軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十二話:反乱軍攻防戦⑤ 矢継ぎ早に訪れる凶報

テイグーンで仲間たちが必死に戦っている頃、タクヒールはその情報をまだ何も知らずにいた。

東部国境の戦いに勝利し、事後処理も無事終えた彼らは、ハミッシュ辺境伯の旗下から一部守備兵力を残し、遠征軍は王都へ凱旋のための帰路についていた。

彼らの一行は、

王都騎士団第二軍(ホフマン軍団長)

王都騎士団第三軍(シュルツ軍団長)

ハミッシュ辺境伯(一部は国境に残留)

東部貴族援軍貴族(一部は国境に残留)

子弟騎士団参加者

勅令魔法士従軍者

から成っていた。

これらに加え、ソリス男爵軍(辺境騎士団第五軍選抜者)に旗下の魔法士たち、そして、成り行きで付いてきた捕虜(イストリア皇王国のロングボウ兵500名)たちだった。

五千名を国境の砦に残し、二万を超える一行は、ゆっくりと、そして堂々と王都に向けて進軍していた。

そして出発の翌々日、中軍を進むタクヒールは、テイグーンを発した急使と落ち合うこととなった。

「失礼いたします! ソリス男爵はいずこにおわすでしょうか? テイグーンより急報でございますっ!」

この使者の来訪で初めて、俺はテイグーンに訪れた災厄、ヒヨリミ子爵領より流れついた、疫病に感染した難民の件、それに対するテイグーンの仲間たちの必死の奮闘を知った。

「私がテイグーンを出立した際も、日々難民の数は増えておりましたが、首脳部の皆様は、それを受け入れ治療を施すなど、最善の努力を行っております」

使者の報告を聞き、皆の対応に感謝するとともに、申し訳ない気持ちで一杯になった。

この報告に接し、俺は少しでも早く領地に駆け付けるため、正直、王都をスルーして戻りたかった。

だが、単騎の移動ならともかく、軍として行軍するのは、主要街道を抜けるのが一番早い。

そうなると、どうしても王都を抜ける必要がある。

そのため、俺たちは一先ず凱旋軍に先行して、王都への道のりを急いだ。

焦る気持ちで歩みを進め、王都まであと半日、そう思った時だった。

進路上の街道が、王都騎士団第一軍の兵士たちによって封鎖されていた。

「ゴウラス騎士団長閣下直々の命により、ソリス男爵をお通しすること叶いませんっ!

数刻前に、閣下に使いを走らせておりますので、しばし、しばしこちらにてお待ちくださいませ!」

街道を封鎖していた、騎士団の指揮官が、申し訳なさそうに依頼してきた。

「……、えっと、意味が分からないんだけど。

それなら俺が騎士団長に直接会って話を聞くから、先ずはここを通して欲しい」

此方の緊急事態に、理由もなく押し留められるのは甚だ心外だった。

俺は思わず怒鳴りそうになるのを、何とか堪えた。

「我らも詳細は分かりかねます。

ですが、どうか、どうかこちらでお待ちください!」

この不毛なやり取りを数回繰り返した後、俺にもとうとう我慢の限界が来た。

「そこをどけっ! 俺は火急の用件で急いでいる。

お前たちの役目は分かるが、当方にも事情がある。

お前たちは、命に従い俺を止めた。

だが、俺がそれを聞かず強引に押し通った。

それでいいな?」

「横で話を聞いてが、私も納得できるものではない。

国を守り凱旋した英雄に対し、何たる振る舞いか!

理由もなく、先を急ぐ男爵への礼を失した対応、ゴウラス閣下は、一体何を考えておられるのかっ!」

俺の横で、もっと切れている人がいた。

俺たちと共に先行していたホフマン軍団長だった。

こうして、街道上で一触即発の状態となった。

双方、一歩も引かないまま睨み合いが続く中、慌てて此方に駆け寄ってくる騎馬が全員の視界に入った。

「待たれよ! 暫し、暫し待たれよっ!

