軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七話(カイル歴511年:18歳)夜の訪問者

それぞれが目的を果たし、フェアラート公国王都、フェアリーの逗留先に戻ると夕食の準備が整っていた。

そして、俺はそこで出された物に目を見張った。

黄色っぽい香辛料を利かせたスープに具材が入っているものだった。

そして大皿には、貝っぽい何か、パブリカに似た野菜、少し小さなエビと魚の切り身が入った色鮮やかな……

「これっ! スープカレーじゃん!

そしてこっちは……、もしかして? パエリアか?」

驚きの余り言葉を失った。

俺以外に米に目を付けている人物が居たのか? しかもスープカレーの具材には、蕪や芋などが入っている。

米、芋、蕪……

「こちらのことはよく調べているということか? こちらに来る前も、こちらに来た後も含めて。

歓待の意味もあるだろうけど、油断はできない、そういうことかな?」

俺は小さく嘆息してクレアを見ると、任せてください! とばかりに胸を張っていた。

彼女は市場見物から一足先に戻っており、夜に提供される食材から調理法まで全てを確認している。

早速使われている調味料、香辛料をヨルティアの購入リストに加えてもらった。

クレアたちの様子を見ていても、最初は慣れない食事に戸惑っていたようだが、一口食べると、皆一様に美味しそうに食べていた。

その様子を見て俺は改めて確信した。

カレーライスに加え、スープカレーにパエリア、この3つがうまく広がれば、慣れない米食も大きく一般化するだろうし、必ず米需要も高まる。

稲作はカイル王国内で俺たちの独占事業であり、特産品になる可能性は十分にある。

ましてアイギスの稲作は、豊富な山からの湧水を利用しているため、干ばつの影響も少ない。

そのため、来年の食料危機対策にもなる。

今回の特使訪問で、クリムトの鱗以外に、大きな収穫が得られたことを改めて実感した瞬間だった。

非常に満足した夕食のあと、俺は意外な人物の訪問を受けた。

クレアに案内されてやって来たのは、フレイム伯爵だった。

「夜分に申し訳ございません。

明日のことで少々、お話したきことがございまして、お時間をいただけませんでしょうか?」

「全く問題ないです。

こちらこそ、食事で歓待いただいたお礼を言わなければならない、そう思っていた所でしたので」

「ありがとうございます。

陛下の御意により、王宮の料理長をこちらに派遣し、調理に当たらせておりましたが、皆様のお口に合ったことは幸いでした。

では、この宿の談話室にご案内させていただきます」

フレイム伯爵に連れられ、宿の談話室へと移動した。

そしてそこには……

「魔境伯殿ですな?

不躾な招きに応じていただき、遠く離れた我が国への来訪、非常に嬉しく思っている」

簡易な軍装に身を包んだ、20代後半に見える偉丈夫から迎え入れられた。

この時点で俺は、それが誰か察しがついた。

「こちらこそ、初めて陛下の御意を得ます。

カイル国王の特使として参上いたしました、ソリス・フォン・タクヒールにございます。

この度は、食事まで陛下自らのお心配り、誠にありがとうございます」

「では陛下、私は下がっておりますゆえ……」

ひとしきり挨拶が終わったあと、フレイム伯爵は下がっていった。

「突然で申し訳ない。

王宮では堅苦しくて碌な話もできんし、余計な目や耳も多くてな。

見ての通り私は本来、名ばかりの王族で中身は武人。

こちらの姿が一番落ち着くし、今は武人同士、腹を割って話がしたいと思ってな」

「いえいえ、私のような者にありがとうございます。

陛下の威風堂々としたそのお姿を見ただけで、兵たちは10万の援軍を得た以上に勇気づけられましょう。私も本来、辺境男爵の次男にございますので、不調法などは何卒ご容赦いただきますよう」

