軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第50話:お茶会

「まあ、サーラスティ様、よくお越しくださいました」

わたくしは淑女の礼をとります。本日は屋敷へとお客さまをお招きしたのです。

馬車から降りてきたのはミルカ・サーラスティ伯爵令嬢、かつて親しくしていた友人ですわ。

彼女は侍従に手を引かれて馬車のステップを降りると、私の元へと駆け寄りました。

「おやめになってヴィルヘルミーナ様! わたし、ヴィルヘルミーナ様にそんな態度を取られてしまったら悲しみに胸が張り裂けてしまいますわ!」

「ふふ、わたくしはもう平民なのですよ」

「構いませんわ、昔のようにミルカと」

「はい、ミルカ様」

「もう、様もいりませんのに。今日はお招きいただきありがとうございます」

彼女もわたくしに淑女の礼をとって下さいました。

その後も馬車が数台。ミルカ様たち、かつてのわたくしの友人たちの中で特に親しかった人たちをお招きしたのです。

招いたのはお茶会のため。ただ、招待する方は厳選しております。

屋敷ではあるとはいえ、地位を褫奪され平民となった者の家に招かれて喜べる方、悪意ある噂を撒くような人柄ではなく、口の固い方。

最初はわたくしの友人たちを。いずれは弟のくれた紹介状も役立つことでしょう。

つまり、貴族社会への足場を作るのです。

「こぢんまりとしていますが、管理の行き届いた素敵なお屋敷ですわ」

「ねえ、本当に。使用人の方達も素晴らしいですし」

「お紅茶もお菓子のカヌレも美味しいですわ」

みなさま口々にお褒めくださいました。お茶もひと段落した時、わたくしは本題を切り出します。

「わたくし、商いに手を出していますのよ。元貴族令嬢としてはしたないことなんですけども」

「それは……ヴィルヘルミーナ様が卑下するようなことではありませんわ」

ミルカ様がおっしゃいます。

「そうですよ、わたしなんかではきっと没落したら失意のうちに儚くなってしまいますわ」

「そして成功されているのでしょう? 素晴らしいご手腕ですわ」

「ふふ、商いもまだ始めたばかりですわ。ねえ、ご興味おありになります?」

みなさま頷かれます。

わたくしが手を挙げると、部屋の隅に控えていた使用人が頭を下げ、隣室からサービスワゴンを押してきます。

ワゴンの上には金細工で蝶の舞う様が精緻に描かれた箱。箱には魔銀を加工した銃把のような取手が取り付けられています。完成したミーナ12号改です。

「旦那様が発明したものですわ」

「まあ、素敵な細工ですわね」

ミルカ様が「触っても?」と求められたので頷きます。

「ふふ、旦那様が作っているのはこの中身ですけどね」

「これは何をする道具なのかしら?」

「知りたいですか?」

みなさま頷かれます。

「絶対に秘密ですよ」

頷かれます。

「秘密がバレると、わたくし殺されてしまうかも」

「そんなにですか!?」

「それだけ旦那様の発明が素晴らしいのですわ。ちょっと実演してみましょうか。ねえミルカ様、ちょっとお小遣い稼ぎにご興味はあるかしら?」

「お小遣い……興味はありますけど危険なのはダメですわ」

ちょっと頬を赤らめて答えます。

あらあら、何を想像されたのかしら。まあ没落貴族の令嬢や妻にはよくあることかもしれませんわね。

「危険など全くないと誓いますわ。ちょっとしたお遊びのようなものですの。ミルカ様、こちらを持ってくださる?」

箱を机の上に置き、ミーナ12号改の取手を握って貰いました。

ミルカ様は慎重に取手を持ちます。周りの人たちも興味深々なご様子。

「魔力を込めてくださる?」

そう、ミルカ様も魔力をお持ちなのです。中位以上の貴族はだいたいがそれなりの魔力を有している。そして令嬢たちはそれを使うこともなく一生を終えます。ただ、次代に魔力を継ぐために。いつか偉大なる魔術師が家系から産まれることを期待するだけのために。

ーーチリン。

箱から鈴の音が鳴りました。魔石ができると音が鳴るようになっています。

わたくしは箱を受け取って引き出しとなっている下部を開けます。少し赤みがかった火属性を内包した魔石。1カラット程度の大きさですかね。わたくしが作るよりは小さいですが、やはり平民たちが作るものよりは格段に大きい。

「魔力を魔石化する発明ですの」

「まあ!」

魔石が令嬢たちの間で回されていきます。

一周したそれをわたくしは回収し、宝石箱へとしまいます。

「はい、お小遣いですわ」

わたくしは金貨を1枚取り出します。だいたい現在の流通において1カラットの未加工魔石を仕入れる値の半額くらいでしょうか。

それを綿の小さな巾着袋に入れてミルカ様に手渡します。

「あら、わたしったらお金を稼いでしまいましたわ!」

「あら!」

ミルカ様はとても嬉しそうなご様子。

そう、貴族令嬢は自分のお金を持っていないのです。

それは、全て後払いで家へ請求が来るためですわ。その支払いも基本的に家令か執事が処理するもの。

「ねえねえ、わたしにもできまして?」

他の方々も興味深々といった様子。ええ、もちろんです。そのために集めたのですから。

みなさまがお小遣いを得て喜んでいる後に、わたくしはそっとカタログを取り出します。

「もしよろしければ、それで買えるようなものを用意していますわ」

そう言ってカタログをお見せします。今日のお菓子のカヌレ、ちょっとした刺繍の入ったハンカチ、平民の間で人気の恋物語の本、平民風の髪留め、異国の耳飾り、男の子用の騎士の人形……。

どれも銀貨で買える程度のもの。つまり、お土産を何種類か選べるということですわね。

もちろん友人でしたし、彼女たちの好みは知っています。例えばミルカ様は歳の離れた弟がいらっしゃいますから、やはり騎士の人形にも興味を示されました。

こうして彼女たちは馬車にお土産を載せてほくほく顔でご帰宅なされたのです。