ソリス男爵、御身に関わる一大事である! どうか、私の話に耳を傾けられよ!」

慌てて、ゴウラス騎士団長が此方に駆けつけるのを見て、街道封鎖の指揮官は安堵のため息を漏らす。

「一体何事ですかな?

騎士団長自らがお越しになるとは、並々ならぬお話と推察いたしますが……」

シュルツ軍団長の言葉を受けても、荒い息をした騎士団長は、返答のため息を整えている。

余程急いでここまで駆け付けたのだろうか?

それが分かり、俺は言いようのない不安に包まれた。

「その通りじゃ!

ソリス男爵、卿は今、王都に行ってはならん!

行けば必ず足止めされる。時間は取らせぬゆえ、先ずはクライン閣下の伝言を、聞くがよかろう」

そう言うと、俺とホフマン軍団長、シュルツ軍団長は、近くへの 東屋(あずまや) へと誘われた。

「今王都では大変なことになっておる。

ゴーヨク伯爵より、陛下並びに王都の主要貴族たちに向けて、緊急の 注進(ちゅうしん) が発せられた。

南部辺境の不平貴族たちが結託し、反乱を企図しており、グリフォニア帝国の軍勢を引き入れようとしていると」

「なっ!」

「なんとっ!」

「はぁっ……」

両軍団長は驚きの声を上げていたが、俺はため息を付くしかなかった。

また、陰謀ごっこか……

此方は戦地で戦っていると言うのに……

「まだ続きがある。

ゴーヨクめはそれを知り、王国の一大事、緊急の事態ゆえ軍を起こし、その回避に当たり以って王国への忠誠を示すと言って来よった。

奴の手紙には、反乱の首謀者として、ハストブルグ辺境伯、ゴーマン子爵、ソリス子爵、コーネル男爵、そして其方ら兄弟の名が記されておったのじゃ。

馬鹿な話と思うであろうが、既に事態は動いておる。

王都ではクライン閣下がただ一人、矢面に立ち其方らを庇ってあるが、大勢は復権派のバカ共に傾いており、非常に厳しいと言わざるを得ん。

そうなれば、ことの正否が明らかになるまでは、其方は王都に留め置かれ、領地への救援もままならぬようになってしまう。

なので、今其方を王都に入れる訳にはいかんのだ!」

「馬鹿なっ!」

俺と2人の軍団長、3人の声が被った。

「男爵が我らと共に、東国境で命を賭して戦い、王国の勝利に最も貢献したのは、我らが知るところだ!」

「王都の連中は、一体何処に目を付けてやがるっ!」

シュルツ軍団長、ホフマン軍団長がそれぞれ怒りの声を上げた。

「家名を以て、正式に行われた注進である以上、それなりの対応が必要になる。そういう事ですか?」

「ソリス男爵、口惜しい気持ちは我らも同様だ。そして、その通りだ。

奴らは小賢しくも、其方からグリフォニア帝国へ送られたという親書を、証拠として提出しておる。

これに復権派が乗じて、騒ぎ立てていてな。

勿論それを証拠として鵜呑みにする訳にはいかんが、真偽を確かめる時間を取られてしまうだろう。

その間に、我々は貴重な時間を失ってしまう……」

奴らは、そんな偽物の証拠まででっち上げ、事に臨んでいるということか。

間違いでした、で済む問題では既にない。

「私がクライン閣下より賜った伝言を伝える。

ソリス男爵、其方は凱旋の途上で領地の危機を知り、急遽軍列を離れ、いずこかへと消え去った。

我ら騎士団や辺境伯の知らぬところでな。

王都騎士団は、ことの経緯が判明せぬ間は動けんが、何も事情を知らぬ騎士団第三軍は、戦場で得た戦訓を忘れんよう、凱旋前に少し寄り道をして王国南部、ハストブルグ辺境伯領の手前まで、行軍演習を実施することになった。

その際、手違いで、騎士団の中にたまたま所属の異なる者が紛れ込んでいたかも知れない。

今は、取り急ぎそういうことで良かろう?」

なるほど。

俺は今、容疑が確定していないが、重要参考人として指名手配されている。そういった所か。

だが、王都騎士団に紛れ込んでいれば、どこでも自由に通過することができ、訝しがられることもない。

「ご配慮ありがとうございます。

危急を知らせていただいたクライン閣下にもよろしくお伝えください。

これより直ちに出立いたしますが、それに当たりお願いがございます。

子弟騎士団への対応と、王都までの引率をお願いします。あと当家以外の勅令魔法士と捕虜たちも」

「我ら騎士団第二軍が責任を持って預かる。

だが、捕虜たちは連れて行ってもいいんじゃねぇか?