「いやいや、密談には作法も上下もなかろう。気にしないで欲しい」

うん? なんかこの言葉、前にも聞いたような……

「それにしても陛下、我らのことを非常によくご存じで、改めて身が引き締まる思いでした」

「いやいや、商人たちから色々話を聞いてな。

まだ幼少の其方が蕪で領地を飢饉から救ったこと、

芋を求めて領内の食糧事情の改善に努めたこと、

遠く帝国南部やスーラ公国周辺から、穀物とサトウキビを求め、領内で作付けを行っていること、

どれも改めて聞いて、非常に驚くことばかりだった。

多くの者が其方の武勲にのみ注目しているが、領民の支えになる施策はなかなか評価されんものよ。

また我が国の香辛料を使った料理をいたく気に入ってくれたと、フレイムが早馬を寄こして来てな。

料理長に命じ、それらを融合した料理を出すよう指示していたが、気に入ってもらえただろうか?」

「はい、食材を見て陛下のお心遣いが心に沁みました。

私も早速配下の者に依頼し、再現できるよう香辛料を市場で買い付ける指示を出したところです。

それにしても、我らが米と呼んでいる穀物が、この国でも手に入るとは驚きました」

「わが国でも、南部辺境の山間部に住む民たちは、山を小さく切り崩し、ひとつひとつの面積は小さいが、斜面をうまく活用した耕作地を作り栽培していてな、このフェアリーでも少量ではあるが、そこの穀物が流れてきている」

おおっ! それって、段々畑か!

懐かしい日本の棚田の光景が目に浮かんだ気がした。

「私はこれまで、魔法優先のこの国で行き場を失っていた。

王位継承からも距離を置いていたのが、幼い弟や妹を祭り上げ、外戚として権勢を振舞うために暗躍する者たちも多く、それに我慢がならんかった。

そんな時隣国で、魔法士でもない貴族当主が配下の魔法士たちを糾合し、奇跡とも呼べる戦果を上げ続けている、そんな話を聞いてな。

まぁ、それに勇気付けられ、今回の王位継承について覚悟を決めたのだ」

「それはお耳汚しでした。

私自身、あくまでも個人的な考えですが、上に立つ者が魔法士である必要はないと思っています。

仮に一軍を率いる将が魔法士であっても、将が戦場で魔法を使用した結果、戦局が変わることなど、まずあり得ません。役割が違うと考えています」

「その通りだな。この国でもそれを理解しておる者が少ない。国王や領主が魔法を使い活躍する場面など、そうそうあるものではないわ」

「はい、カイル王国の貴族当主は、一部の例外を除き血統魔法が行使できますが、これまで何の役にも立たなかったことがその証明と言えます。

私自身、魔法士たちを守り、彼らに活躍の場を与えること、前線で彼らと同じ危険に身を晒すこと、平時の開発で彼らの魔法を活用すること、それだけを考えていました」

「おおっ! 正に我が意を得たり!

私自身も、ずっと同じことを考えていたぞ。

やはり其方と会って良かった、心からそう思う。

だがこの国では、魔法士こそが血統の証、正当性を示すものと考えている者が多くてな」

「心中お察しします。

特に、能力ではなく魔法士であることだけで、今の地位を得た者たちにとっては、自身の依って立つところがなくなります。それ故の反発もあるでしょう」

フェアラート国王は非常に嬉しそうだった。

同じ仲間が居ない状態で、この人もきっと孤独に戦っていたのだろう。

「いやいや、非常に愉快だ。

今日は其方と酒を飲み交わしつつ、肴に其方の武勇伝を聞くこと、これを楽しみにしていてな。

知勇兼備の名将の采配、話せる範囲で構わぬから、是非聞かせて欲しいものだ」

「いえいえ、些細な武勲でお恥ずかしい限りですが……、陛下、その前に一点だけ訂正があります」

そこで俺は誤解されていると思った内容を訂正した。

俺には剣聖の称号を持つ、知勇兼備の兄がいること、

内乱の鎮圧は兄が主役で、俺は局地戦の勝利のみであること、

論功行賞前は、2人ともソリス男爵であり、混同しやすいことを。

「ははは、もちろんダレク殿のことも知っておるよ。

だが其方は、剣も十分に強い。それも事実だ」

え? 知っていたの?

