奴らの方ではないか!」

第一皇子は即座に反論したが、もちろん彼の声は敵軍まで届かない。

だが、まるでその反論を聞いていたかのような声が、再び降り注いだ。

『まぁ、今は俺の言葉が信じられないだろうな。そのために、これからちょっとした余興を見せてやる。

繰り返すぞ、これは余興だ。

本来なら、お前たちをバラバラに引き裂き、 鏖殺(おうさつ) して魔物の餌とするのは、とても簡単なことだと理解させるためのな。

この余興は、今の俺の言葉を理解するための機会であること、それを十分に噛みしめろ。

次はないぞ、余興の後は殺戮が始まるだろう』

この言葉が発せられたあと、アイギス城壁上では、慌ただしく号令が行き交っていた。

「拡散魔導砲、四基連続発射用意、最大射程で見せつけてやれ! 発射後直ちに二射目を準備。

東側の出丸では全カタパルトによる、最大射程での制圧弾の一斉発射を行え!

二射目以降は、順次石弾に変更して連続発射!」

「風向き、北から南、問題ありません!」

「魔導砲、準備、魔法士待機完了!」

「各カタパルト、準備できています」

「長槍部隊、連続発射体制で配置に就いております」

「タクヒールさま、各所からの報告、行けます!」

俺は団長の言葉に、無言で手を振り下ろした。

その瞬間……

大地を揺るがす轟音と地響きに伴い、濛々と沸き上がった砂塵のなか、第一皇子は茫然としていた。

常識外の攻撃に恐怖した兵たちは、悲鳴を上げて周囲を走り回っていた。

「バカな……、射程は優に1キルを超えるだと? そんなもの、どうやって逃れるというのだ。

あの破壊力、アレに我らが抗する手段など、ある訳ないではないか……、あれが魔境伯の魔法攻撃なのか?」

呆然と呟く第一皇子に、次々と悲鳴交じりの報告が入る。

「我らの退路、失われました。辺りは無茶苦茶で、当面の復旧、間に合いません!」

「宿営地への通路……、大地が抉れ、周辺の木々が粉微塵に粉砕されております。

あの攻撃を受ければ、我らの全滅は必至です!」

「物見より報告、鉄騎兵が潜んでいる場所にも、射程外から攻撃が降り注いでいるようです!

周囲は赤や白い煙で満たされ、此方からは何も見えません!」

「前方に展開した魔法士と歩兵の陣が、強烈な槍らしき攻撃を、射程外から断続的に受けています!

被害は甚大です! 歩兵の盾では、全く防ぎきれませんっ!」

悲壮な報告を受けながら、第一皇子には周囲の景色が消え、暗闇の断崖の上に、ただ一人立たされているような錯覚に陥った。

余は……、ここで負けるのか?

長駆して王国まで攻め入りながら、五体を引き裂かれ、魔物の餌となって果てるのか?

栄光ある帝国の帝位は、あ奴の手に……

「殿下……、殿下っ! ここは一旦お引きを!」

側近に体を揺り動かされ、第一皇子はやっと我に返った。

「我らの遥か右後方、敵軍が攻撃してきた砂塵の向こう側から、鬨の声が上がっておりまする。

我らは敵の包囲下にあります。一旦宿営地まで引き、体制の立て直しを!」

「馬鹿か! このまま宿営地の方向に撤退すれば、あのとんでもない兵器の餌食になり、全軍が崩壊してしまうではないか!

後方と宿営地のある右方向、両方の退路は、あの馬鹿げた広範囲攻撃で塞がれておるのだぞ!

あれをまともに受けろと言うのか?」

「し、しかし、このままでは……」

「分かっておるわ! これより全軍、直ちに敵の城壁まで突進せよ!」

「殿下っ!」

「安心しろ、余は正気だ。今我々が置かれている状況を考えてもみよ。

我らは既に敵による攻撃の射程内にある。ならば安全圏はどこだ? 奴らの真下しかなかろう?

敵城壁の真下から、東に抜けてハーリーの軍に合流し、体制を立て直す。

城壁沿いから我らの進む先には、3,000騎の鉄騎兵が待機しておる。あちら側に飛んで来ているのは、ただの石ころだろう。

先ずはそれに合流し、再起を図る。犠牲は厭わん」

第一皇子の軍勢は、一斉に城壁に取り付くべく駆け出した。恐怖に顔を歪ませながら。

第一皇子率いる帝国軍の動きを、城壁上から俺とアン、シグルが見下していた。

先ほどまで傍らにあった団長は、今は別命のため移動し、その姿を消していた。

「ラファールさんが、うまく敵兵を追い立ててくれているようですね」

「うん、そうだね。団長の準備は?」

「はい、先ほど待機完了を知らせる旗を確認しました。お二人とも準備は整っている模様です。

後はバルトさんが戻られるのを待っている模様です」

「そっか、ならば弓箭兵に下命!

本命の周りの敵兵を、できる限り減らすように。

そして、城壁に取り付いた敵兵は、制圧弾で分断するように。この後2人が仕事をしやすいようにね」

「了解しました!」

そう、俺はイストリア皇王国戦で使った、激辛唐辛子の一種である、ナーガの実を使用した攻撃弾、フェアラート公国にて手に入れた新たなスパイスを詰めた攻撃弾などを大量に用意し、制圧弾と呼んでいた。

森に潜む鉄騎兵たちはこれを浴び、まともな状態で無くなった上に、断続的に石弾の雨を浴び続けている。

大きな石弾ではなく拳より小さな石を、風魔法士の力を借りて飛距離を伸ばした最大射程攻撃なので、殺傷力こそ弱いが、それでも負傷したり落馬したり、乗馬が傷ついたりで、もはや軍団として、統制された動きはできないだろう。

また、アイギスからは、密かに城壁の下を抜け、魔境側に抜けるトンネルを何本も整備していた。

偽装の岩盤を除けば、簡単に魔境側の出口に抜けられる仕組みになっており、この排除は、時空魔法士のバルトがいれば何の問題もない。

団長は数本のトンネルを結ぶ結節点に待機し、最適な突入箇所の情報と、先ほどラファールを誘導していたバルトが、別のトンネルを抜けて戻って来るのを待っている。

そしてもう一つ。

俺はここ数日間、通信用の気球だけでなく、偵察用の有人気球も飛ばしていた。

気球自体は綱で固定し、火魔法士と風魔法士が同乗していれば、割と安全に飛ばせ、回収することができる。

これで、上空から第一皇子の軍勢の配置を、特に第一皇子の居る本陣の位置を探ることに注力していた。

彼らには、この空飛ぶ不思議な物体が何か分からず、首を捻るだけだっただろうが。

「敵の本営と思わしき一団、随伴する歩兵とともに、城壁に取り付きました。

位置、二番のトンネルが最適だと思われます。あと突入隊、全ての準備が整った模様です」

「よし! 二番旗、振れ!」

団長率いる一軍は、旗を確認すると直ちにトンネル内に突進し、敵軍目指して疾走していった。

『団長、頼んだよ! これでなんとか終わらせてくれ』

俺は心の中で祈りながら、その様子を見送った。

第一皇子さえ捕らえれば、南部戦線の戦いは終わるはずだ。

ジークハルトと結んだ、秘密協定の通りに。

俺は団長に託した秘策、それに未来を懸けていた。