軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話:世界の涙・後

ええ、フラスコの首の太さよりも大きな魔石ですからね。

仕方がないのでハンマーでフラスコを壊して取り出すことになりました。

このフラスコ、魔素遮断コーティングとかで金貨数枚する高価なものですけど仕方ありません。

ガシャンと砕いたフラスコから取り出したのは、まるで苺か小さめの卵のような大きさの魔石。自重で垂れていたせいでしょうか。普段のほぼ完全な球体ではなく、涙滴の形をしています。

全体は薄い水色。まだカットしていないのに内包魔力が大きすぎて、自ら光を放つようです。

「世界の零した涙のような……」

呟きが漏れました。恐る恐る摘めば、しかと宝石とは思えない重さを感じます。硬貨数枚分はあるでしょうか。

レクシーが天秤を用意してくださいましたのでそちらにのせます。

「……24g強って言うと、えーと」

「120カラットの原石ですわね。カットにもよりますが、形をそのまま生かすなら100カラットは優に超える宝石にできるでしょう」

宝石とは違って、魔石は原石から大きく削ることはまずありませんからね。

「100カラット魔石か……文献にあり、現存するもので世界に10個あったかな?」

オリヴェル氏は楽しそうに言います。

古竜の心臓、歴代の魔王、踏破されたダンジョンの核。墜ちたる天の星。超巨大魔石の存在は伝説や物語に多く残されていますが、それらは使用されたり、奪われて歴史の闇に消えたりしていますから。

もちろん、文献に残っていない秘されたものが他にもあるでしょうけど、どちらにしろ世界規模で見ても限られたものです。

「どうする?」

「まずは箝口令を。これについて口にしない、勝手にこれを試そうとしない」

「それはそうだ」

「オリヴェル様が一番心配ですけどもね」

「心外だな。 絶対にやる(・・・・・) とも。ちゃんと君たちの前でやるから許可をくれ」

わたくしは頷きます。まあ、そうですね。どのみちわたくし以外にも試して貰わねばなりませんし。

「宝石職人を組織に引き込まないといけませんね。これのカットを外部に発注したらどんな騒ぎになるか……」

みなさんうんうんと頷きました。

「それで、できたものはどうするのです?」

わたくしはしばし考えます。

「……教皇領、隣国のさらに先ですが、教皇猊下に寄進しても良いでしょうか?」

「ミーナの作った魔石だ。君の自由で構わない」

「へえ? 意外だな。あまり信心深いとは思っていなかったが」

そうですわね、確かにそういった様子を見せてはいませんか。

「天にまします至上の神への信仰に対して、下界での争いごとを持ち出すのは信者として相応しくないと自分自身でも思うのですが……、この国における教会のトップであるヨハンネス枢機卿が嫌なのですわ。だからかつて貴族令嬢であった頃に行っていた慈善活動も寄進も今はやめているというだけで」

ああ……、とレクシーがうめきます。

わたくしは、婚約破棄の日のことを語りました。ヨハンネス枢機卿がエリアス殿下からどういった密約を交わしたのかは不明ですが、彼にその場でレクシーと結婚させられたことを。

「……もちろん、結果だけ見ればレクシーは良い旦那様で、わたくしは幸せですわ。でもそれとこれとは別です。せっかくの結婚の祝福もとても雑に行われましたし」

オリヴェル氏は面倒そうな表情を浮かべました。彼も教会や王国からの横槍は必ず入っているでしょうからね。

「なるほどな。寄進しても良いのではないか? 実際、当社は今はまだ利潤を得ていないことになっているが、来年はそうではないのだろう? 莫大な利益を得ているとなれば、教会も国もうるさくなる。その時に後ろ盾があるのは良いことだ」

「もちろん、そういった意図もありますわ」

こうして年末から翌春にかけて 梨型(ペアシェイプ) や 涙滴型(ドロップ) にカットされたこの魔石は、106カラット。それを手にした時のわたくしの呟きを取って、“ザ・ティア・オブ・ザ・ワールド”と名づけられ、教皇猊下の元へと運ばれていくことになったのです。

また、この魔石の作成方法は秘されましたが、この後も主にわたくしとオリヴェル氏によって何点か作られることになります。ただ、サイズに関しては教皇猊下に敬意を表し、今回捧げた100カラットを超えるものは作らないことと決めたのでした。