軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第71話:世界の涙・前

――数ヶ月前。冬。

わたくしたちは住んでいる屋敷の隣家も買い上げ、こちらはA&V社の所有としました。

民家そのままの外見ではありますが、会議室、研究室、開発室、金庫に魔石や書類の保管所……そういった施設へと変わっています。

今日は週に一度の定例の会議。といっても、参加者は開発部門としてレクシー、魔術部門としてオリヴェル氏、そして経営部門としてわたくしというメンバーなのですが。各部門より一人ずつ補佐ということで、レクシーの部下である研究者と、オリヴェル氏のお弟子さん、わたくしの補佐のヒルッカがいますから、6人での会議ということになりますね。

「天然魔石と人工魔石の差異についてですが、魔素集積装置を使って作られた魔石と天然の魔石を見分けられる鑑定士はいませんでした。一方で当社で人工魔石を見続けている鑑定士であれば魔素結晶化装置に人為的に魔力を流して作ったものは見分けることがほぼ可能です。ただ外部の鑑定士は特に違和感を感じないようです」

レクシーの部下の方が調査結果を発表しています。

オリヴェル氏が頷きます。

「妥当な結果だね。属性の単一性に気付くかどうかというものだ。天然のものは自然の多様な魔力を内包しているからな」

「例えばペリクネン領のエスポワ北ダンジョンは地属性魔石として有名ですが、やはり他属性も混ざっていますか」

わたくしがかつて住んでいた付近のダンジョンの名を出して尋ねると、オリヴェル氏は得意げに続けます。

「それはそうさ。これは魔術士としての意見だけど、属性が異なる魔石を魔術士が使用した場合、その魔石が内包する本来の魔力量から魔力に変換できるのは5割程度だ。自然石だと属性が噛み合っていても8割と言われる。僕のような雷属性の魔石なんてまず無いけどね!」

自然の中で雷の魔力が蓄積されることはまずありません。魔鉱にたまたま雷が落ちるか、珍しい雷属性の魔獣の魔石か。

オリヴェル氏がずいっと身を乗り出します。

「それがだよ。僕が作った魔石から僕が魔力を使う場合、その変換効率は間違いなく9割を超える。しかも魔素変換による体力の消耗もないんだ。それはそうだよね、変換してないんだから。これは画期的なことだよ!」

その言葉にレクシーが笑いました。

「つまり、もうちょっと僕の魔石を自分用に多く確保したいと」

「そうさ!」

なるほど、そういうおねだりでしたか。

オリヴェル氏と彼のお弟子さんたちからは、給与を減らして、あるいは別の対価を支払ってでも自分の作った魔石をより多く手元に確保したいとの陳情が寄せられますからね。

その取り分を増やし、代わりの払いをどうするかという相談がなされて、会議は一旦休憩に入りました。

「それにしても少し寒いですね」

外を見ればちらちらと降る雪。僅かに積もった雪で子供たちが雪玉を作り、それをくっつけて小さな雪だるまを…………ん?

ふとした閃き。

あまりにもひどい発想。

笑って震えてしまいそうになる声を抑えて、ヒルッカに声をかけます。

「ヒルッカ、屋敷の金庫から納品予定のないわたくしの魔石を持ってきてもらえる?」

お茶の用意をしようとしていたヒルッカが顔を上げます。

「畏まりました、奥様。センニ、お茶は任せます」

「はい!」

そう言って部屋を出ていきました。レクシーが尋ねます。

「どうした?」

「ちょっと実験を思いつきました」

実験、その言葉を聞くと4人の顔が輝きます。ふふ、みな研究者ですわね。

わたくしの目の前にはミーナ13号。そしてヒルッカの持ってきてくれた宝石箱にはわたくしが2日に1つ、欠かさず作っている魔石。販売に回したり研究に回したりしているため、大半はここにはありませんが、それでもまだ20個以上が手元に残っています。

わたくしは自身の魔力の色である水色の魔石を左手で摘むと、ミーナ13号の取手に右の手を置きました。

「あ……」

レクシーの目が見開かれ、口から声が漏れます。

わたくしは右手から魔力を放出しました。同時に左手の魔石から魔力を吸収していきます。

左手の魔石が砕け散りました。

「次を」

ヒルッカがわたくしに魔石を手渡します。

「はははははは!」

オリヴェル氏が笑い出しました。わたくしも笑みを浮かべます。ミーナ13号のフラスコの中で、魔石がどんどんと大きくなっていきます。

再び魔石が砕けました。

魔力を使い切った魔石は砕けて風化しますので。

「次を」

ヒルッカが驚愕の表情で次の魔石を手渡しました。

「ひええぇぇぇ」

レクシーの助手の方が悲鳴のような声を上げます。

「次……」

こうして大半の魔石を砕き散らせた頃。

ごとり。と重い音と共に魔石がフラスコの床に落ちました。

魔石を作る機構の部分から自重で落ちてしまいましたね。

息を詰めて見ていた皆が、揃ってため息をつきます。

「奥様、失礼します」

ヒルッカがわたくしの額に吹き出た汗を拭ってくれました。

「素晴らしい発想です、僕の女神よ!」

「僕のではありませんし、女神でもありませんわ。むしろレクシーの発明品にここまでの可能性があるということでは」

オリヴェル氏はレクシーに抱きつきました。レクシーは嫌そうな表情でそれを引き剥がし、こちらに声をかけます。

「それよりミーナ、体調は?」

「僅かに疲労感といったところでしょうか。痛みや魔力欠乏などの自覚症状はなし。一応後でお医者様に診てもらおうとは思いますが、おそらく心配するようなことはありませんわ」

そう言いながらフラスコを引き寄せます。

蓋を取って……。

「……出せませんわね、これ」