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作品タイトル不明

第二百六話(カイル歴511年:18歳)異国の王都

サラームの街から、フェアラート公国の王都までは騎馬で約3日の行程だった。

その間、同道してくれたフレイム伯爵とは色々な話ができた。

そもそも今回の王位継承には候補者が3名いたらしい。

20代半ばの第一王子だった現国王と、まだ10歳にもならない第二王子と王女を残し、先王が崩御した。

問題は継承にあたり魔法士が優先されるこの国で、正妃から生まれた第一王子は魔法士ではなく、それぞれ違う側妃から産まれた弟と妹が魔法士だったことに端を発する。

それぞれの側妃は有力貴族の娘であり、後ろ盾となった貴族同士、3つの派閥が王位継承を巡り揉めた。

魔法士でなかった第一王子は、当初から近衛師団長を務めており、次期国王を支えるつもりでいたらしい。

だが、国内が3つの派閥に別れ揉めだしたこと、隣国で非魔法士の貴族が、魔法士たちを率いて大活躍した話を聞き、遂に重い腰を上げ、異例の戴冠を行ったという。

これって……、俺のせいと言われても困るんだが。

ここに至って対抗していた2つの派閥が合流し、未だに国内は安定にはほど遠い状態らしい。

そのため、長年交流のあった隣国から特使を受け入れ、承認を受けることで即位を既成事実化したいのが狙いらしい。

一方、第二王子の母親の実家には火の復権派、王女の母親の実家には水の復権派が娘を嫁がせているらしい。

なるほど、彼らにとっても隣国の国王が縁戚ともなれば、それを後ろ盾に復権を狙うということか。

そして現国王に不満を持つ者たちにとっても俺の存在は、魔法士でもない癖に上位貴族に上り詰めた異端者、そう映っていると……

うわっ、とても面倒くさい話だ。

「王都にご逗留いただく間、万が一ご不快な思いをされることがあるやも知れません。

ですが、それらは決して公国の意思ではなく、不平貴族共の妄言でしかないこと、その点を平にご容赦ください。不埒者は責任を持って処罰いたします」

「承知しました。

私自身、その様な讒言には慣れております。

ですが、王国の名誉、私が率いる者たちの名誉を傷つける者に対しては、毅然とした対応を取らせていただくこと、予めご了承いただきたい。

貴国や現国王陛下に含む所はございませんので、その旨もしかとお伝えいただくようお願いします」

そう、今回はカイル王国の看板も背負っているので、その点だけは自重もするし、逆にやる時にはやらなくてはならない。

まぁフレイム伯爵自身、魔法士であり伯爵家の当主であり、近衛騎士団在団中は現国王の部下であり、色々立場は複雑なのかも知れない。

ただ、これまでの言動や行動を見ている限り、一貫して友好的な姿勢を取っており、現国王の意向も窺い知ることができる。

そんな話をしながら、俺たちは3日目の午後、フェアラート公国の王都フェアリーに入った。

フェアリーは河と河が交錯する中洲のような場所に建設されており、水運が盛んなようで水上を多数の船が行き交っていた。

城門を始め各城壁は堅固な石造りで構成されていて、中の建造物はどちらかと言うとアラブ様式に近いように思えた。

エランは王都の周りに無数にある石造りの橋に注目しており、時折り夢中でスケッチやメモを取っている。

何か思うことがあるのだろう。

「魔境伯ご一行がご逗留いただく場所は、王宮内にも用意がございますが護衛の兵の方が王宮内に入ることは叶いません。そのため、ご一緒に滞在いただけるよう、敢えて街中に宿を用意しております。