なら、どうしてあの狸爺から聞いた話になったのだろう。

「サラーム郊外の魔境での戦い、フレイムが度肝を抜かれていたぞ。

魔物に対する戦術もそうだが、非常に危険な魔物を前にしても、其方は全く動じる事がなかったと。

魔物との闘いに慣れ、相当な修練を積んでいない限り、ああはできんものだ、そう驚いておったわ。

グリフォニア帝国との戦いでは、敵軍の中に孤軍突貫し、戦果を上げたこともあったであろう?

並みいる猛者が集うカイル王国の学園では、剣技において今回も其方に付き従っている、うら若き女性剣士以外は、全く敵なしだったと言うではないか?」

げっ! 俺のこと全部筒抜けじゃん!

ってか、カーラのことまで知っているのかよ! なんか、やりにくいなぁ。

「いや……、よくそこまでご存じで。

逆にちょっと、背筋が寒くなる思いをしたぐらいですよ」

「こちらの貴族共が握っている情報は、その多くが偏見という煤で汚れ、見る方も受け取る方も目が曇っておったでな。私は何よりも正確な情報、これを大事にし、その価値も理解しているつもりだ。

其方に興味を持った時点で、私自身が直接指示し、改めて全てを調べ直した」

こう言って国王はにっこり笑った。

なるほど、敢えてこの話をしたということは……

これまでのカイル王国は情報がダダ洩れだということを、言外に教えてくれている訳かな?

「所で今回、是非聞きたいことがある。

近隣にまで響き渡ったイストリア皇王国の必殺の陣形を、其方はどう看破し打ち破ったのだ?

圧倒的、いや完勝と言ってよい勝利だったと聞くが」

「そうですね……

彼らの陣形(ダブリン戦術)とロングボウ兵の組み合わせは、守勢にあってはほぼ無敵の戦術、そう言って差し支えないと思います。

これに必要な要素として……

そしてこの陣形の根本的な弱点は……

それに対する対処として……」

俺は説明して差し支えない範囲で国王に説明した。

元々が軍人である国王は、それこそ思いっきり前のめりで、話に食いついて来た。

「なるほどな、無敵の戦法に加え、敵を誘い出す縦深陣の罠を組み合わせるか……

そして、それを今度は内乱鎮圧ですぐさま転用したとは、痛快であり見事だな。

私が話を聞いているだけでは、いささか心が痛むな。

信頼の証として、我が国の魔法兵団や他国との戦闘で採用されている戦術について話しておこう」

え? いいの?

俺は一瞬戸惑ったが、国王は本気のようだった。

「我が国の魔法兵団は500名の兵士からなり、200名が近衛騎士団に、300名は各有力貴族が管轄している。

その構成は主に……

攻め口として採られている戦術は主に……

そのため、弱点として……」

いや、そこまで言って構わないのだろうか?

そう思っていることが顔に出ていたのかもしれない。

「なに、カイル王国は名の知れた専守防衛を行う国、そして私が国王である限り、カイル王国と争うことは絶対にない。それを踏まえた上での話よ。

まぁ万が一、我が国の不平貴族共が反乱を起こし、私が貴国へ援軍を願い出た場合や、貴国に侵攻した場合など、普通なら起こらない筈の不測の事態、その際今の話を活用してもらえれば良いことよ」

えっ?

なんか……

思いっきり嫌なフラグ立てられた気がするんですけど、俺の思い違いですよね?

気のせいであって欲しい。

ただでさえ南で手一杯です。今度は西になんて……、俺は行きませんよ?

思いっきり焦る俺を前に、悪戯っぽく笑う姿を見て……

やっぱり、百戦錬磨、一国を預かる国王だ。

この人も立派な狸だ! そう思った。

「今日この日、私は新しい友を得ることができた!

大変有意義な会談を持てたこと、魔境伯に感謝する!

では明日、王宮で再会するとしようか」

そう言うと、扉が開きフレイム伯爵が跪いていた。

俺にとって、2人目の王様の『お友達』ができてしまった瞬間だった。

というか、もやは前回の歴史と全く違う方向に進み過ぎていて、正直俺は身震いしてしまった。