軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話:王太子の呼び出し

「エリアス殿下。本日のご予定でございます」

朝、侍従長が今日の余の予定を読み上げていく。

余の自室に長々と彼の声が続いていく。……くそが。

なすべき仕事や公務、予定は増える一方だ。先日の園遊会での失敗で余の方にも礼法の再教育の時間がとられるようになったのもその一因である。

「午後はイーナ嬢と王立孤児院の視察……」

イーナとは礼法の授業やこうした視察で一緒に行動することはあるが、休む時間も取れない。

以前は抗議もしたものだが、もはやその気力もおきない。

その分だけ予定が遅れ、眠る時間が遅くなるからだ。

「……イーナの教育はどうだ」

「マデトヤ嬢の教育は進歩こそすれど、その歩みは亀が如しと女官長からは報告があります」

分かっている。公務として彼女を伴って出ることを許されるのは孤児院や王都近郊の農場など礼法を必要としないところばかり。

例えば外での会食も非公式、あるいはお忍びといった形式のものであり、社交シーズンの真っ只中であっても晩餐などの高位貴族も集まるような正式な場、あるいは舞踏会といった華やかな場に出ることを禁じられている。

「どうしてだ、どうしてそんなに時間がかかる……」

余は女官たちに朝の支度をさせられながら呟く。

「そんなにも彼女が愚かであるというのか? あるいは女家庭教師どもが邪魔だてしているのか?」

余の呟きは誰かに向けたものではなかったが、侍従長は応えを返した。

「マデトヤ嬢に対して好意的な感情を有している女官や教師はいないでしょうが、それでも王太子殿下の、あるいは陛下よりマデトヤ嬢の教育を命じられている以上、その教育に手抜きや邪魔をしているなどとということはございません」

「では彼女が無能であると?」

侍従長は視線を外す。

「彼女は私も会話を交わしたことがあり、多少変わった御令嬢であるかとは思いますが、決して愚鈍ではありませんな」

「ではなぜだ」

「それこそが貴賤の違いにございます。平民でも功を成し、金を積めば一代で成り上がれる男爵子爵と伯爵以上の階級の間ではそもそも教育の種類も違いますれば」

余はため息をついた。

「そんなにも違うか」

「ええ。エリアス殿下の周りの女性たちは全て伯爵より上の家格の令嬢や夫人・未亡人ですよ。殿下の髪を今梳っている侍女ですらそうなのです」

余がちらりと侍女を見れば、伯爵家の三女であると肯定された。

侍従長の視線から非難を感じる。言いたいことは分かっている。侍女たちが家格の低いイーナに仕えさせられていることを不満に思っているのであろう。

しかし彼はその件には言及しなかった。

「それが故に異なる礼法や言葉遣いのマデトヤ嬢が新鮮に映ったであろうことは想像に難くありませんが」

ふむ、そういった側面もあるやもしれぬな。

「それこそヴィルヘルミーナ嬢のような公爵令嬢ともあれば、自国あるいは近隣の国家の王族と婚姻する可能性があるために生まれた時からそう育てられているのです。あの才女の15年以上の努力をマデトヤ嬢が数ヶ月で追いつくというのは難しいでしょうな」

余は父の言葉の真意を知った。

次代の国王夫妻として相応しくないと判断されたら破滅を招くと言っていた。つまりそう言われた段階でもう相応しくないと判断されたということだ。

だがそれを受け入れるわけにはいかない。

余はイーナの手をとったのだから。あらゆる手段を以て彼女を認めさせねば。両親に、貴族に、聖職者に、民に。

「……ヴィルヘルミーナはどうしているか報告はあるか」

「彼女の夫であるアレクシ・ペルトラ氏ですが王立研究所を退職したという報告が上がっております」

「なぜだ」

彼は勲章を授与される程度には有能な研究員であったはずだ。

「研究所の報告によると、理由は不明ですが本人から突如辞職の意思を伝えられたとのことです」

「辞職の理由は想像つくか?」

「推測にはなりますが、研究所で上司や他職員から嫌がらせを受けていたとの報告があります。少なくともそれが原因の一つではあるかと」

ふむ……。

「次の仕事は?」

「辞職前から夫人と共に王都の中央で銀行や商家の者と面談していることがあるようですが、どこかに雇われているという報告はまだありませんな」

なるほど……いや、これは好機なのではないか?

収入を失った一家、困窮するヴィルヘルミーナを余が助けるのだ。処刑すべきところを慈悲もって許したということとも矛盾しない。

そしてかつてあの女が余の仕事の補佐をしていたというなら、改めて余の仕事をやらせ、またイーナの礼法を補佐させれば良い!

「ヴィルヘルミーナを呼べ」

「は?」

侍従長が間抜けな声を漏らす。

「あの女を王宮に呼び寄せよ、余の仕事を補佐する栄誉をくれてやろう!」