そちらでよろしいでしょうか?」

「フレイム伯爵のお気遣いに感謝します。

その方が助かります。なんせ、辺境の出身で堅苦しい宮廷作法は苦手でして……」

「ありがとうございます。

それでは私は、陛下へのご報告に参ります。

明日の午後、改めてお迎えに上がりますがその際同行いただくのは魔境伯以外で5名になります。

この点、何卒ご承知置きください」

そう言って、フレイム伯爵は俺たちが指定された逗留先の宿から去っていった。

この宿、改めて見ると相当高級な気がするけど……

しかも宿ごと全部貸切られているようで、同行した兵士250名、魔法士たちを含め全てが同じ宿だった。

兵士は50名を一単位とし、2隊が当直、1隊が待機、2隊を休息(自由行動)とし、交代で休息を取らせ王都内の観光も許可した。

ヨルティアは各隊の幹部を集め、改めてこの国の商取引の慣習を教えており、一方クレアは、彼らに兵士たちへの一時金を渡していた。

魔法士を含む俺たちも、この機会にフェアリー見学に出かけることにした。

クリストフとエラン、アラル、イサークは当直の一隊を率いて、万が一の際の退路や街の中の要所となる場所を視察に出ている。

ローザは俺の依頼で同行したダンケとウォルスに付き添われ、この国の王都にある過去王族の輿入れとともに設立された教会へと挨拶に出て行った。

ラファールは単独で諜報活動のため、王都の街へと消えていった。

俺は残ったクレア、ヨルティア、バルト、アウラ、シャノン、レイアの魔法士たち、そしてシグルとカーラを護衛に出発した。

3年と少し前、初めてカイル王国の王都に連れて行ったときは、緊張と不安で挙動不審だったシグルとカーラも、今では見違えるようになっている。

3年間で2人の剣技も完全に開花し、カーラは魔境伯領内で唯一、団長に対し勝てなくてもいい勝負ができるまで成長し、シグルも領内では上位に位置する。

この二人には一切観光気分はなく、常に片手を帯剣の上に置き、周囲に目を配っている。

そういう意味ではシャノンも音魔法で警戒し、レイアもいつでも閃光を出せるよう準備しているようだ。

その様子を見てふと思った。

アンは常に俺の傍らに居ながら、同様の目配りを行ってくれていたのだ。しかも俺が気付かないくらい、俺の相手をしながら、自然に行っていた。

今彼女がここに居ないからこそ、却ってその存在感を大きく感じた。

でも、よくよく考えてみると、俺とバルト、シグル以外は全員女性だよね。

宿の外で警護にあたっていた、フレイム伯爵の配下からは、同行を依頼されたが断ってしまったからな。

男女比のおかしい、奇妙な一行になってしまっていた。

まぁ……、仕方ないか。

奇異の視線は無視して、俺たちは自身の目的を果たすだけだ。

フェアラート公国王都フェアリー、推定人口約40万前後と言われ、市場には多くの産物が並び非常に豊かな国だということがわかる。

水運が発達しているためか、生鮮食料品もカイラールと比べ比較にならないほど多く並んでいる。

「タクヒールさま、この辺り、ちょっと変な匂いがしますね。魚が多く売られているせいでしょうか?」

「そうだねクレア、大きな河があるから魚も豊富かもしれないし……、ん? 干物も売ってるじゃん。

これって、海産物か?

カイル王国では干物は普通手にはいらないもんなぁ」

「タクヒールさまは干物もご存じなんですか?

私は海側に交易に出て初めて知りました。

海からここまで輸送してくるとなると、水運を使ったこの国の輸送力も侮れませんね」

「その通りだよ。

俺もこの国の王都を最初に見たとき、水上輸送に目を付けていたんだ。兵站にも水上輸送は使えるし、船を使えば前線まで大軍を一気に送ることも可能だ。

侮れないな」

「そうですね。途中で調査しましたが、国境に近い街サラームにも、船を使えば1日、そこから陸路を半日移動すれば到着できるらしいです」

「となると、この国は王都から俺たちの国境まで2日で軍を展開できることになるな。これは問題だな」

そう、カイル王国の場合、少数ならともかく軍団として兵士を国境に派遣するのに、どんなに急いでも最低5日はかかる。

兵力展開でも、補給線でもこちらの不利は明白だ。

「取り急ぎバルトには2つの調査を頼みたい。

一つ目は、水上輸送路の情報と、北の国との交易状況について調べておいてもらえるかな?

うまく商人たちから情報を引き出してほしい。

二つ目は、ここの農産物で珍しいものを買い集め、できれば種など開拓村で使えそうな物の収集をお願い」

「承知しました」

「それにしても、この国は毛織物も多いようですね。

どれもこれも鮮やかな敷物が多く、目移りしてしまいます」

「うん、ヨルティアはあの大きな敷物、絨毯を幾つか見繕っておいて欲しい。

俺の寝室と居間、そして迎賓館の貴賓室用に」

そう、屋内で靴を脱ぎ寛ぐ快適さを知っている俺には、ずっと苦痛だったことがある。

部屋で履物を脱ぐことができないことだ。

カイル王国の床は、基本木造りか石でできている。夏場はまだしも冬は非常に冷たい。

絨毯を敷き詰めれば、清掃は大変だろうけど、十分寛げる。

「わかりました。王国と同様、此方でも物価はサラームより高めですね。もちろん品揃えは豊かですが」

「まぁ、ここでの買い物は仕方ないよ。今回は割り切って、この先は信頼できる交易商人から買えばいい」

「タクヒールさま、フレイム伯爵配下の方々が……」

シャノンが小さく伝えてきた。

俺たちの背後に、目立たぬように後を付いて来ているらしい。

「それと、領民に扮装した目付きの鋭い者が何人か、交代で我々の買い物を確認しております」

まぁ、恐らくそれもフレイム伯爵の配下だろう。

俺が護衛を断ったからな……

「彼らも役目上仕方ないよね。目を瞑ろう。

領民に扮装している者は、引き続き警戒を。敵陣営の可能性もあるしね。俺たちは警戒しつつ、粛々と買い付けを進める」

このように、俺たちは市場を回り、興味のあるものを目立たない範囲で買い集めていった。

この時の俺たちの買い物が、翌日になって驚くべき結果となり、返ってくることとなる。