嬢ちゃんたちにかなり懐いているし、この際だ。イザという時、500名の兵力は大きいぜ」

俺はホフマン軍団長の提案を喜んで受けた。

戦いに出さないまでも、はったりの予備兵力としてであれば、十分期待できる。

そして、出発前にもうひとつやっておきたい事があった。

「ゴウラス閣下、クライン閣下への内々の伝言を、お伝えいただくことは可能ですか?

今、証拠と取り沙汰されている、私が送った親書が偽物であるという、証拠をお預けしたく思います」

「偽物である証拠だと?」

「はい、誰の目から見ても偽物である、そう理解できる証拠です。

これで王都で騒ぎ立てている、復権派の奴等の口は静まりましょう」

そう言って俺はゴウラス騎士団長にだけ、秘事を打ち明けた。

これまで、俺が男爵になって以降発した、全ての公文書に仕掛けられている秘密を。

騎士団長は唖然として、こちらを見て口をパクつかせた。

「其方、そんな前から周到に準備を……

だが、それであれば対処は簡単だ。クライン閣下も目を丸くして驚かれるだろうな。

後は任せてもらおう」

俺の中でも恐らく、これで解決すると思っている。

だが、そんな偽物まででっち上げ、ここまで騒ぎ大きくする理由はなんだ。

何か、もっと大きな、得体のしれない企みがあるのではないか?

改めて俺は警戒を深め、用心することにした。

出発前、ハミッシュ辺境伯にも状況を共有し、子弟騎士団たちにも説明と口裏合わせを依頼した。

そして俺たちは、凱旋軍から離脱し、王都騎士団第三軍と共に急ぎ南部辺境域へと行軍を開始した。

なお、子弟騎士団の一部には、俺たちに同行すると言って聞かない者たちが、300人ほどいた。

「ヴァイス団長のお傍に!

我らの心は、既に傭兵団の一員です。何卒!」

こう言って、ゴウラス騎士団長を辟易とさせ、騎士団長は全て自己責任、そう言って折れた。

そしてもう一人。

「今回は僕らの領地を守るため力を貸してもらいました。今度は、少しでもお返しがしたいので、良いですよね?」

東部辺境の男爵家次男であり、勅令魔法士で風魔法を行使するアレクシス・フォン・バウナーだった。

こうして領地を救うため、さらに南部辺境の同胞貴族に対する援軍部隊として、1,000名の者がテイグーンを目指し移動を開始した。

こうして俺たちは、急ぎテイグーンへ向けて歩みを進め、王都騎士団第三軍の随伴を受けて、ハストブルグ辺境伯の領地に入った。

ここまで随行してくれた彼らは、騎士団所有の補給物資を 俺達(バルト) に預け、引き返していった。

そして翌日、ハストブルグ辺境伯の領都、ブルグの街まで半日の所まで進軍するに至り、俺たちは真の、最大級の凶報に接することとなった。

「ヒヨリミ子爵叛す!」

彼が旗下の軍勢を率い、エストール領へ向けて進発したという情報がもたらされた。

ゴーマン子爵領、コーネル男爵領も、それぞれゴーヨク伯爵配下の貴族に、攻撃を受けていることも。

更にハストブルグ辺境伯軍は、ブルグの街より北方に進出、そこでゴーヨク伯爵率いる反乱軍と対峙していることも。

これらの凶報が、俺たちのもとに一気に入ってきた。

「これが歴史の反撃か! 極めつけ過ぎるだろう!」

俺は目の前が一気に暗くなるのを感じた。

歴史の流れが、これまで失った得点を一気に取り戻そうとしてきている。

どうすれば良いんだ……