軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不思議なくらいに

「ルーファス、今日は来てくれてありがとう」

「ああ」

「大切なお休みなのに、付き合わせちゃってごめんね」

「いや、大丈夫だ」

それから3日後、私はルーファスと向かい合って座り馬車に揺られていた。すぐに手紙の返信を書き、私はいつでも大丈夫だと伝えたところ、彼の休みである今日になったのだ。

私たち二人が一緒にいては、間違いなく人目につく。だからこそ、知り合いがいない所が良いだろうとルーファスが選んでくれたのは、王都を出てすぐの小さな街だった。そこで一日、彼とのんびり過ごすことになっている。

ちなみにティムはというと、馬に乗り後方から付いて来てくれていた。一緒に馬車に乗れば良いのに、と言ったところ「馬に蹴られたくはないので」という返事が返ってきた。どういう意味だろう。

「今日ね、すごく楽しみにしてたんだ。昨日はワクワクしてあまり眠れなかったくらい」

「……そう、なのか?」

「うん」

先日、街中でノーマンの身体を乗っ取った男に襲われてからというもの、こうして遊びに出かけるのは初めてだった。

正直不安はあったけれど、ルーファスと会った瞬間そんな気持ちは吹き飛んでいた。彼といると、ほっとする。

「それに、ルーファスとこうして出かけるのは大司教の、」

「…………」

そうして何気なく、最後に彼と出かけた日のことを口にした私は、そこまで言って慌てて口を噤んだ。あの晩のことを思い出してしまい、顔が熱くなる。

思わず「ごめんなさい」と呟けば、顔が赤いルーファスもまた「すまない」と呟いて。なんとも言えない気まずい空気が流れる中、私は何か別の話題をと頭を必死に回転させる。

「あの、ルーファスは何でも似合うね。格好いい」

今日はあまり目立たないよう、お互い軽装で。私は裕福な平民の女の子がテーマらしく、ハーラはシンプルながらもとても可愛くしてくれた。

ルーファスはと言うと、シンプルな服装でも高貴さが滲み出ていて、とても平民には見えない。けれどいつも会う彼は正装か騎士服だからこそ、今日の彼は堅苦しい感じがなく、本当に遊びに行くのだという感じがする。

「……お前も、かわ、」

「かわ?」

「か、川が好きだった、ような」

「ええと、私はあまり行ったことがないから普通かな。も、ってことはルーファスは川が好きなんだね」

「……………そうだ」

ふと窓の外へと視線を向けると、川と呼べるか怪しい水がちょろちょろと流れている。どうやらルーファスは、川が好きらしい。

私は彼のことを何も知らないなと改めて思いながら、今日は色々な話を聞けたらいいなと思った。

「今日は、よろしくお願いします」

「ああ」

そうして、私達の一日は幕を開けた。

◇◇◇

やがて目的地へと到着した私達は、ルーファスの案内のもと、街中をのんびりと散策することにした。

小さな古びたお店が立ち並ぶ商店街では、皆通りがかる私達にも気さくに声をかけてくれて、嬉しくなる。悪評が流れすぎている王都では、あり得なかった光景だった。

何もかもが新鮮で、つい浮かれてしまう私を見て、ルーファスは不思議そうな表情を浮かべている。

「歩いているだけで、そんなに楽しいのか?」

「うん。すごく」

「……そうか」

そう言って目を伏せた彼はとても悲しげで、またもや気を遣わせてしまったと反省する。この程度で喜ぶような暮らしをしていたことを、気の毒に思ってくれているのだろう。

「何か欲しいものは?」

「欲しいもの……ねえ、あのお店見てもいい?」

「ああ」

そうして、ふと気になった雑貨屋へと足を踏み入れた。店内に入った瞬間、不思議な良い香りが鼻をくすぐる。

店内は狭いけれど所狭しと商品が並んでいて、どれも珍しいものばかりで胸が弾む。ルーファスの隣で可愛らしい人形に見惚れていると不意に、背中越しに声をかけられた。

「おや、デートかい。お似合いだねえ」

「えっ?」

振り返った先には、店員らしきおばあさんがいて。他人から私達はそんな風に見えていたのかと、恥ずかしくなる。

ルーファスも否定をしなかったため、私もなんとなくそのまま笑顔を浮かべて誤魔化してしまった。

「何か探してるのかい?」

「この街に来た記念? になるものとか、ありますか?」

「記念? まあ、若い男女に人気なのはこれさね」

そう言っておばあさんが指を指したのは、可愛らしい色違いのペアのネックレスだった。

この街の近くで採れるらしい色違いの石は、窓から差し込む日の光を受けて輝いており、とても綺麗で。じっと見ていると、ルーファスに「欲しいのか?」と尋ねられた。

「その、素敵だなって思って」

「分かった」

すると彼は当たり前のように二つ手に取り、そのまま支払いを済ませ、ひとつを私に手渡してくれた。

「あ、ありがとう……!」

「ああ」

「もしかして、ルーファスも着けてくれるの?」

「嫌か?」

「ううん、むしろ嬉しい。本当にありがとう」

もしもルーファスが何かを買ってくれた時には、お金を払うなんて言わずに「ありがとう」と言って受け取るだけでいいと、ティムから言われていたのだ。

「……嬉しい、なあ」

ぎゅっと赤い石のついたネックレスを握りしめる。不思議なくらい、本当に嬉しかった。胸の奥が温かくなっていく。

「二人で身に着けていると、結ばれるって話があるんだよ」

おばあさんのそんな言葉と共に店を出た私達の間には、やはりなんとも言えない空気が漂っていた。